夏休み-7
ちょいと展開させてみました。
読む人によっては、不満が出るかもしれません。
すいません。
「ありがとうございました」
取り調べ室を出た俺は、暗い廊下をしばらく進み、たまたま近くにいた組織の人に話しかけ、一階の待合室と書かれた部屋に連れてこられた。
待合室は・・・駅にあるあの待合室に自販機と喫煙用の灰皿と長机が加えられた部屋だった。
ここまで連れてきてくれた組織の人に礼を言った俺は、待合室の椅子に腰かける。
・・・・・・シキの言った通りだったな。
初対面で銃口こそ向けられたものも、そんな悪い人達じゃないみたいだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・何もすることねぇー。暇だ。
シキがここに来るまで何してようか・・・・・・・・・・・・・・。
ま、呆けていれば、時間は――――――――、
《BF2で異常事態発生ッ! 各員、行動パターンDをとれッ!!》
突如、上から園塚の怒号が聞こえてくる。
BF2・・・・・・・・・・・シキがいる場所じゃないのか?
普通に考えて、俺が行っても意味は無い。
だが、冷静な判断力を失った俺は慌てて待合室を出ようと椅子から立ち上がり、
床から突き抜けてきたシキを見て、動きが止まる。
・・・・・・・・・は?
思考も行動も止まった俺は、天井に当たって落ちてくるシキを目で追う事しか出来なかった。
そして、シキが地面に背中を強打したと同時に、俺も動き出す。
「シキッ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・探す手間が、省けたな」
俺の姿をその蒼い瞳に映したシキは、腕で体を動かしながら言う。
「無理すんな! 今、直で床に衝突しただろが!!」
「・・・・・・・気にするな」
手で制しようとした俺を言葉で制したシキは、自らの体を蒼い炎で包む。
蒼い炎。シキの生命力を操る能力の媒体。
コイツは自分の生命力を一時的に上げて、体力やらを回復しようとしてんのか?
そんなの、無理に決まってるだろ。
「いくら生命力が増えたからって、傷が治るわけじゃないだろ!」
「だからと言って、傷を増やすわけにもいかない」
さっきまでの痛みを感じさせない、シキのいつも通りの声が聞こえる。
シキはそのまま立ち上がり、俺を見て、
「行動パターンDと言っても、お前には伝わらないだろうな。一旦、部屋に集まって作戦を立てる行動パターンだから、今からその部屋に移動する。すぐに行くぞ、小月」
そう告げ、俺に背を向ける。
さっさと立て、すぐに移動するぞ。
そう言っているのか。
「分かった」
俺はそう言うと、シキはすぐさま走り出す。
俺はその後をついて行きながら、冷静に考える。
今のシキの状態は、普通に考えて危険だ。
そして多分、今この部屋には異常事態を引き起こした【何か】がいるはずだ。
無理してでも動いて全員が集まる部屋に行っけば、一人ぐらいは医療の知識がある人間がいる可能性が高い。
まともな処置を受ければ、シキの能力で高まった生命力が短時間での完治を可能にしてくれるかもしれない。
そっちの方が、シキを無理に動かさないよりは、まともな判断のはず。
・・・・・・・・・・・・・・・・でも。
不自然に走るシキの姿を見ていると、どうしても今すぐに動かせるのを止めた方が良い気がしてならない。
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「おう、シキ。ちゃんとに張空は連れてきたか?」
「当たり前だ。アタシを誰だと思ってる」
約5分間、走り続けた俺達は、防空壕みたいな洞窟じみた部屋に辿り着いた。
昔の日本じゃあるまいし。
「張空、来い」
言われた通り、俺は園塚の傍に行く。
「お前、アレとは遭ってないよな?」
「アレ?」
「その様子だと、ってやつか」
園塚は少し安心したように言う。
そして、何が起きたかを俺に話してくれた。
「蘇生した奴の素性は、ココへ来た襲撃者だ。オレがそいつらを拷問してたのは、見たよな」
「ええ。あのグロ光景は二度と見たくありません」
「襲撃者は計10人。そのうち7人までは処理が終わってたんだが、」
処理って・・・・・。拷問して殺したのを7回もやったのか、コイツは。
「8人目で異常事態が起きた」
「何が起こったんですか?」
「裏の世界の新入りには伝わり難いだろうが、寄生虫が暴走したんだよ」
「寄生虫? 寄生虫って、ハリガネムシとかのあの寄生虫ですか?」
「表の世界で言うと、その寄生虫だ。ただ裏の世界では少しばかり凶暴な種類が多い」
園塚はそう言うと、自らが羽織っている白衣のポケットに手を突っ込み、
「これだ」
海鼠のような、腐敗色をしている生物を取り出す。
「これが襲撃者の一人の体内に大量に入っていた。シキが途中で気付いたから完全覚醒せずに済んだがな」
完全覚醒? 時限爆弾のようなものなのか?
「完全覚醒するとどうなるんですか?」
「化物姿のエイリアンが一匹誕生だ。お前、映画のエイリアンは見たことあるか?」
「口からなんか出て来るアレですか?」
「そうだ。あれと殆ど同じものが一匹誕生する。今回は誕生なんかせずに済んだが、」
園塚はエイリアン擬きの寄生虫を握り潰し、続けて、
「ヤバい状態になった。組織の人員の全員の安全は確認できたが、この建物内には化物が一匹いるわけだ。その化物は本来、繁殖することだけを目的に動き回るが、完全覚醒をしていない今、ただ暴れまわる迷惑な野郎になっちまってる」
「じゃあ、外に逃げれば」
「外もダメだ。組織を襲撃してきた奴らの作戦通りにいけば、中にいるオレ達全員をエイリアンにして、あとは殲滅っていうシナリオが用意されてる。だから今、ココの外には殲滅部隊が来てるはずだ」
・・・・・つまり、中に引きこもり続ければ化物の餌食。外に出れば殲滅部隊と鉢合せ。
少なからず、犠牲者が出るだろう。
「オレは出来れば、ココにいる人間から犠牲者を出したくない」
園塚はそう言い、
「そこで、お前が重要になるわけだ」
おかしな事を言い出した。
何でこの場面で、俺が重要になるんだ・・・・・・・・・・もしかして魔神に関係してるのか?
「ああ、魔神の事は関係ないぞ。ただ、お前の存在自体が大事なんだよ、張空」
園塚は狂ったような声を出す。
俺自体の存在が大事となると・・・・・・人質にでも使うのか?
戦闘要員にはならないだろうし、園塚の様子を見るともう作戦もあるようだし。
「ちょっとした、能力者になって欲しいんだわ」
「俺に隠された能力なんてありませんよ」
魔神は隠しているらしいけど。
「大丈夫、大丈夫。素質は関係あっても、才能とかは関係ないから」
園塚のニタニタ笑いが気持ち悪い。
「裏の世界には、凡人でも能力者になれる特別なものがあるんだよ」
「何ですか? 白い悪魔と契約して魔法少女にでもなるんですか? 怪物に首食われなきゃいけないんですか?」
「そう、契約だ」
この野郎。俺の台詞を殆ど無視して、話進めやがった。
っていうか、契約?
「雑音拒絶って言ってな、誰でもある事をすれば発現するんだ」
「ある事?」
「他人の女性の血を飲む事だ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ヤベェ、聞かなきゃよかった。
「何で俺がそれにならなきゃいけないんですか?」
「・・・・・」
俺の問いかけに園塚はしばらく黙り込み、
「オレの作戦では、オレ達で中の化物を殺して、外の殲滅部隊をシキに撃退して貰う。だが、今のシキの状態を見てみろ」
園塚に言われ、俺は思わずシキの方に目を向ける。
シキは今、床に座り込んで、体力を回復しようとしている。
無造作に無尽蔵に使える力を使えばいいのに、床に座り込んで、体力を回復しようとしている。
「雑音拒絶は契約時に強く拒絶したものが間接的に能力になる。お前が一体何を拒絶するかは分からないが、最低限、その能力はシキの役目のサポートは出来るはずだ」
今のシキにあまり負担は掛けられない。
ほんの少しだけでも俺が背負えれば、シキの負担も少しは減るってわけか。
仕方が無い。
「なります、能力者」
俺は園塚に告げ、
「それで一体、誰の血を飲めばいいんですか?」
「シキの血――――」
「このお話は無かったことで」
前言撤回した。
いや、だって・・・・・・・・・・ねぇ?
「ヘタレだなぁー」
園塚が呆れたように言う。
ヘタレであろうとチキンであろうと、俺は嫌なものは嫌だ。
「仕方ねぇーな。おいシキ、こっち来い!!」
大きな声でシキを呼ぶ園塚。
まさかコイツ、無理矢理契約させる気じゃねぇーだろうな!?
何も知らないシキは、トテトテとこちらに来る。
「おい、ちょっと指出せ」
「・・・? 何でだ?」
「ちょっとお前の血を使いたいんだよ」
園塚のその一言でシキにはすべて伝わったらしく、すぐさま俺を睨み付ける。
いや、睨み付けられたって、何も知らなかったんですもん。俺は悪くない。
「・・・・・・分かった」
目を逸らした俺の態度を見て、シキが呆れた様に言う。
「そんじゃ、遠慮なく」
園塚はどっからか小さめのカッターナイフを取り出し、指先を少しだけ切る。
切られた指先からジワジワと赤い液体が出始め、
「ほら張空、口開け」
「いや、俺は―――――」
「さっきまで、俺はやる、って言ってたろが」
「俺はそんな事――」
「痛いんだが、さっさとしてくれないか?」
もじもじと嫌がる俺をシキの冷徹な一言が貫く。
はい、すいませんでした。
俺は口を大きく開き、上を向く。
シキは俺の口の真上に切られた指先を持っていく。
いやー、俺、何やってんだろ。
今すぐ口ふさげばいいのに。
はぁー、虚しいな。
そして、赤い滴が俺の口の中に入った。
主人公にやっと能力が備わりました。
さて、主人公は一体、何を拒絶したんでしょうか?
でもまあ、この勢いでいくと次話はバトルになるんでしょうね。
シキの能力がチートな分、考えるのがクソ難しそうです。
でもまあ、主人公の能力はしょぼく設定しますので、±0ですね。
死神と凡人 対 殲滅部隊
あぁー、こういう時、書く側じゃなくて読む側ならいいのに。