夏休み-5
しばらく歩いていた俺達御一行は、内壁が全て白い広めの部屋に着いた。まあ、その白い内壁を隠すように段ボールが積まれてあるけど。
「ここは」倉庫ですか?
「元は検証実験とかする部屋だったんだがなぁー、今は倉庫みたいなものだ」
園塚はそう言うと、適当に段ボールの一つを開け、中をあさり始めた。
「何やってんだ?」
「さあ」
俺の問いかけに対し短く答えたシキは、その後、何も発言しなかった。
相当機嫌が悪そうだ。一体、何やらされるんだ? バニーガールにでもなるのか?
「こいつだな」
無駄な妄想を自動的に働かせてしまう寸前で園塚が俺に何か渡してきた。
これは・・・・・・・腕輪、だよな?
「自動収縮機能付きの・・・・・簡単に言えば発信機だな」
「発信機?」
俺ではなくシキが園塚に問いかける。
「あぁ。あくまで簡単に言えば発信機だ。その発信機には自動収縮機能やら魔力干渉妨害機能やらを付けてある。まあ、指でも手首でも足首でも首でも、付ければ効力が出る」
そうシキに言うと園塚が俺の方を向き、
「いっその事、今付けちまおう。どこにする?」
「じゃあ、取り合えず、手首で」
「なら片方の手首とその腕輪を出せ」
そう言い、俺の左手首に腕輪を付ける。
俺の手首に対し少し大きめの腕輪は、園塚が少し操作すると、俺の手首に合わせるように縮んでいった。
科学の力って本当すげぇー。
「これでお前は常に組織に監視されている状態になった。まあ、監視っつっても誰かが魔神を狙いに来ないか見張る警備員みたいなものだと思ってくれ」
園塚はそれだけ言うと、倉庫から出る。
俺達も続けて倉庫から出ると、
「それじゃぁー、次はシキだ」
園塚が気味の悪い笑いを浮かべながら言う。
もしかして、シキの嫌がってる事を今からやらせるつもりなのか?
「どこだ?」
シキはさっきの20倍も不機嫌な顔をしながら苛立った声で訊く。
完全にブチ切れ寸前だよ、こいつ。
「BF2の4号室だ。先に行ってるぞ」
園塚はそれだけ言うと、勝手に歩きだし、俺達を置いて行った。
「小月、お前はもう帰っていいぞ」
シキは園塚の姿が見えなくなってから、そう言った。
「いや、俺も行くよ」
何となく、シキが今からすることが気になるし。
「なら、言い変える。帰れ、小月」
「嫌だ。俺も行く」
「・・・・お前の望んでいるものは見られないぞ」
「・・・・俺の望んでいるものって何だよ?」
「アタシの弱みを握って、それを暇な時にでも玩具にして遊ぶ」
・・・・・・・・・・・・チッ。バレてたか。
という心情は大嘘であり、事実とは関係ありません。決して。・・・・・・絶対に。
「すみませんでした」
「なら帰れ」
俺は何故か頭を下げ、シキはそう命令する。
俺もそうしたいんだがな、残念ながら無理なんだ。
「言っておくが、俺は帰り方を知らないし、お前を待っておくにも銃口を向けてきた人間に話しかけなきゃいけない。俺はそれは嫌だぞ」
「・・・・そういう言い訳を用意していたか」
いや、言い訳じゃないんだって。本当は何をするのか見たくてとっさに思いついた言い訳なんかじゃないんだって。
「なら、ついて来い」
シキは諦め気味にそう言い、勝手に歩き出す。
俺はその後をシキに言われた通り、ついて行く。
「ただ決して、見て気分が良くなるものではないことを、先に言っておく」
シキはそう言った後、一言も喋らなくなった。
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地下2階は・・・・・明かりが所々点いておらず、ほぼ真っ暗な廊下が延々と続く場所だった。
「一体、どういう階なんだ? 霊安室か?」
「正解だ」
シキはこちらも見ずにひたすら前に行く。
「死体を持ち込む階層だ」
シキはさっきの苛立った口調とは違った、一切感情の無い声で言う。
「ココだ」
シキは廊下の壁の側面についている札を見て、立ち止まりながら言う。
その札には辛うじて『4号室』と書かれてあるのが見える。確かに園塚が言っていた場所だ。
シキは札の近くにあるドアノブを捻りながら引く。っていうかドアだったのか。暗くて気付かなかった。
ドアを開けると、中の光が漏れだし、一瞬、目を瞑った。
「ン? 張空小月。お前も一緒に来たのか」
中から聞こえてくる声に、俺はどうにか目を開きながら、確認する。
部屋の中は、まるで警察の取り調べ室のような場所だった。
園塚は部屋にある机に座っている。
その園塚のせいで見えないが、後ろには誰か人がいるように見える。
シキが嫌な事って、取り調べだったのか。
「んじゃぁー、頼むぞシキ。それと張空、お前はさっさと中に入れ」
園塚はそう言い、机から降りる。
俺は言われた通りに中に入り、ドアを閉める。
シキは椅子に座って俯いている誰かに近づく。
さっきは園塚で見えなかったが、今は本人が俯いているから大して変わらない。
「張空、見てろ。この世の理が壊れる瞬間ってやつを」
俯いた誰かを見ていた俺に、園塚が近付いて呟く。シキに聞こえないように。
何だ? 取り調べ一つで壊れるほど世界は脆かったか?
その疑問は間違っていた、根本から。
百聞は一見にしかず、という諺があるが多分あれはこういう時には不適切なものだ。
だけどあえて使う。
百聞は一見にしかず。
いくら人の話を聞いたって理解が出来ない。なら実際に見た方が良い。
だってそうだろ。
シキが嫌がっていたものが取り調べだと勘違いしている俺に何を言ったって理解が出来るわけがない。
なら見た方が早いのだ。
園塚が言う、理が壊れる瞬間を。
シキは俯いている誰かに片手を向ける。途端に誰かは蒼い炎で燃え上がり、吐血する。
「あの座ってる奴からは血を全て抜いたんだ。血管にも心臓にも血は一滴も残っていない。少しおかしくないか?」
園塚は楽しそうに言う。
俺は人が勝手に血を吐いた程度で酷く動揺するような精神の持ち主じゃない。
けど、囁くように言った園塚の一言は・・・・・正直なところ、意味が分からない。
血を全て抜いた? そんなことをする方がおかしいだろ。
大体、血が体内に一滴たりとも残ってない奴が吐血なんてするわけないし、生きてるわけがないだろ。何を言ってるんだ園塚は。
『アタシは生物の生命力を自在に変更できるんだがな』
『ただ決して、見て気分が良くなるものではないことを、先に言っておく』
『まあ、園塚にとっては楽しく愉快な事をアタシがやらせられるだけだ』
何故か、何故だか、ここに来る前のシキとの会話を思い出した。
もしかして、もしかすると、あの座っている奴は既に死んでるんじゃないか?
それで、シキの力で蘇らせようとしてるんじゃ・・・・ないんだろうか。
シキの力は生命力を自在に操る事。その限度などは知らないが、多分、彼女が望めば操れるんだろう。
それはつまり、死者でも・・・・・・蘇らす事が可能というわけだ。
生者を死に追いやることも、死者を強制的に復活させることも可能な存在。【蒼い死神】。
確かにこれはこの世の理が壊れるには充分過ぎる。
死者の冒涜なんてものじゃない。本当に死神なんだ。
「終わった」
シキがそう言うと、椅子に座っていた奴が青白くなった顔を上げ、はぁはぁ、と息を吸っている。
本当に蘇った。
そう思った瞬間だった。
あぁあ。次話は伏線回収しなきゃいけないし、伏線はらなきゃいけないし。
書くの面倒だ。はぁー・・・・・・・。
あ、あと読了時間がこの話で1時間を超えます。
ここまで来るのに・・・・長くはなかった。