一話「雑草と雑日」
“生徒会一同からの願書”
“以下の人物を「新」風紀委員への参員とし「旧」風紀委員長兼、生徒会長直々に申請をする”
副将 “大裂渦身”
支将 “豊ヶ原月見”
大将 “里堆経汰”
“グループの名を貴公団とし、参加を拒否した場合以上の生徒を退学と処す”
***
目を瞑り、深く呼吸をした。春も終わり初夏の悶々とした空気が肺一杯に溜まっていく。それだけで俺が外に居るのだと分かるだろう。こんなムンムン湿気が家だったら色々と拷問だ。拷問といえばこの鼻をつつく青々とした匂いが気に食わない自分、里堆経汰である。
息を溜めて溜めて、気持ち悪くなってから――、
「おい木崎!休憩なしかよっ!」
そんな俺の心は、拷問よりも夏よりも怒りの熱で燃えている。
――1――
そもそもどうしてこうなった……うん、そういえば始まりはあいつの一言から始まったんだっけ。
“何かしたいわよね”
あいつしかない。俺は目の前に広がる光景を瞼という素晴らしい人体の器具で遮断させた後、唇をかんでみた。案外痛いこれ。
木崎渓。あの俗に言うツンデレ(とは言ってもデレが一割しかない)が授業中にも関わらず俺に話しかけたせいで、俺は今無性に腹立たしい。忌々しい。というか腰痛い。
「こら経汰!サボるな!!」
「何だよこのシチュエーション!普通は女子高生が何かしたいと言えば映画とかバトミントンとか観光とか都会でウィンドウショッピングとか華々しい日を過ごすんじゃないのかよ!?」
「うわっ!妄想信者キモ!!」
「どうせ俺は女性との交際経験が少ないですよーだ!」
「えっ!?ゼロじゃないの、チェリー君」
「神様忌々しいを通り越した言葉を僕にください」
初夏の熱が増す今、俺は暴力女の家にある庭で草むしりをしているのだった。
――2――
「むしむしむしむし」 いや決して虫を連想させているわけではなく無視でもない。気温がムシムシしていて草をむしっているからそれを繋げて――、
「虫がどうかしたの?」
「あのさ今俺が心で違うって否定した用語を聞かないでくれるかな物語のテンポが崩れるとこちらとしては――」
「何ごちゃごちゃ言ってるの?はやくそこの草抜きなさいよ」
ハイ、と棒読みで即答。ドラ○もんに出てくるような大きさの庭を一瞥し、草の生えている部分を抜き取っていく。ぶっちんぶっちんと音を立てては雑草という名の命を終わらせていき、同じ動作を三時間はやっているだろう……と心で愚痴ってみた。
「「…………………………、」」
空間でもないのに、草を抜くときの音だけがこだましている様に感じる。
きっとこの分かりづらくて無粋な比喩表現が出てくるのは、六月の梅雨の湿度で俺のカラカラな脳みそがシケッてるからに違いない。間違いない。……文才能力を季節で言い訳する自分が恥ずかしい。
「「…………………………、」」
いやはや会話が無いのですな木崎さーん?僕だけが心の中で叫んでいるって結構奇妙なんですけども……。と戯言を心で呟いてから、目の前に居る木崎に視線を変える(勿論草を抜きながら)。
長くて艶のある髪を後ろで雑に束ね、学校のジャージ姿にも拘らず美少女オーラを出しきる素晴らしい生き物が其処に居る。だがしかしチャラ男の皆様この子にナンパしちゃいけません、いや決して俺の女だからとかかっこいい事言ってるんじゃなくて……率直に言おう。死ぬぞ?ははは。いや冗談じゃねぇから。
「はぁ……面倒ね。使いたくなかったけど、やるしかない……かな」
「は?」
突然木崎が喋りだし、とっても嫌な予感と悪寒と冷や汗を胸に、問いかける。
「な、何するつもりだよ木崎何でリミッター弄ってんだよ今火事場を使うときじゃねーだろうが――」
「経汰、二つだけ言っとくわ……。まず一つ目が、火事場の馬鹿力を使っている状態をハーヴェイ状態っていうのよ。そして二つ目が――」
右手を上に翳した木崎はチラリと此方を見てから、
「逃げなさい、死ぬわよ」
「そっち先に言えよッ!!!!!」
ゴッォォォォォォォォォォン!!
「――、」
凄まじい轟音と同時に竜巻のような突風が俺の体を叩いた。視界が空に変わったと思えば、いつの間にか何度も転がって木崎家の壁に背中を強打する。頭がクラクラしながらも砂埃が舞う庭を凝視すると、草だらけだったはずの其処は見違えるほど茶色で一杯だった。
「ふぅ。草むしり終わり。これでレンガ埋めれば、日曜大工は終了ね」
砂埃の庭から、一人の美少女がそう言いながら此方へ向かってくる。まず一言。
「何しやがる」「逃げろって言ったじゃない」
「いや、俺が聞いたのはハーヴェイ状態で地面をぶっ叩いて草を吹き飛ばす一秒前の死の予告だけだ!!」
「ほら、私予告してるわよ?」
「一秒で何ができるって言うんだ!」
「死の覚悟」「殺すつもりだったのかよ!」
そう言うと木崎が、ウッサイわね男なんだから小さいこと気にしないでくれる?的目線を送って来るが、ハッキリ言おう「小さくないぞ」。まぁこんなの日常茶飯事な俺なので、特にキレたりはしない。……自分で言ってて悲しいぜ!
自暴自棄になって頭を抱えていると、目の前で仁王立ちしてた筈の木崎が俺から視線をそらし、視点を泳がせて且つ頬を人差し指で掻きながら、
「まぁ後は私の親がやるから、一先ずシャワー浴びて休憩ね……うんと、そっ、そそ、その後何処か行ってあげても、いい、いいわ……よっ」
俺の目の前にいたはずの怪力能力を駆使し暴力を振るう女は、ツンデレが様になる美少女に変わっていた。
素直じゃないなーと思いつつ、座っていた体を起こし、立ち上がる。
「あっはは。とりあえず風呂かせよ」
――ケータイの時刻は十時三十一分。大きな町での小さな物語は、そこから幕を開ける。
ご愛読ありがとうございます。
久しぶりの更新。か細い毛糸です。
えっと、やっぱり展開の速さについて指摘してもらい、それにも気をつけて書こうと思っています。アドバイスありがとうございます。
現在新作を二つほど作成中なので(内容は、評論家のように上から目線なお話です)そちらもお願いします。
それでは、ありがとうございました。