出会い-4
「思い出した」
「・・・・別に今頃『最後の注文にする』という台詞を思い出したところで俺の出費は変わらないんだけど」
シキの唐突な言葉に、俺は少し苛立ちながら言う。
何が最後の注文だ。結局あれから3回は注文してるじゃねぇーか。
「その事じゃない」
更にはその事に悪気すら感じてねぇーよこの女。
「じゃあ、何を思い出したんだよ」
何となく暇なので俺はシキに訊いてみる事にする。
「お前、張空と言ったな」
俺の言葉は完全無視か。
「ああ、俺の苗字は張空だ。それがどうした?」
「なら、張空秋音という少女を知っているか?」
俺はシキが言った名前に少し驚いた。
「多分だが、俺の義妹の名前だ」
「義妹?」
俺の台詞にシキが疑問詞を浮かべる。
血の繋がりは無いが戸籍上の妹の事を、確か日本では義妹と言ったはずだが・・・・・・・・・・・勘違いしていたか?
「実の妹じゃないのか?」
「ああ。見た目も俺とは大違いだ」
「つまり美人なのか」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあ、そうなんだけど。俺の台詞一つでそう断定しなくてもいいじゃん。俺がイケメンとかの部類に入らない事は知ってるけどさ、そう、即答しなくても・・・・・いいじゃん。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それで、うちの義妹に何か用なのか?」
俺は落胆しながらもシキに尋ねる。
「違う、逆だ。呼ばれたんだ」
そして、シキの一言で俺の落胆は驚きに変わる。
「・・・・・・まさか、うちの義妹がコスプレイヤーと友達だったなんて」
「殺されたいか?」
「冗談です、すいません」
さっきまでケーキに刺していたフォークを俺に向けてきたので、俺は仕方なく態度を急変させる。
「アタシと張空秋音は友達なんかじゃない」
「まあ、言い方からして分かりますよ。ですからそのフォークを俺に向けたまま近づかないで下さい」
「簡単に言うと、顔見知り程度の仲だ」
「へー、そうなんですか。それは分かりましたからフォークを下ろしてください。このままだと俺の目に刺さります」
「だから張空秋音に呼ばれた理由が一切分からないんだ。何か知らないか?」
「知りませんよ、自分は義妹について性別と容姿と年齢と誕生日しか知りませんから。というか、コスプレイヤーって言われるのそこまで嫌ですか? 別にけなしている訳じゃ――」
シキは俺に向けていたフォークを逆手に持ち、テーブルに突き刺した。
「次はお前の目にでも刺そうか」
「本当にすいませんでした! もう二度と言いません!!」
俺、初めてだ。恐怖で人に頭を下げたのは。
「分かればいい。だが、どうしよう」
「どうかしたんですが?」
別に敬語じゃなくていいと思うんだけど、タメ口で話せない。何でだろう?
「張空秋音との待ち合わせ場所を忘れた」
「さっき思い出したって言ったじゃないですか」
「待ち合わせ場所を忘れたのを思い出したんだ」
「面倒な人ですね」
本当に面倒だ。義妹が夕方まで戻らないと言ったのはシキと会う為だったのか。
義妹に連絡出来ればいいんだが、生憎と携帯番号を知らないし、そもそも携帯を持っているかも知らない。
そうだ。一定時間シキが来なかったら家に帰るであろうか、家で待ってれば・・・・・・・・・・。
ヤバい。絶対に今俺、鍵持って無い。
多分、こんなの兄貴なら義妹の携帯の事だって知ってるであろうし、鍵だっていつも持っているであろうし、その二つが分からないくても、解決策を思いつくだろう。
けど、俺には・・・・・・・・・・・・到底、出来ない。
「最悪だ・・・・・・・・・・・・」
「いきなりどうした。絶望した声で最悪なんて言って」
俺の呟きに対してシキは不思議そうに俺を見てくる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・絶望した声で、か。
仕方が無い。もう少し考えてみるか。最善策が思い浮かばなくても、良策は思いつくだろう。
「義妹の携帯電話の番号、知ってますか?」
「知らない。言っただろ、アタシと張空秋音は顔見知り程度の関係だと」
やっぱり、知らなかったか。大体、7年間一緒に住んでいる人間にすら教えないような奴が顔見知りの他人に簡単に教えるわけ無いか。
「待ち合わせしたのは、この近辺ですか?」
「さぁ」
・・・・・・・・・・・・コイツ、本当に忘れきってやがる。
でもまあ、この近辺と考えて良いだろう。シキが元々、この近辺に住んでいるならシキが分かる店とかで待ち合わせるだろうし、シキがこの近辺に住んでなくても、ココに今いるっていう事はこの近辺で待ち合わせてるって事なんだろう。
というより、ヒントが少なすぎるだろ。
「何か、思い出せる事ってありますか?」
「んー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・無いのね。
「あ、そういえば」
あったのかよ!
「3時に待ち合わせだった・・・・・気がする」
・・・・・・・・・・出来れば、待ち合わせの時間じゃなくて場所について思い出して欲しかった。
「・・・・・・もしかして」
もう、手掛かりが一切無いので、俺は適当に言ってみる。
「駅のホームとかで待ち合わせ、とかは無いですよね」
「無いな」
即答で否定された。これで手詰まりだ、分からない。
・・・・・・・・・・・・・・ん? こんだけ考えたけど、もしかしてもっとシンプルに考えれば解決するんじゃないのか?
例えば、後もう少しココで時間を潰して――――――。
「それじゃ、後もう少しココで時間を潰して、義妹が帰ってきそうな時間になったら俺の家に行きましょう」
これだ。つーか、色々考えた時間が無駄に感じる・・・・・・・・・・・・・。
「それはつまり、もう少しココでデザートを食べてもいいという事か」
「今すぐ出ましょう。今すぐに」
俺はシキの襟首やらローブやらを引っ張りながら会計を済ませ、外に出る。
坂津狂鬼は、担任に『志望校を変えたら』と喧嘩を売られたのでしばらく勉強に身を投じます。
さらに、試験後に急ピッチで伝説を創るので、しばらく投稿が出来ません。
読者(今のところ4名の方)の方は、指の筋肉が疲労するまでタイピングマニアでもやりながら待っていてくれると助かります。
あ、決してタイピングマニアじゃなくてもいいんですよ!