狐狩り-7
遅れてすいません。
「あ、二人とも、外に出るのぉー?」
「えっ、あ、はい」
玄関で靴を履いていると、鑑師匠が工房から出て来て、話しかけてきた。
「じゃあ、これを持っていきなよ。ここら辺は電灯とかが少なくて、暗いから」
そう言って鑑師匠が差し出してきたのは、通常のより少し太いペンだった。
いや、鑑師匠の言い方からすると、これはペンライトか?
「なんだ、これは? ボールペンか?」
「いや、これはライトだよ、シキ。ボタンを押すと光るんだ」
そう言われると、シキはボタンを押す。
故意か天然なためか、ペン先を、俺の目の方向に向けて。
「ぎゃぁぁぁぁぁああああああああっ!! 目がぁぁぁぁああああああ!!」
「おお、本当に光ったな。だが、何故、ペン先から光が出てるんだ?」
「そういう仕組みだからだよ、シキ」
俺が目を抑えながら、蹲っている間にも会話は進む。
っていうか二人とも、俺を心配する気は無いの!?
「市販のやつだから、一つあげるよ」
「そうか。それは助かるぞ、鑑」
シキはそう言うと、玄関の扉を開けて、
「何故、お前は蹲っているんだ?」
「お前のせいだろうがっ!!」
とてもムカつく一言を俺に言い、外に出る。
視界が安定してきた俺も、続いて外に出た。
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ペンライトを点け、先行するシキ。その後に俺はついて行く。
「なあ、小月」
珍しく、シキのほうから話題を振ったきた。
「何だよ」
「お前、暑くないのか?」
「は?」
いきなり何言ってんだ、こいつは。
「その服装は暑いだろ」
そう言って、シキは俺の服を下から照らしてきた。
俺の服装は・・・・、安物のジーンズに半袖のTシャツ。そのTシャツの上に半袖のパーカーを羽織っている。
まあ、日差しが出てる時はクソ暑いであろうが、夜の海の近くに行くんだ。少しは気温が下がってるだろう。
「まあ、暑かったら、パーカーを脱げばいい話だろ」
「だがな」
「目がぁぁぁああああああっ!!」
まあ、なるとは思ってたよ。ようはシキは俺を下から照らしてたわけだから、いずれ顔に、目に、ペンライトの光が来るとは思ってたよ。
悲劇は繰り返さないと思っていた俺がバカだった。簡単にシキを信じた俺がバカだった。
うん。最悪だ。
「おっとすまない」
「わざとだろ! わざとやったんだろ!」
「違う、わざとじゃない。学習しないだけだ」
「どんな言い訳だ!」
若干、視界に光の残影が残るが、まあ仕方が無いだろう。
「取り敢えず、これは俺が持つ」
そう言って、俺はシキの手からペンライトを没収する。
「ああ、もう海に着くから点けるなよ、それ」
「・・・・・完全にお前、わざとやっただろ」
俺はシキに責めるような視線を向けるが、まあ、シキは当然が如く、こちらを向きもしない。
この時、俺にはまだ、緊張感が足りなかったのかもしれない。
けどまあ、無駄に緊張感を持っていても、結果は変わらなかったであろう。
だってアレは、俺の力量不足が問題だったのだから。
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「おい、誰もいないぞ」
月は雲に隠され、ほぼ真っ暗な状態に近い海には、俺の目から見たら誰もいなかった。
「いや、いるぞ」
対し、シキの目には、いや感覚だろう、シキには誰かがいるか分かっているようだった。
「どうやら、罠にかかったのは、アタシ達のようだ」
「は? ・・・・・・・・ってもしかして」
もしかして、敵の数は――――、
「八名。残りの全員でアタシ達を持て成してくれるそうだ。よかったな、小月。一々捜す手間が省けたぞ」
それは幾らなんでも楽観的過ぎるだろ。
「6:2の割合でどうだ?」
「それは良い考えだ。アタシが6のほうだろ?」
「ああ。俺は2の方だ」
俺は腰に挟んである黑鴉を手で触れる。
コイツの弾倉は2個。幸い、両方持ってきてる。
つまり俺が倒せるのは二人まで。どうやっても、シキに残りを負担させるしかない。
まあ、俺が二人を早めに片付けて、シキのサポートに回れれば最高。
最低限、俺は二人を倒さなければならない。
条件的には・・・最悪だ。
俺の武器は黑鴉と相手の行動を少し歪める能力。
その二つだけで裏の指名手配犯と戦うわけか。
不可能ではない。その代り、大分難しい。
まあ、やるしかないのだろうから仕方が無いが。
「来るぞ。気を付けろよ」
「お前もな」
俺はシキに、シキは俺に、背中を預け、それぞれの敵を迎え撃つ。
これが悲劇の夜の始まりだとも知らずに。
一部伏線っぽい所がありますが、フェイクです。
悲劇の夜? んなもん、あるわけないじゃん。俺が書くわけないじゃん。
まあ、上記のは言い過ぎですが、悲劇の夜はただ臭わせてるだけです。過度な期待をせんように。
というかココまで読んだ読者・・・ともいい勇者の皆様は、どれくらいいるんでしょうね?