夏祭り-2
カオスじゃなくて・・・・・何だろ?
集合時間、午後7時。
俺達3人は、集合時間の5分前に来たのだが、もう殆どのクラスメイトが来ていた。
皆早いなー、と感想を抱いている俺である。
縁日はちょっと遠い所にある大きめの神社で行われる。
まだ日が沈んでないため、光などが灯っている屋台は無いが、客はもう結構いた。
本当に皆、来るのが早い。こっちなんてシキを着付けるのにも時間がかかったし、シキが上手く歩けなくて、さらに時間がかかったっていうのに。
「あと、来てない奴は誰だ?」
クラスの誰かが言った言葉に、
「古瀬の野郎だな」
軽く周囲を見渡した俺が答える。
アイツがもしこの場にいたら、真っ先に俺―――の近くにいるシキに近付くはずだ。
そういう奴だからな、アイツは。
「何だ。古瀬だったら措いて行っても平気じゃん」
クラスの女子が言った良識的な言葉にクラスの皆が賛成して、それぞれの散策時間が始まった。
「それじゃ秋音。10時にここに集合って事で」
「・・・分かった」
俺は義妹と離れる。そうしなければ、クラスのバカ男子共が声をかけ難いそうだ。
「それじゃ、シキ。お前も小遣い渡すから一人で―――」
「何だ、アレは!?」
はしゃいだ声でシキが俺の台詞を妨害する。
シキの目線の先には、白い入道雲のようなものを棒に纏わせた物を持ってる女児がいた。
「あれは綿菓子だな。甘くてふわふわしてる触感だ」
「じゃあ、アレは?」
シキはリンゴ飴を持った少年に指を指す。
「あれはリンゴ飴。生のリンゴに飴をからませた食い物だ。まあ、俺は食ったことないけど」
「じゃあ、アレは?」
シキは今度は屋台に置いてあるチョコバナナを指す。
「あれはチョコバナナ。結構美味いぞ。バナナをチョコで浸してあるんだけどな――――」
「あれが食いたい!」
シキは子供のようなテンションでチョコバナナを指しながら言う。
「だから、小遣い3000円やるから自分で買ってこい」
「何でだ?」
「何でって、そりゃ・・・・・・」
お前と話している場面を古瀬に目撃されると、縁日が鮮血の飛ぶ戦場に変わっちまうからだ。
って説明しても、シキには通じないだろうな。
どう言い訳をしようか・・・・・。
「取り合えず、一人で回ってくれ。俺はちょっと用事があるんだ」
「嫌だ」
シキが問答無用で断ってきた。
珍しい。コイツってそんな奴だったか?
「ん? 小月・・・か?」
俺がシキの態度に驚いているうちに、後ろから声を掛けられた。
・・・・・・・どうやら、もう何もかもが遅いようだ。
「よう、古瀬。夏休みは何か面白いことがあったか?」
俺は後ろを振り向きながら、軽い調子で言う。
「いいや。反対にお前は何か面白い事があったようだな」
俺の背後にいる人物は・・・想定通り、古瀬聖だった。
黒髪黒目の純血日本人である彼は、一級フラグ建築士の資格を持っているとの噂がある。
まあ、詳細説明をするのが面倒なので簡単に言ってしまえば、古瀬は俺の強敵だ。
「自分の舌を噛んで黙るか、お前が舌を引き千切られて黙るか。どっちが好みだ?」
「お前が舌を噛み千切って死ぬのが好みだ」
俺と古瀬は軽い挨拶を交わし、
「ところで小月。お前の隣にいる娘は誰だ?」
古瀬が先制攻撃を仕掛けてきた。
くそッ。今回は圧倒的に俺が不利だ。攻撃をする槍も無ければ、防御する盾すら無い。
逃げるか? いや、敵に背中を見せるなど日本男児の恥だ!
「知り合いだ。可愛いだろ」
「・・・・・開き直ったか」
槍も盾も無いなら、捨て身の攻撃しかないだろ。
あとでシキに何て言われようが、今はコイツと戦うためだ。仕方が無い。
まあ、それに嘘は言ってないからな。平気だろ。
「あれぇ? なんでお前は夏休み中に出会った美少女を家に措いてきたんだぁー、古瀬くぅん?」
「だから、お前と違って俺は誰にも出逢わなかったって言ってんだろうが」
よし。これで連続攻撃は避けられた。これ以上の追撃は出来ないが、ひとまずこれでよしとする。
「それより、お前は何をどうしたら、そんな娘と出会ったんだよ?」
「知り合いだ。可愛いだろ」
「いや、質問に答えろよ」
くっ!! 絶体絶命。最悪だ。
このピンチを一体どうやって切り抜けたら――――ッ。
「小月、行くぞ」
俺のピンチを察してくれたのか、それとも俺が世界の裏側について喋るとでも思ったのか、シキが俺の手首を掴み、強引に歩き出した。
「お、おい。ちょっと――」
と口では躊躇いながらも、俺の脚はシキの進む方向に歩を進めている。
誰だって、戦場からは抜け出したいだろ?
「・・・・・・おい、小月」
しばらく歩いてから、シキが俺に話しかけてきた。
何だ? チョコバナナを買えと言いたいのか?
それならもう店を通り過ぎちまったぞ。
「その、あの・・・・・・」
もじもじとシキが口籠る。
なんか、今日のシキは少しおかしいぞ。俺、なんかしかた?
「その・・えーとぉ・・・・あれが食べたい!」
シキが指を指した屋台の商品は、たこ焼きだった。
・・・・ヤバい。こりゃ、今日のシキは
完全におかしい。
「お前あれ、甘くないんだぞ?」
「そ、それべも食べたい!」
それじゃぁ、仕方が無いな。本人が食べたいって言うんだから。
俺は屋台でたこ焼きを一つ注文した。
もしかしたらシキが残すかもしれないので、俺の分を頼まなかった。
一箱6個入りのたこ焼きを持ってシキの元に行く。
「ほれ、買ってきてやったぞ」
「あ、ありがとう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺は思わず絶句した。
シキが俺に礼を言ったのか? あのシキが?
奢って貰っても礼を言わないシキが、これごときで礼を言ったのか?
「・・・? ん」
呆然と立ち尽くす俺に、シキは手を差し出す。
さっさと渡せという事だ。うん、これはいつものシキだ。
俺はシキにたこ焼きの入ったプラスチックの箱を渡す。
シキはすぐさまそれを開け、中に入っていた爪楊枝をたこ焼きに刺した。
「熱いから火傷しないようにな」
「うん」
シキは短く返すと、ふぅふぅ、と軽く息を吹いて冷ましてから口の中に入れる。
いや、熱いのは外じゃなくて中身なんだけど・・・・・・・。俺が今更忠告を発したところで遅いに決まってる。
「あふぅッ!!」
シキは口を「ほ」の形にしながら手を当てる。
「あふぅい、あふぅいふぉ、ふぉふぅひぃっ!!」
熱い、熱いぞ小月!! と言いたいのだろう。一切言葉になってないけど。
「我慢して、食え」
俺は呆れた様にそう言う。だって俺にはこれしか言いようがないだろ?
シキはしばらく、ほぅほぅ、言いながらたこ焼きを噛む。
そして呑み込んだ後、
「何だこれは!? 中は熱いし、甘くないし!!」
「ああ、だから俺は忠告したんだ。甘くもないし、火傷をしないように気を付けろって」
荒ぶるシキに対し俺は静かに言う。
わざわざ人が忠告してた事を無視するからこうなるんだ。人の話はちゃんと聞け。
シキは奥歯を噛み締めると、
「小月、口開けろ」
「はぁ? なん――――」
俺の口の中にたこ焼きをブチ込みやがった。
俺の反応は、まあわざわざ記述することもないだろ。
熱いに決まってるんだから。
なんかイチャイチャしやがってる。
ムカつくなー。ブチ殺そっかなー、主人公。
夏祭り終わったら、覚悟しておけよ。
・・・・・・・・あ、ヤベっ。ネタバレというか伏線を――。