8月22日-10
小月はアタシのせいで巻き込んだ人間だ。
アイツは感謝しているかもしれないが、正直、あの時トラックに轢かれた方が楽に死ねたと思う。
魔神に遭う事だって無かったはずだ。
化物に殺されかける事も無かったはずだ。
怪物…オトアと対峙する事も無かったはずだ。
狐狩りに参加する事も……無かったはずだ。
小月はアタシが裏の世界に巻き込んだ人間だ。
本来は、アタシが気を遣うべきなのだ。
だけどアタシには気の遣い方なんて分からない。
だから力を使って守ろうとした。
でもそれもキッチリ出来ていないだろう。小月が機転を利かせてなかったら、アタシは小月を守り切れてなかっただろう。
それどころかアタシは小月に気を遣われている。
それにアタシも甘えてしまっている。
でもそれは駄目な事なのだ。アタシは小月の優しさに甘えてはいけないのだ。
分かってはいる。それでも、アタシは小月の優しさに甘えてしまっている。
だったら恩返しをしなければならない。
アタシに出来る事なんて決まっている。
他人を殺す事と無理に蘇らせる事しか出来ない【蒼い死神】と呼ばれる怪物のアタシに出来る事なんて一つしかない。
小月にとっての害敵を殺す事。
アタシのような怪物が出来る事なんて所詮それしか無い。
もう二度と小月の優しさに甘えない。
もう二度と小月の優しさに甘えることは許されない。
いや、アタシ自身が許さない。
ここで害敵も倒せない怪物に、そんな権利が有るはずがない。
人を傷付ける力しか持たない怪物にそんな権利は―――――――、
「そんな事、あるわけねぇだろうがッ!!」
小月が、怒った。アタシに向かって怒った。容疑は一杯ある。
一体、何に怒ったんだ?
「お前にはちゃんと人を守る力がある! 俺と初めて出逢った時も、黒い虎に襲われた時も、魔神と出会った時も、怪物に殺されそうになった時も、瓦礫に潰されそうになった時も、俺がバカした時も、全部、お前が助けてくれた! 守ってくれた!」
…………何を、言ってるんだ。こいつは。
そんなの当り前じゃないか。アタシは小月を巻き込んだ。アタシにはその義務がある。
だから当り前じゃないか。アタシみたいな怪物が出来る事を―――――、
「お前にはちゃんと人を守って助けてやれる力があるんだよ! それに俺にとっては、お前は怪物なんかじゃないッ!!」
……本当に、こいつは何を言っているんだ?
アタシが怪物じゃない? そんなわけが―――――、
「俺にとっては、シキ! お前はただの女の子だ!! 俺の金を毟り取って、 俺に暴力ボカボカ振って、俺に脅しまでかけたり、浴衣が着たいなんて事を言ったり、ショートケーキが好きだったり! 少し捜せばどこにでもいそうな、ただの女の子だ!! 怪物なんかじゃないッ!」
……ち、違う。アタシはただの怪物なんだ!
【蒼い死神】と呼ばれ、生命力を操る力を持つ、ただの怪物なんだ!!
「お前がどう思ってるかは知らないが、お前に死んで欲しくない奴は沢山いるんだ!! だから俺はここに来た! 格好良く、主人公みたいに倒せはしないけど。俺はお前を助けたくてここに来た!!」
あ、あた、アタシは決めたんだ!
もうお前のその優しさに甘えないと!
そんな事、アタシが許さないと!
なのに、何で………アタシの心は安らいでいるんだ。
アタシの心は喜んでいるんだ。
アタシの心はこんなにも……嬉しさで満ち溢れているんだ…………。
何で、なんだ?
小月なんかに対して、なんでこんな感情を抱かなきゃいけないんだ?
弱虫で、文句ばっかり言って、でも結局その通りにしてくれて、裏の事となると無駄にアタシに気を遣って……。
何で、小月ごときに、こんな感情を抱かなきゃいけないんだ…………。
「犠牲なんて出すもんか。必ず俺は、お前と一緒に家に帰る。分かったか、シキ!」
――――――――――――――っ!!
…………そうか、分かった。
結局、アタシはお前を守る事のためにお前の傍にいたんじゃないんだ、小月。
アタシはお前の傍にいると楽しくて、嬉しくて、だから傍にいたんだ。
分かったよ、小月。
アタシはお前の傍にずっと居たいんだ。
言われなくても、一緒に帰るさ。
これでNOISEは終わりです。
………NOISEのストックが終わりです。本編はまだ残念ながら続きます。
今回の一斉更新で勇者の方々を一気に振り切れた自信があるぜ★
もう残り5人かな。っていうか元から5人かな…………