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ハーヴェイ・サテライツ  作者: 毛糸
一章・Ⅰ【日常と非日常】
8/18

三話「告白と可愛い女の子」

 六時間目が終わりを告げた。月も明日で四月に替わり、ぽかぽかとした空気に包まれているせいか、ハードスケジュールなこのカリキュラムに屈服する者はおらず、皆ニコニコで帰りの用意をするのだった。

 ソレについて人間って単純だ、とか思う人間の俺は何処か冷めているのかもしれない。

 現在の席は教室の左から2番目。窓側に一番近い男子の座席で、上から五番目かつ下から二番目に俺の席がある。ちなみに左側には三時の春空を眺めている暴力的美少女と右上には友達の熊のストラップを見ながら綻んでる天然系美少女が居て、どちらも顔見知りな俺だが決してリアルで充実しているような人間ではない。さあ唱えようか、リア充爆発しろ。

 そんな馬鹿事に呆けていると、ここからは割りと遠くにある教室のドアが開き、爽やかで昔からの知り合いである男子が顔をひょっこり出してきた。

「おーい、経汰くーん、里堆経汰くーん。ご報告ご報告ーっ!!」 万遍な笑顔。

 んだ?とそちらに目で合図をする。クラスの生徒も全員ソイツの事を見ていたが、そんな事もお構いなしに大声で、

「一年五組のアイドル的美少女、九重(ここのえ)さんがお前に放課後話あるらしーぜーッ!!」

 前言撤回。リア充は爆発すべきじゃない。速やかに撤回だ。

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』 男子も女子も、団結力高く叫ぶ。

 おめでとう! 最高の高校生活じゃん! リア充死ね! などの声が俺の耳を通る。

 「お前何故叫ぶんだ!?」と説教をする前にソイツは教室から居なくなり、盛り上がる生徒。

 そして何より、後ろから殺しの視線を感じている俺。

「な、何で怒ってるんでしょうかねー木崎さん?あっははー止めてくださいよその汚物をマジマジと見るような目つき」

 後ろを見れば、虎が竜を見るような冷たい目線をおくってきている美少女が居た。睨まれる理由は解らない。きっと気に食わないんだろう、と勝手に把握した後、

「別に怒ってないわよ。さっさと美少女の下へ行って来たら?」 皮肉交じりに言ってきた。

「い、言われなくとも行ってきますよー、ははは……――って、なぜアンタもそんな目してるんだ!?」

 目線を黒板側に変えると、今度は斜め前に居る苅野の「え?何やねんお前?」みたいな目が俺を突いている。

「そんなに駄目か、そんなに俺は美少女に絡まれるのが駄目なのか!?」と心で叫んでおく。

「里堆くん……告白されるの?」 いや知らねぇよ!?

 てか何だよ苅野その潤んだ目は!まるで飼ってた鳥を野生に逃がす時のように悲しげな目つき!

「わー、わ、私もそういえば九重さんに用事があったんだよねぇー、ははは」 嘘だ!

 何だよこいつ等ッ!何で間接的に俺の青春を妨害するんだ!?鬼か!中学生か!嫉妬か!

 というか俺心でめっちゃツッコミしとる!何かキャラ崩れとる!落ち着け俺!

「こ、コホン。えーっと、まだあれじゃん。あのーうん、あれだよ。告白とか決まってないだろ」

 苅野にそう言うと、周りの生徒が「鈍臭っ!」とか「鈍感……」とか「うわぁー」と冷たい目線をおくってきた。何だろうか、事実を言ったのに軽蔑されているような……。

「で、どうするの?」

 そんな中、話をまとめる様に木崎がそう言った。クラス全員の視線も木崎に集まる。

「いや、如何するのと言われてもですね……――ど、如何しましょう?」

 質問を質問で返した。

「如何って、聞かないでよ……。そりゃ九重さんは成績優秀で顔もいいって言われてるし、テメ――いや、 経汰に好きな人とか居ないなら付き合ってみるのもいいかもね」

 木崎が冷たく言うと、クラスのメンバーは「うんうん」と一致団結した。苅野は「何故下の名前……」って言いながらカビョーンとなってたけど、気にしない。俺も聞きたいくらいだ。

「好きな人……うーん。今は居ないけど」

 俺が言うと、クラスの全員が「なら付き合えよ」と言い返す中、苅野は「里堆くんと何があったのあやめっち!?」とか言っているが、やはりスルー。俺も聞きたいくらいだから。

「なら付き合えば良いんじゃないの?それ自体苦ではないだろうし、何も無いのに断ると向こうが傷つくかもしれないし……」

 木崎は何故か告白を了承するように勧めてくる。というかまだ告白って決まってないのだけど……その辺は口を慎もう。

「で、でも……良く解んないだろ。仮に付き合うとして――」

「つーか、私に相談しないで自分で考えたら?何で「~だろ」とか「仮に」とかさっきから私に意見を求めようとしてるの?そう言う所、男として情けないわ……。はいかいいえでハッキリ答えなさいよ」

 わー、お母さんみたいに説教されました。そしてご機嫌斜めのようなので……。

「……あぁ、ゴメン。んじゃ自分で決めるよ」

 でも実際、頼ったのは事実だな。と反省しつつ、へなへなしてる苅野を横目に木崎にお礼を言うが、返事は返って来なかった。何か周りの態度が可笑しいような気がした。



***



 帰りのホームルームも終わり、いつもと同じペースでいつもとは違う場所へ向かう。普段は校舎を出て左に行けば帰りの門を通過できるのだが、今回はその逆に向かう事になった。

 右に曲がって真っ直ぐ行くと体育館に着くのだが、そこから右に曲がってまた突き当りを曲がれば、

「ここ……だよな」

 【空の間】という公園のような広場に到着する。

 ココに呼ばれたのは他でもなく、九重さんに呼ばれたからなのだが、

「あの……」 直ぐに見つかった。

 後ろから声をかけられ、身体ごと振り返った時、

「さ、里堆君……。あの私、ちゅ、中学の時から貴方が好きでした」

 そこには、絵に書いたような美人が居た訳だ。本当に貶す部分が見つからないくらい。清潔感もあって、いかにもお嬢様で、赤くなる顔とかも男から見ればドツボのような人だ。

「よければ……私と付き合ってください」

 それは俺の期待を裏切る事の無い、真剣な眼差しで送られた告白だった。

 黄昏をバックにした姿は、きっと町行く学生の足を止めるだろう。



***



 でもなぁ……。何で俺なんだろう。

 現在、自宅への帰り道で呟く。九重さんをさっき家まで送ったのだが、驚く事に俺の自宅と殆んど同じ場所だった。それでも今は六時で月が出るくらい暗くなっている。

 あー、それと、俺と九重さんの家の近くには一つの小さな公園がある。何故今この場面でそれを説明するのかと言うと凄く言いづらいのだが、やっぱり言うしかない。

「待ち伏せですか」

「聞き捨てならん言い方よね」

 ご覧の通り。言いづらいのはその公園に知っている人物がブランコをギコギコしていたからだ。誰かと言えば、やはり言わずとも解るであろう木崎だった。そして何故か向かいのベンチには私服姿の苅野も居る。

「はぁ……お前らの家この辺だっけ?」

 溜息混じりに言うと、木崎はブランコを緩くこぎながら、

「直ぐ近くよ。そんな事より――九重さんとのラブラブデート楽しめた?」

「げっ、お前……まさか見てたとか?」

「だってこの公園から丸見えじゃない、九重さんの家」

 そっぽを向きながらそう言っている。苅野はといえば目をまん丸にして口をポッカリ開けている……返事が無い、ただの屍のようだ。

「随分と会話弾んだみたいよね。この時間帯に帰ってくるとは、相当寄り道したと見るわ」

「……鋭いっすね、今日の木崎さん」

「はぁ……やっぱり。まぁ付き合うのを勧めたのは私だけど……」

「あー、それだけどさ。俺――断ったよ」

 ソレを言った瞬間。木崎のブランコをこぐ足が止まり、魂を抜かれていた苅野が元に戻り、二人の視線が同時に此方へ向けられる。

「い、いやぁ……お、怒らないで聞いて欲しいのですが、俺にはあの人合わないというかなんと言うか……ほ、ほら。だってさ、俺が好きな人って個性あって自分の道を進んでる一生懸命な人だし、優しいとかそんなごく普通の人と仲良くなったって面白くないと思うんだよ――って、あー、えっとそれは九重さんに才能とか個性が無いとかじゃなくて、やっぱり何かうん。その……うん……――まぁ、そんな感じだ」

 九重さんは、俺が断ったら「一日だけでも恋人になってください」と健気な事を言ったので今日一日だけ仲良くしていたのだ。うん。つまり断ったのだ。

「はぁ……」 木崎が小さく溜息をして、苅野と目を合わせクスリと笑った。

 そして「どんな感じか解んないわよ……」と言うと、苅野は「でも……」と言葉を紡ぎ、


「経汰らしいっちゃ、らしいわね」


二人のとびきりの笑顔は暗がりでも輝いている。


ご愛読有難う御座います。


古くからの友人にこの話を見せた時、最初からこんな感じでいけよ。そしたら読者引き付けられるんじゃないの?と言われてしまいました。

ですが全くもって自信が無いです。もっと上手くしたいんですが、やっぱり手を加えられないくらい精一杯で……。

これからもよろしくお願いします><

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