盆休み-2
「シキと言います」
ここまでは普通の挨拶だな。
そういえば、コイツの名前は聞いたけど、苗字は聞いてないな。
一体、どうい―――――、
「小月のフィアンセです」
日本の株価が急激に高騰した。
確かそういう話題だったよな。うん、そうだ。そうに違いない。俺は日本の経済事情について考えてたはずだ。そうでなかったら何を考えていたんだ?
というか、俺は誰だ?
そんな風に思考の大地震が俺の脳内で起きているうちに現実では何かオカシナ進展をしていた。
そう、シキが俺の腕をホールドした。正確には俺の関節を極め、外見ではまるでシキが俺の腕に抱きついているように見えるような状態になった。
はい、ここまでで状況が理解できた奴は俺に連絡しろ。そして俺と代われ。
相手は美少女だ。例え関節を極められた状態であれ抱きつかれてんだ。悪い条件じゃないだろ?
「なあ、シ―――――」
この会話はさっき話したから、もういいや。
それにしてもシキは何で、『微妙な仲の男女はフィアンセと呼ぶ』なんて誤解してんだか。
「・・・ああ、やっぱりそういう関係に」
なんて言ってる義妹が吹き込んでいるわけないし、吹き込んでいたとしてもココに来たら義妹の処刑などせずとも勝手に苦しむし。
今度は誰がシキをおかしくさせた?
園塚か? いや、園塚の言う事をシキが信じるとも思えない。
新キャラ? だとしたら、そいつには地獄を見てもらわないと。
というか、いい加減、俺も反論しないと、社会的抹殺が確定してしまう。
クソッ! 田舎は変な風に噂が広がるんだぞ! よりによってこんな所で・・・・・ッ。
「違います。コイツはとてつもなく電波的な娘なんです」
「電波的とは何だ?」
今のお前だ。
と言ってやりたかったが、俺は口を開かなかった。下手に口を開けばゲームオーバーだ。
「・・・シキは、ちょっと常識が欠けていて、テレビで知った言葉とかをすぐに話す子なんです」
珍しく義妹が俺のフォローに入った。
「・・・大体、この愚兄に恋人とか婚約者が出来ると思いますか?」
違かった。俺を蔑みたかっただけのようだ。
だが今は手段など選んでいる場合じゃない。
「そうですよ。こんな可愛い娘が俺の彼女とかになるわけないでしょ」
「・・・そうですよ。こんな鈍感な愚兄が彼女をつくれるわけがないでしょ」
鈍感が今ここで関係あるか? 蔑むというより非難の声で言う必要があるか?
ま、いいか。ジジィもババァも納得顔をしてるし。上手くいったみたいだから。
「この子は、両親が少しの間預かっててくれ、て連れてきた子なんです。家に措いてくるのも心配だったので連れてきたんですよ」
俺が適当な理由を言う。うん。我ながら良い言い訳だ。
「そうかぁ。まだ、そういう事をしてるぅのか」
少し訛った口調でジジィが言う。
まだ、というのは多分、義妹の前例があるからなんだろう。
「立ち話もなんじゃ、入りぃ」
ババァがそう言って俺達を手招きする。
それが俺にとっては社会的抹殺の回避を意味してるなど、ババァは知らない事だろう。
「なあ、シキ。なんであんな事を言った?」
「すまん。知らなかったんだ」
俯きながらシキが言う。
フィアンセの言葉の意味を教えた後のためか、半端じゃなく下に俯いている。
そうか。俺を婚約者と言ったことをそんなに後悔してるのか。分かるぞ、その気持ち。
「一体、誰にそんな事を吹き込まれた?」
「組織の構成員の一人に訊いたんだ。今度、小月の実家とやらに泊まりに行くんだが、どう挨拶すればいい? と。アタシは人にちゃんとした挨拶をするのが苦手だからな」
「それで、フィアンセという言葉を言って相手の関節を極めればいいと、教わったわけか」
「アタシもおかしいとは思ったんだ。だが、フィアンセという言葉も知らなかったし、構成員はそれが最近の挨拶の仕方だって言ったから・・・」
つまりは、社会的に俺を抹殺しようとした奴がいるという事か。
一体誰だ? もしかして、どこかの小説の後書きとかに殺人予告とかしてたんじゃないか?
クソッ、分からない。
まあ、社会的抹殺は避けられたわけだし、考えるのを止めるか。仕方が無い。
「まあ、もういいよ。別に困るのはそれを言ったお前だけだし」
「何でだ? 小月、お前も困るから説教してるんじゃないのか?」
「いや、俺は別に困りはしねぇーよ。まあ、お前の容姿は凄くいいし、そんな奴が俺の事をフィアンセと言って俺が困ることは無い。ただ、それを勘違いで言ったお前は後々困るだろ?」
「・・・・そうか?」
コイツ、俺の言った意味分かってねぇーな。
「お前、考えてみろ。俺と結婚するって勘違いされんだぞ。普通は困るだろ」
「そう・・・・・・なのか?」
世間知らずも甚だしい。
「ああ。取り合えず、お前は困る」
何となく埒があかないように思えたので、断言する。
「そうか。ならそういう事にしておく」
「ああ。分かったんなら・・・・・そうだな、ババァの元にでも行け」
「何でだ?」
「お菓子が欲しいと言ったら、きっとくれるであろうから」
ジジィとババァは可愛いものが好きだからな。
「行ってくる!!」
俯いていた時とは違う、威勢の良い声でシキが駆けていく。
俺はただその背中を眺めながら思った。
アイツ、実は俺より歳下なんじゃねぇーのか? と。
小月死ねッ!! まじ死ねッ!! 爆発しろ!!
と思って書いていたので内容を大して覚えてません。
ただ、作者から一言。
小月マジ死ね。