出会い-3
君達に良い事を教えよう。
どこぞの漫画のせいで死神の好物は林檎と思っている人が大半であると思うが、実際に死神の好物は甘ったるいデーザトだったりする。
「お前、よくこんなに食えるよな」
「少し、お腹が減っていたからな」
「絶対に少しで済むレベルじゃないぞ、この量」
トラックに撥ね殺されかけた俺をどうやってかは知らないが、助けてくれた少女が、俺に食べ物を与えてくれと懇願してきた。
だから俺は近くのファミレスに連れて行ったんだが、腹が減ったと言った彼女の口から注文されるのはデーザト品ばかり。多分、今5順目に入ったところだと思う。
はぁー、金足りるかな。
そう思いながら財布の中身を確かめるが、非常に残念な事に大量に札が入っていた。これじゃ金を言い訳に少女の暴走を止める事すら叶わない。最悪だ。
諦めがちに俺は少女の方を見る。
大量の詰まれた小皿にパフェの容器で囲まれた少女は、今やさっきまでのローブを脱ぎ、普通の服の姿で異常な量を食っている。ちなみに俺は一切服の知識が乏しいから、彼女がどういう名称の服を着用しているかは一切分からない。
その代わりと言ったらなんだが、少女の容姿を説明してやろう。
髪は黒のサラサラストレート、瞳は蒼で、顔立ちは・・・・・・うちの義妹と同じく現実ではありえないほど整っている。世界はいつからこんなにおかしくなったんだ?
二次元の美少女と言ってしまえば大体は終わりだ。あ、あと多分貧乳だ。見た限りでは。
「・・・・・・・・どこかから悪意を感じる」
「何をいきなり言ってるんだ、お前は」
あと勘が異常に鋭いようだ。
「お前、名前は?」
バレそうなのでいきなりだが、話題変更だ。
「シキ。お前は?」
「言わなきゃダメか?」
「・・・・・? 自分の名前が嫌いなのか?」
俺の返しに対して、少女ことシキが疑問を持つ。
「別に。俺の名前自体は嫌いじゃないけど、あんまり言いたくない」
「だが、アタシは名乗った。お前も名乗るべきだ」
まあ、そういう事は分かってる。
「張空小月だ」
「小月・・・・・・・・・・随分と女々しい名前だな」
「よく言われるよ」
「それに・・・苗字のほうも、どこかで聞いた事がある」
「そっちもよく言われる」
多分、兄貴の事で聞いたことがあるんだろう。兄貴は有名な天才・・・いや鬼才だったからな。
「まあ、別にどうでもいいか。小月、これだけの量を食べされてくれてありがとう」
「もう、いいのか?」
俺はシキの発言に対し、少し間の抜けた声で返す。もう少し食うと思っていたんだけど、
「ああ。これで最後の注文にするからな」
・・・・・・・・・・・・予想通りだったわけね。
「別にいいよ。こっちは恩返しでやってるんだから」
自分の命を助けてもらった代わりにデザートを奢れというんだから、下手に生き残って掛かる入院費やらより大助かりだ。
それよりも、
「どうやって、あのトラックを止めたんだ?」
一応助かった時から気になってる事を訊いてみる。
シキの現れ方は不自然だ。俺が視た限り、俺とトラックが零距離になるまで、トラックの上には少女どころか人一人も乗っていなかったのだ。
そもそも零距離になるまでにブレーキ音が一切聴こえなかった。それが指す事は、トラックは減速せずに慣性を無視して急停止したという事になる。さらに、中に人が乗車しているであろうから、中にいる人には慣性の法則に従って急停止による、フロントガラスを突き破っても良い位の力が加わり、最低限、なにかしらの音がなるはずなのである。
だが、あの時、一切、彼女の声以外の音は鳴らなかった。
俺が自体の把握に遅れた原因の一つ。不自然な現象。
あれがシキが起こしたものだとしたら、一体―――――――。
「小月、お前は知らないほうがいい」
俺の思考を全て読み取ったか、それとも予めその台詞を用意していたのか、とにかくシキは即答した。
「お前が知ったところで、幸運になる人間はいないのだから」
「・・・・・・・・・なんだよ、その悟ったような台詞は」
俺はそう言いながらも、彼女に言われた言葉の意味を考えていた。
だけど、俺の知識や知恵じゃ、予測が至らない。
多分、兄貴ならこの言葉を聴いただけで、全てを理解するんだろうけど・・・・・・・・・・・・・・・生憎と、俺は鬼才じゃない。
「金すら置いていってくれたら、お前は帰っていいんだぞ。小月」
「残念ながら、お前の為だけにココに来たわけじゃない。俺は今からココで昼食を取るんだよ。シキ」
シキの提案に対して、俺はそれなりの理由を付け答える。
俺の言った台詞は大概は嘘じゃないが、昼食ではなく、自棄食いのためにココに残るのだ。
所詮、兄貴には到底及ばない俺の、ちょっとしたストレス解消のために。