夏祭り-1
バトルやシリアスは一切ございません。
「夏祭り? 何だそれ?」
シキが俺にそんな質問をしてくる。
遡って説明する。俺はバカだ。だから補習に行っていた。
その補習の最終日。ようはシキと出会った日なのだが、こんな約束をクラスメイトから取り付けられた。
『お前の義妹、超可愛いじゃん。だから今度近くである縁日に連れて来てくれ、頼む!』
俺と同じ部類、所謂バカである奴の頼みなのだから断ってもいいのだが、
『え、秋音ちゃんが来るの? なら私も行こうかな』
『なら俺も行く』
『それならオレも』
という風に、バカが感染していってしまい、挙句の果てにはクラス全員で行くことになってしまった。どんだけ人気なんだ、ウチの義妹は。
平穏平凡平和な日々を望んでいる俺はここで断って空気を悪くすることなど出来ず、
『一応誘ってみるけど、無理強いは出来ないからな』
と承諾してしまった。
その事を今日、8月6日(縁日当日)に思い出し、義妹に話したところで、
「夏祭り? 何だそれ?」
シキが俺に質問したわけだ。
「夏祭りってのは、夜に屋台とかでなんか食ったり買ったりして楽しむものだ」
俺の個人的な主観の説明をすると、
「何が食える」
シキがそんな事を訊いてきた。お前の頭の中はどうせ甘い物で埋め尽くされてるんだろうな。
「・・・焼きそばにたこ焼き、綿菓子、チョコバナナ、リンゴ飴とかかな」
俺が答える前に、義妹が先に言う。
「リンゴ飴・・・・・」
涎垂れてるぞ、シキ。しかも半端じゃなく目が輝いてる。
「・・・それに、女の子だと可愛い服を着ていく人もいるね」
それは・・・・多分浴衣の事だろう。
「可愛い服?」
意外なことに、シキが食べ物以外の事に食いついてきた。男口調でも根は女って事か。
「浴衣って言ってな、帯締めたりして着るのが面倒で、しかも歩き難い格好の事だ」
「・・・でも可愛い格好」
・・・・・・・ははぁーん。
義妹の思惑が見えてきた。
コイツ、シキが浴衣が着たいと言ったら、俺に二人分買わせるつもりだな。
でもその策には重大なミスがある。
それはまずシキが浴衣を着るなんて―――、
「着てみたいな、それ」
・・・着るなんて、言わない。と信じていたのは俺だけのようだ。
「・・・なら買いに行こう」
「そうだな、行くぞ小月」
ヤバい。流れが俺に不利な方向になってきた!!
「いや、実は俺、今金欠で、財布の中に札が―――」
「・・・通帳ならここにある」
コイツ・・・・ッ!! 最初から俺の退路を塞いでいやがった!
「さっさと行くぞ小月」
「・・・・・なあ、シキ。そこまで浴衣が着たいか?」
「何だ? いきなり?」
即答でない分、俺には救いだな。
「浴衣って、そこまで可愛くないぞ」
・・・・・・・・・大義をなす為なら、多少の嘘は仕方が無いんだ!!
「そうなのか?」
「ああそうだ。しかも高くて、着れる時が少ない。無駄な服だ」
俺は嘘を吐いてまでも、自分の金を死守するんだ!! 着れる時が少ないからこそいいなんて本音は口が裂けても言うものか!
「んー、そうなのか・・・・・・」
俺の心理的ダメージと引き換えに、シキの気持ちが揺らぎ始めた。
よし、あと一歩だ。あと一歩で俺のマイマネーが死守できる。
だが、あと一歩の詰め方が分からない。
適当な嘘でも言って、諦めさせればいっか。
「それにシキに可愛い物なんて似合うわけがないし―――」
「買いに行くぞ、小月」
ヤベッ、ミスった。
最悪だ。なんかよく分からんが、嘘がバレたみたいだ。
こんなところでミスるなんて・・・俺はバカだった。
「さっさと行くぞ、小月」
シキが不機嫌そうな声で俺に言う。
仕方が無い。ミスった俺の責任だ。
ちなみに浴衣を二着買った時点での俺の残金は4692円だった。
何でもありの場合、異常なほど書くのが早くできるんですね。
多分これは今俺がスランプ寸前だから。
あ、多分ですけど、次回はクラスメイト達の登場ですよ。