二話「初めての高校生活と初めての体験」
心臓を刺される体験をしました。
そう言ったら俺には友達が居なくなるんじゃないだろうか。
頭が可笑しいと言われるし、そもそも刺されて生きているなんて稀過ぎて異能の生物だと思われてしまうからだ。だか、俺はその「刺されて生きていた頭の可笑しい異能生物」の類になる人だった。
まぁ刺された事実は消せまい。ソレは認めよう。だが何故俺は生きている。医者もビックリ。左胸から肩甲骨にかけて貫通していた俺の肉は傷すら残していなかったのだから。全くもって疑問が尽きない。
ま、そんな事言ってても心底大体は予想できるな。ファンタジー漫画沢山読んでいた自分が推測するに再生という異能の力を所持しているか、あの少女が切った物質は一時経てば元に戻るか、だ。前者も後者も科学的に有り得ないがそもそも今俺が生きてる事自体有り得ないので可能性は否めない……。空を飛びたい気分だった(つまり投げ出したいって事)。
さて、そんな俺こと里堆経汰だが、ご報告がある。
「えーっと、高校生活始まりました」
多分、中学校がそのまま高校になるだけの卒業式に泣いたのは現在右斜め前に居る栗毛ボブヘアー可愛さランクS世間一般で言う美少女の類である俺の知り合いだけだと思う。因みに名前は苅野深愉さんだ。とってもとっても純粋で天然だと第一印象で分かった。
いや、そんな事よりさ。
「何でお前が居る訳?」 左隣の女子に言ってみる。
「何よ、悪い?進学の時クラス変更無しって聞いたけど一クラスだけ無くなるらしくてゴリ押しとしてこのクラスになったの」
嫌そうで結構笑顔という、挙動が解らんこの女の名前は木崎狭。
この学校は中学と高校が同じなため、そのまま進学できてしまう高校なのだ。が、中学の校舎は七クラスで高校の校舎は六クラス制なため、七組に居た木崎達はバラバラになって其々のクラスへランダムに入った訳だ。ちなみに我がクラス二組には木崎以外にも六人程七組の生徒が入ってきた。
「だが六分の一という確率でここに来るなんて……。しかも席替えした瞬間隣だなんて……俺の高校生活、期待すべきじゃないな」
「何ボソボソ失礼な事言ってんの?ぶっ飛ばすわよ」
「マジでぶっ飛ばしてくるから厄介なんだよな」
力の変更を五十倍に出来る美少女が突如ぶっ飛ばすわよ、と言ってくるのは俺の周りだけか?そういう俺は恵まれてるのか?死と隣合わせでも美少女と居れば恵まれ者か?
やばい、疑問が多い。一旦全て置いてしまおう(アイキャンフライ)。
「んでさ、なんでテメェは生きてるの?見たところ心臓一突きだった気がするんだけど」
「いや、それが俺にも良く解んない。刺される感覚はあったけど、いつの間にか治ってたって感じかな……」
これが高校生の会話なのだろうか。というか人間の会話なのだろうか。
「ふーん。で、あの少女誰?」
「しらねーよ。なんか「おにーちゃん」とか言われたり「仲間」とか「同じ」とか言ったり、なんか俺を含めてるみたいに「私たち」って複数系で言われたり……、うん。馴れ馴れしかった」
「――、そ、それ本当なの?」
驚きを隠せない表情で、もう一度確認を取ってくる木崎に「うん?」と言ったら。
「アレは人工衛星の張り巡らされた電波で生まれた生き物。今はハッキングとかされてないけど、一応あの子は生きてるらしい。で、その子がテメェを仲間だとか同じだとか言ってたのなら……、テメェも同じ人工衛星で生まれた生命体って事じゃ……?そうすれば、肉体再生する辻褄が合うわ。「架空の生物」なんだから」
「……いや、そりゃ無いな。そもそも根拠が無い。俺は普通に生まれて普通に親も居るし。成長もしてるじゃん。力の変更だって使えない軟弱……」
いや、まてよ。俺が存在外の生命体、ポルターカイスト、ハーヴェイ・サテライツ、で生れたとすれば人間じゃないって事だ。あの機械は人間以外には反応しない……。やっぱり辻褄が合う?
……考え過ぎだ。そんなに上手く行くはずない。架空生物なら生長しないし、電波で生れたとすれば電波悪い所では生きていけないはず。それにサーモグラフィーでは体温写ったりするし、あの少女と同じ人種なのにこんなに人らしい訳ない。
「まぁ、気にせず行きましょ。そろそろ授業も始まるわけだし」
「あ、あぁ、そうだなー」
そうだ。特に気にしなくっていい。たとえそうだとしても、俺は俺だ。俺以外の何でもない。
そんな事よりも、中と高の学校が繋がってるせいで冬休みすら無く三月の終わりから高校の校舎で授業だなんて……。
「理不尽だ」
それと同時に授業開始のチャイムが鳴った。
***
三時間目の放課中。気付いたのだが、どうやら周りに勘違いされているみたいだ。
俺がサッカー部やってた頃の男子グループと仲良く駄弁っている時、友達の一人中島が、
「お前最近ホント付き合い悪いよなー。お前の顔なら合コンとかで充分遊べるのによー」
と言い出し、もう一人が、
「ちげーよ中島。コイツには木崎っつー嫁が居るんだろーが」
とか言った挙句、さらにもう一人が、
「え、いや、経汰には苅野じゃね?この前もなんかオタク三人に叫んでたし……あれ?」
と言い出した。「叫んでた」というのはいまいち理解に欠けるが、きっと俺が入院中の時だろ。と勝手に推測し、脳内の隅っこに入れてから、まず一言。
「何の事だよおいっ!」
俺は正しい答えを出したつもりだ。なぜ俺が木崎と?なぜ苅野と?俺はそんなフラグ立てた覚えはないし……。クソ!なんか嬉しいようで嬉しくない!一人なんて五十倍の力を持った女だぞ!?そしてもう一人は会話がたまに会話にならないアビリティを持った天然だぞ!?どっちもタイプじゃない!(ちなみに性格で選ぶタイプなので顔はあんまり範囲に入れないのだ)。そりゃ顔だけでいけばどっちも確実にアリだが……はぁ、複雑な誤解だ。
いやー、そもそも向こうは俺の事そこまで気にしてないんだろうし、放っておくか。
***
四時間目終了のチャイムが鳴った。
それと同時、学校の生徒は購買やランチ券などを買いに教室から居なくなる。この流れに呑まれながら階段を上り、目指すは屋上……なのだが。
「さっきから何だよ」
「テメェこそ何よ」
俺の後ろを着いてくる人影を感じていた。言葉遣いから言わずとも解るが木崎だ。
「俺は屋上でゆっくりメシ食うの、お解かり?」
「私は屋上が好きなの、お解かり?」
ふん、俺の方が屋上に行く理由になってるじゃないか!と心で堪能した後、黙々と階段を上って行く。
俺の足音とほぼ同時にくる木崎の足音が何故か心地いいと感じてしまうのは変態の素質が……いやいや。ただ単に、こんな光景が平和だと思って少し綻ぶだけである。と思う。
「それにしても、テメェは如何して狙われたのかしら」
「うん。今更だがまずそのテメェって辞めろよ」
階段を上がる足を一度止め、首だけ振り返って木崎を見ると、何故駄目なの?と首を捻られた。ここで「駄目って……一般常識を弁えろ」とか言ったら「心臓刺されて生きてるテメェじゃ説得力に欠けるわ」とか酷く言い返されそうだから、オブラートに包んでこう言ってみる。
「辞めた方が女の子らしいよ、お前綺麗だし」
……ん。んんんんんんんんん?あれ、コレって何か違う?ありゃ……。
何か間違えたとあたふたする俺と違って、木崎の反応は普通だった。顔や表情は普段と全く同じで、くるりと後ろを向いて長い黒髪を此方に向けた後、
「あぁ、私用事できたから一旦戻るわー」
いつもと同じ態度と声で、
「まぁ、一人でゆっくりしてれば?」
こっちに顔を向けないまま、
「じゃあね。き、経汰」
下の名前で呼んできた。
木崎は猛ダッシュで校舎の階段を駆け下りて行き、直ぐに居なくなった。
「…………………………、」
俺はこの前と同じで十秒あたり固まってから、口を開く。
「コレが新世代の萌えか……」
初体験だった。
ご愛読有難う御座います。
少しだけ書き方を変えてみました。
モロ日常な場面に、少しずつ「今までの流れをおさらい」
みたいな感じにしてみたかったのですが……、出来てたら嬉しいです。
それにしても、人工衛星の謎は絶えません……。
それでは、有難う御座いました。