盆休み-13
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つまりは今は稼ぎ時。
『雑音拒絶は契約時に強く拒絶したものが間接的に能力になる』
園塚はそう言った。
契約時に俺が何を拒絶したかは知らないが、得た能力はしょぼい能力だった。
もし、こいつが本当に雑音拒絶なら、一体、何を拒絶したらそうなるんだ?
「知ッてるかァ、雑音拒絶は一定のキョウツウテンがあるんだァ」
「共通点?」
俺は思わず聞き返す。
「雑音拒絶はァ、契約時に拒絶したものが間接的に能力になる。その意味、分かるかァ?」
「・・・・・・・知るかよ」
「大概の奴は、契約時に拒絶したものを歪める能力になるゥんだ」
歪める・・・・・・・・?
確かに、俺の力は相手の行動を歪める能力だ。一応自分にも適応されてるけど。
つまりは、俺は契約時に、園塚やシキや自分の行動を拒絶したんだ。
アイツは何を拒絶して、何の能力を得た?
「例えばァ、この世界を拒絶した奴は、こォんな能力を得る」
そう言うと、怪物の手の近くの空間が蜃気楼のように歪み、空間が破裂する。
「空間を歪める力、てなァ。この力は色々と便利だぜェ」
空間の破裂によって生まれた風を浴びながら、怪物は言う。
同じく風を浴びる俺は、その怪物に疑問を投じる。
「何でだ」
「んァ?」
「俺も雑音拒絶だ。だけどお前みたいに便利な能力じゃない。何でだ?」
それは拒絶したものの違いもあるだろう。
こっちは人の行動を、あっちは世界を拒絶した。その違いもあるだろう。
だがもし、世界を拒絶してあれだけの力を手に入れたのなら。
俺だって、もう少し強い能力を得たはずだ。
一人に一日6回までの受動的な限定能力なんかじゃなくて、制限なしの受動的な能力とかになっていたはずだ。
この違いは、一体何だ?
「そりャ、拒絶の度合いだなろォな。強く拒絶した奴と少ししか拒絶してない奴の違いだァ」
怪物はつまらなそうにそう告げ、俺は怪物の答えに納得する。
つまりはこういう事だ。
努力した人と努力をしなかった人の差。簡単に言ってしまえば、こういう事だ。
才能は無いが努力してスポーツの練習をした人と、才能も無く努力もしなかった人の差。
それが俺と怪物の差だ。
俺の能力がしょぼい原因だ。
今頃気付いたってもう遅い。一度確定したものは変えられない。
ヤバいと思って練習を始めたって、怪物に追いつけるわけが無い。
「・・・・・・・はは」
瓦礫に埋もれた部屋の中、俺は独りでに笑い出す。
哀れだ。惨めだ。
俺にだって強く拒絶できるものが有った。兄貴だ。
兄貴の才能やら人格やらを拒絶すれば、多分だが、この目の前の怪物を超す力を手に入れていたと思う。
だけどあの時、全然、兄貴の事なんて考えてなかった。
シキの事を考えていた。
黒髪の蒼い瞳のデザート大好き少女の事を考えて、あの時は動いていたんだ。
最悪だ。拒絶と言われた時点で兄貴の事を思い出せばよかったんだ。
そうすれば、時間稼ぎなんてチャチな事をしなくてもよかったんだ。
対話なんて面倒な事をせずに済んだんだ。
命の危機を感じずに済んだのだ。
まったく、最悪だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも。
でも、仕方が無い。
あの時は、たった二日だけだったけど。
シキといた時間の方が、兄貴を拒絶するより、断然楽しかったんだ。
兄貴の事を考え、自分の事を拒絶するより。
シキと話して、アイツの常識の無さに驚いて、常識を教えたり、適当に騒いだり、アイツの事を考えて気遣ったり、そんな時間の方が、俺にとっては大切で印象的だったんだから。
最悪だ。でも仕方が無い。
仕方が無いなら、諦めて、俺の出来る事をやるまでだ。
「はははははははッ!」
顔を上げ、俺は高らかに笑う。
諦めがついたら、なんか吹っ切れた。
面倒だ。考えるのを止めよう。
陰気臭い事は、もう厭きた。
「なあ、怪物」
俺は笑うのを止め、怪物と向き合う。
「お前、自分の能力を教えてよかったのか?」
「別にィ。教えたところで、状況が変わるわきャねェーからなァ」
「そうか。なら、礼代わりに、俺の能力も少しだけ教えてやる」
「んァ? 正気かァ、お前」
俺の言った言葉に、怪物は不思議そうに顔を歪める。
まあ、その反応は当然だろう。
俺の能力は上手く使えば、相手を騙し、時間稼ぎが出来る。
つまり、俺は全て教える気は無い。
元々、相手の能力を聞き出すために、この質問をぶつけたわけじゃない。
これは相手を騙すためのきっかけの質問だ。
「俺の力はな、相手の行動を歪める力、なんだ。相手の動きを止めたり、動かす向きを変更することが出来る」
この台詞には、少しだけ、という言葉がわざと抜けている。
相手を騙す、次の台詞の為に。
「例えば、今のお前みたいにだ」
「んァ?? 何言って―――――ッ!」
怪物の動かそうとしていた腕が不自然に止まる。
「―――――――――ッ!?」
「喋んなよ」
怪物の舌と顎が不自然に止まる。
「そうだな・・・・・ドライアイにでもなっておけ」
怪物が瞬き出来なくなる。
怪物の動きが完全に止まる。いや、怪物が動きを自ら止める。
怪物は知らない。俺の力はもう怪物に使用できない事を。
知らないから、動くのは無駄と判断した怪物が勝手に止まる。
「お前の空間を歪める力ほど凄くは無いが・・・・・俺の力も凄いだろ?」
相手を騙す意味では。
「―――――――――」
怪物は口を動かすことが出来ないから、喋れない。
おかしな光景だ。
喋れない怪物と、悠々と語る詐欺師。
どうやったら、こんな光景を作れるんだか。
まったく不思議であるが、まあ、今はそんな事を考えてる場合じゃない。
相手がいつ片腕を、指を、脚を、首を動かすか分からない。
あくまで動くのが無駄だと騙されてるだけ。
時間が経てば、いずれバレるだろう。
そっから先は、一切の手が無い。
この間にシキがここに来なければ、俺とアリサさんは死亡確定だ。
でも、そんな暗い事は考えなくても良さそうだ。
「――――――ココにいたか、クソバカ小月」
筒抜けの天井から、シキの罵倒が聞こえてきた。
小月、どうにか生き残りやがりましたね。残念です、死ねばいい。
でも小月の能力は結構矛盾が生じてるんですよ。
それが何だか、分かります?
っていうか暇な時こそ誰かシキの絵を描いてください。
そしたら俺が書きますから。