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ハーヴェイ・サテライツ  作者: 毛糸
一章・Ⅰ【日常と非日常】
6/18

一話「無傷と涙」

 左の窓から風が吹いている。

 私の座る席は教室の左から二番目。つまり窓側の隣。そこの上から四つ目の席に私がいる。この席の周りには仲のいい女の子はあんまり居ない。というか前も後ろも勉強熱心な子だから声かけれないのだー。ははは……。

「むぅ」 頬杖をついて、私なりの嘆息。

 何だろう。それが理由で、喋る人が居ない理由で、一度彼に声をかけただけなのに……、今は凄く寒い。左側がとっても寒い。かといってソレを意識し続けると目頭が熱くなって、本当に私らしくない感じ。

 でも、すごく楽しかったなぁ。一回喋るともう一回喋りたくなるくらい。なんか友達感覚で異性に話しかけたのは慣れ慣れしいかな、とか不安だったけど、返事来た瞬間にそんなのが消えてしまった。……もう一度話したいなぁ。

「里堆くん……」 あ、違った。さっちんって呼ばないと。

 そんな感じで隣を見る。勿論、彼は居ない。

「里堆くん……」

 どうしても、さっちんって呼べない自分が居る。理由は解らない。心では呼べるんだけど、今は声に出して呼べない。呼ぶと恥ずかしいというかなんというか……いやぁ、全く私らしくないですなぁ。

 暫く空を見上げていると、すぐにチャイムが鳴った。教室内の生徒達は席を立って室内を移動する。

 すると、右側に居る「捻くれオタク男子」と呼ばれている三人グループの会話が耳に入った。

「おいおい、聞いた?里堆の事」

「あぁー、聞いた聞いた。通り魔に襲われたんだって?ザマァみやがれっての」

「だよなー、あんなリア充やられればいいんだよ、スカっとするぜ」

「しかも少女に襲われたんだろ?ハハハッ!軟弱じゃん!情けね~」

 ……さっちんは軟弱でも情けなくもない。

「つーかあれだな。アイツ木崎たん怒らせて学校半壊させたりとか、やってる事滅茶苦茶なんだよな。あー嫉妬嫉妬。いっそ死んじまえばいいんだよなー、はははッ」

「――ッ!!」

 ソレを聴いた瞬間、あの時の光景がフラッシュバックのように繰り返された。

 ドアを開けたらさっちんが心臓を刺されていた事。

 刺した少女に何も出来ないまま逃げられた事。

 床に広がる禍々しい血の光景を見た事。

 私が無力だから、あの時に走って逃げてしまったから、だからさっちんは……。

 さっちんは……。

 バンッ! 気が付けば両手で机を叩き、立ち上がる身体。

「里堆君は軟弱でもないし死んでいいような人間じゃないよッ!!」

 何故か大声を張り上げていた。……何で私こんなに熱くなってるんだろ。多分クラスメイトを侮辱するのが許せない、っていう綺麗な怒りじゃないと思う。

 横でビックリしている三人は、そのまま何処かへ消えていった。

 私は立ったままチャイムが鳴るのを待った。


左側が寒い。



***



「こ……これは――ッ」

 応急用緊急手術の一室で担当(リーダー)の斉藤さんが手術中に驚きの声をあげた。切開した胸元を見て驚いているらしい。

「何なんだ、コレは……」

 周りの助手も目を点にしていたり絶句していたりと、驚きを隠せない状態だった。

 今手術している患者は中学校の少年。尋常じゃない大きさの刃物で胸を一刺しされたらしい。ほぼ助かる余地がないのだから、皆が体内のキズを見て驚くのも当然だろう。と思いながら彼の切開された胸を見ると、

「…………………………、は?」

 即死レベルで刺されたはずの心臓は、何事もなかったかのように動いている。



***



 あの事件から十数日の、卒業式前日。

 三月の中間で皆は高校でも殆んど一緒だからか、登校する生徒達は皆笑顔だった。かという私はイロイロあってあんまり晴れた気分じゃないけど、門に足を踏み入れると何故か心が落ち着いた。もの凄く、落ち着いた。

 下駄箱に着いて何時ものように靴を入れると、階段を慌てて下りてくる女性が此方へ向かってくる。

 綻んでいるけど険しい表情で、整った顔と黒髪が羨ましい女の子……最近友達になった木崎さんだ。

「おはよぅ!あやめっち!」 元気に挨拶!

「お、おはよ……はぁ、はぁ」 凄く息切れしてる。

 でも、それなのに笑っていた。息切れしていても笑っていた。ここ十数日は欠席や遅刻ばっかりで笑顔すらなかった木崎さんが、とっても嬉しそうに此方をみていた。

 それだけで、身体の毛がぶわーって逆立つ感じになった。今にでも足が動き出しそうで疼いていると、

「教室、行かないと遅刻するよ!」

 木崎さんが笑顔でそう言ってくれた。私は「ごめんね!」とだけ言って全力疾走。

 必殺階段二段飛ばし!

 とか高揚しながら走って、スカートとか気にしてられないくらい走って、周りの生徒追い抜いて、ガララン!と、勢い良く教室のドアを開ける。

 周りを見ないように極力俯きながら全力で走って、自分の席に着いた時。


左側が暖かかった。


 顔を上げ、今まで寒かった方向を見れば、

「おはよう、苅野」

 私の中で溜まっていたダムが、その優しい声で潤む間も無く壊れてしまった。

 前が見えないほど涙を流し、今日からまた「暖かい」学生生活が始まると思うとまた涙が出る。


「うぐ、あぅ、だ、助けられなくてごめんね、里堆くん……ぐずっ」

 泣き顔見られるの恥ずかしい。けど隠し切れない。泣きながらそう言うと、優しい声が耳を通る。

「……はぁ、それは違うだろー苅野。ゴメンよりアリガトだって」

「――ッ!? う、うわぁあああん!!」

 涙腺大爆発の号泣には、笑顔も混ざっていた。気が付けば抱きついていて、里堆くんの制服をびしょ濡れにしている。

 あやめっちには悪いけど、少しこのままで居たい。

 ゴメンよりアリガト……、ありがとう。


帰ってきてくれてありがとう、里堆くん。


愛読有難う御座います。

新章開始しました。

これからは意味不明だった少女の話を解読しつつ、リミッターを使った話をしていきます。


それでは、有難う御座いました!

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