六話「覚醒と最終決戦の幕開け」
「イテェ……ははは。超イテェ」
「れ、礼を言うぞ、シモベよ」 「いつまでその呼び方だ!?」
左手から来る表現できそうに無い痛みに耐えながらツッコミを入れると、その光景をずっと見ていたであろう木崎と目が合う。
「っ!?」
ピクリと驚き、申し訳無さそうに視線を廊下に変えた木崎は黙り込んだ。
この空気を如何にかせねば……。いや、如何にもならないんじゃないか?だって原因俺だろ?俺が「気にすんなって」とか言って大丈夫か?駄目だ駄目だ。……なら。
「こ、コホン。えーっと、あーっと、うん」
「「?」」
二人の視線が此方を向くのを確認して、頬を掻きながら。
「木崎。俺、コイツと優勝する事にした」
それを言えば直ぐに怒るのかと思いきや、「あぁ……そう」とか予想外な反応が来たので調子を崩す。木崎はこんなキャラだったか?とか考えていると、顔を真っ赤にする豊ヶ原が視界に入った。だから袖を摘んで恥じるな!お前は理性殺しか!
「そう……よね、分かった。やっぱり経汰とじゃなくて正解みたい」
「……は?」
そういいながら木崎は無表情でゆっくりと教室から出てきて、俺たちと向かい合わせになるよう体を向けた。三メートルの距離は何処か遠く感じ、その気持ちに釘を打つような言葉を耳にする。
「私も、一緒に優勝する人決めたわ」
発言と同時、教室から一人の影……。砂埃で塞がれた視野に嫌悪を抱いて目を顰めると、
「あーあーあー疲れちったぜ俺様よぉー。アヤメちゃん。この気持ち悪い感覚、弁償してもらうからねぇ?ツケ一ペナ一、宜しくな?」
金髪オールバック且つピアスだらけの男子生徒が、視界に入った。顎を上げてフラフラと歩き、俺を一瞥するカラーコンタクトの人工オッドアイは鋭く俺を睨んでから、
「コイツがキョータ君?おいおいマジかよ、こんなんより確実に俺のがいーだろ!?神様もビックリだぜ!」
ケラケラと笑い、下心がありそうな目で木崎を見ながらその横に立つ。それに応じてか、豊ヶ原も俺の後ろから横に移動をして仁王立ちする。両者で向かい合い、とり合えず一言。
「うっせーよ絶滅危惧種“フリョー”」
ピキリ、と血管の切れる音がなぜか聞こえたと思えば、フリョー君が表現の出来ない崩れた顔をして、口を開いた。
「んだとゴラ?吼えてんじゃねーぞクソ犬!!」
「わんわん!」
「――ッ!?ぶ、ブッコロス!」
ダン!明らかに地面を蹴る音ではなく、砕ける音が廊下に響いた時――、既に俺の視界は金髪男子生徒の顔で埋まっていた。
「オセェんだよッッ!!」
それと同時、フリョー男子の右手が凄まじい勢いで振りかぶられ、瞬間。
ドゴンッ!! 腹から出た鈍い音と痛みが比例した。
「あッが……?」
視界が正面から下に変わり、次の鈍い音と痛みが聞こえたときには、既に上を向かせられていた。何がなんだか分からない怒涛の連撃が体を蝕み、痛みの感覚すらも薄れていく。途中で木崎の声や豊ヶ原の変な日本語等がうっすら聞こえたが、今の俺に聞こえるのは笑い声だけだった。
悪魔の、笑い声だった。
「フハ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!?!?!?!?カッスー?カッスー?え、何コイツ?20倍でボコボコじゃーん!カス過ぎるんだよオラ!!!」
背中、足、腕、顔、鳩尾。体の各部分が物凄い速度で壊れていく。ミシミシと唸り、攻撃が止んだと思えば、金髪の男は俺の服を掴んで投げ飛ばした。
「休憩はイラナイみたいだねぇ!?アヒャヒャ!!」
両手で受身を取ったが、勢いで体が転がり、口の中の血を吐き出す。ぐったりとして尚、金髪の顔を睨んだ。
近くで木崎が何かを言っていても聞こえない。金髪男子生徒の声しか聞こえない。
三度目の敗北だろうか?
誰がそうさせるのか?
力を持ってない人間がこうなるのか?
書き殴っても答えには導かれず、ただ痛みに声を堪える。
――きっと、俺はうかれていたんだ。
――きっと、俺は調子に乗っていたんだ。
勝てるはずが無い。だって、俺には力が無いんだ。使えないんだ。
「……――?」
……いや、まてよ?おい、俺今両手で受身取ったよな……?左手が使い物にならなかったのにどうして……?そういえばさっきの階段も、腕を怪我したはずなのに……?
ゆっくりゆっくりと自分の左手を見る。そこには何事もなかったような掌があった。
「――ッ!?……フ」
「アァ?何オマエ笑ってンの?え?もしかしてマゾ?キッモチ悪――……は?」
俺の目の前に移るのは、驚愕の顔をした男。そして俺は今――、
両足だけで立っていた。
――昔俺は、存在外の集合体というものについて研究した事があった。人工衛星から電波的にエネルギーを貰い、それを糧にしてリミッターというものが機能する。つまり、電波が張り巡らされている……。存在外の集合体とはその電波同士がぶつかり合って、ポルターガイスト現象が起こることだ。存在しないものが集合することで、ある筈の無いものが存在してしまう……という事になる。
――小学校の先生は言っていた。「存在外の集合体から、稀に生物が誕生する。しかしそれは電波による一時的な物で、場所を変えると張り巡らされてる電波状況が変わるのだから、消えてしまう。まさに存在外の集合体とは、天文学的数値で計算しても起こすことの出来ない、偶然なのだ」
――そして、担任は言っていた。「ありえない物にありえない事をされて、ある筈の無い出来事が起こったのならば、それは存在外の集合体がしたことで、されたものは存在外の集合体を上回るだろう。と昔の人は言っていたらしいが、それを聞いて三十年も経ったのに先生にはまだ意味が分からんな。でも、類は類を呼ぶらしくて、存在外の集合体は人間じゃなく同類の立場にいる人物と会話をしようとするらしい」
俺は今、全ての疑問の答えを知った。
ありえない生物に心臓を一突きされて、死ぬはずだったのに生きていた俺。
それは全て、存在外の集合体が俺にやったことで、生きていた俺はそれを上回っている。
――類は類を呼ぶ。
「分かった……んだよ」
体から、じわじわと湧いて来る何かを感じながら。
「ふふ。楽しみだ」
俺は……。
「血祭りに上げてやるよ」
俺は…………………………。
「クソ絶滅危惧種がッ!!」
――、人じゃないんだ。
ご愛読有難う御座います。
久しぶりの更新、毛糸です。
今回はもうネタバレでいいかな、と思い書いちゃいました。
最後の一言で「なんだこれ」となるでしょうが、気にしないで下さい(おい!)。
それでは有難う御座いました。