8月22日-7
すいません、更新順を間違えてしまいました。
これが正しい8月22日の7です
あの後、シキは走っていた。一度壊滅寸前まで追い詰められ、新設したまだ名も無い組織の本拠地であるこの建物の中を。
駆けまわっていた、あてもなく。
しかし目的はあった。
今、この建物に起こっている緊急事態。おそらく、ある少年の奇襲。
それを一時的に食い止めるため。駆けまわっていた、建物の内部を。
おそらく、と言うのは実際にそうなのか確認が取れていない為だ。
だが、彼女の予感と張空小月という少年の勘からは、それしか答えが導き出されなかった。
シキは張空小月を信用、信頼している。
だからこそ、ある少年がこの建物にいると思っているし、だからこそ、奇襲を一時的に食い止めなければいけない。
一時的。張空小月や鑑優斗、ついでに園塚暁がこの建物から脱出、及びある少年から逃げ切る時間を作る。その意味の一時的。
………ついでに言うなら、シキがある少年を食い止められる限界時間。それを示す、一時的。
(…………悔しいな…………………………………)
シキはある少年―――オトアを倒せない。
彼が持つ空間を歪める力は、シキの唯一にして最強の武器である蒼い炎を防いでしまう。
故にシキは彼を倒す事は出来ない。
彼に対して、シキは勝利は望めない。手繰り寄せられない。
虚しい現実。
「…………見つけたぞ、オトア」
突如シキは立ち止まり、生きも切らさずにハッキリとした声で言う。
先程、小月の前で流していた涙が嘘のようだった。
「アァーアァー、生きてたんだ」
赤黒い髪をした黒眼の、小月よりやや背が高い少年は、残念そうにそう言いながらシキの前に歩いて行く。
「何の御用かな、オトア?」
「何の用ッて………後ろの見て分かる通り全部ブチコワシに来たんだよ」
彼の背後は、見るも無残なほどに瓦礫と破片しかなかった。
「マァ、ついでにブチコロシにも来たわけだけど」
「なら、ココから先は通せなくなるぞ」
予定調和な会話だった。
互いに、互いの姿を見た瞬間にこの展開が予想出来ていた。
一切狂いのない予想通りの展開。
そして、この展開の次にあるものも、二人とも予想出来ていた。
シキの場合は、同時に覚悟も。
「んジャ、コロスけど当然文句はネェーよな?」
「文句があったら、どうするんだ?」
「文句を言う前ニィ、ブッコロス」
途端に少年を中心に殺気の様な威圧的な突風が吹き出す。
シキは突風に煽られながら、しっかりと少年を見ていた。
シキは目の前にいる少年、オトアには絶対的に勝てはしない。
しかし、時間稼ぎならば出来ない事は無い。
様は回避や防御。自分を蒼い炎で燃やし、小月をトラックに撥ねられるのを防いだように、オトアの攻撃を防ぐ。
いつまで通用するか分からない。何せ相手は蒼い炎に当たらない対応策を持っているのだ。
それをシキ自体に適応されれば、時間稼ぎすらできなくなる。
オトアがいつまでシキの逃げ回る様を楽しむか。それ次第で、小月達が逃げ切れるかどうかも決まってくるだろう。
シキは目の前にいる、少年を睨み付ける。全ては彼の気まぐれ次第。
奥歯を噛み締めながらも、それでも、攻め手が無いシキは少年を睨み付け、攻撃をかわす事に専念しなければならなかった。
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「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
体力のないのはいつも通りだが、今日はいつもより、何となくキツイ。
シキに燃やされ、怪物にボコられた時の残ったダメージが原因だそうだ。
ふざけやがって。
師匠から渡された、一応完成版らしい黑鴉を腰に挟んでいるため、さらに若干走り難い。
でもまあ、シキと怪物――オトアの戦いに加わるには、最低限これがなきゃ俺は役立たずだ。
シキが何故、オトアと戦っているのか。それは俺達を逃がす時間を稼ぐためだそうだ。律儀なこった。
だから、師匠は園塚を含めるこの建物に居た人達は、今外に逃げている事だろう。
俺はというと、逆走よろしくシキの元へと走っている。
『……アタシは、な』
頭の中で、最後に聞いたシキの言葉がグルグルと回り続けてる。
シキの野郎、あんな事を言いやがって………。
『……アタシはお前に言いたい事が沢山有った!』
なら、これから先も言えばいいだろ。俺はお前の傍に居るつもりなんだから。
『アタシはお前と行きたい場所も沢山有った!』
あんまり遠くとか金が掛かる所には連れて行ってやれないけど、出来る限り、連れて行ってやるよ。
そのくらい、俺はお前に助けられてるんだ。恩返しぐらいさせてくれ。
『アタシはもっと沢山お前と過ごしたかった!!』
俺だってそうだ。もっとお前と過ごしたい。だから俺はお前の傍に居たいんだ。
『………………でも、』
だから、何であんな事言ったんだよ?
『ここでお別れだ。今まで楽しかったよ。ありがとう小月』
あんな事言われたら、絶対に助けに行かなきゃいけないじゃないか。