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逢魔梟介は不本意ながら本日もそして明日も迷宮案内人を続けている

 翌日の午前九時、待ち合わせ場所のダンディコーヒーに行くとアリサ先輩が笑顔で手を振ってきた。……女じゃなかったらとっくに殴ってんだよなあ。


 それとダンディマスターが親指を立てて「うまくやってるな」とかほざいている。ダンディ星に帰れ。


「昨日もそうだったけど先輩早いですね」

「三十分前行動を心掛けているからね!」


 ちなみにダンディコーヒーの開店時間は八時半だ。開店と同時に入店してるよこの人……!


「九時に待ち合わせとは言いましたがどうせダンジョンに入れるのは十時なので正直九時台ならいつでもいいっていうか、俺は朝ごはんも食べるので早く来ますけど」

「あれ、梟介って一人暮らし?」

「姉さんと二人で暮らしています」

「アカリさんか……」


 そういやヒカリンの後輩ってことは姉さんの後輩でもあるのか。ますます失礼に気をつけなきゃいけない相手だ。アカリンの弟が中学中退のカスだとか誹謗中傷が出回ればネピリムの金看板に傷がつく。


「都内だよね?」

「品川です。ARCプロダクションが用意したマンションでセキュリティとかしっかりしてるんですよ」

「わっ、すごそう」

「エントランスは指紋認証です」

「ハイテクだ!」


 驚くほどハイテクなマンションなんだよね。何でも築三年の富裕層向けタワーマンションらしい。あえて聞いたことはないけど家賃とかすごそう。……聞かない理由は絶対に払えないからだ。


 姉さんから半分出せとか言われたらストレージに山ほど詰め込んできた異世界の財宝に手をつけねばならない。未だ換金していない理由は出所を聞かれると困るからだ。最悪窃盗で捕まる。

 どっかの林に埋めて徳川の埋蔵金ってことにできないかと思ったがあんな西洋くさい財宝が埋蔵金のわけあるかって瞬時に自己解決したよ。


「先輩だってどうせいいとこに住んでるんでしょ?」

「まあね」


 ARCプロダクションはでかい事務所だから所属アイドルへのサポートが手厚い。ネピリムにも専属のマネージャーチームがついてるし、何かあれば司法にも二十四時間対応してくれるらしい。……まぁ俺はだいぶ睨まれているんだが。


 ダンディが運んできた軽食と紅茶を楽しみ、トイレを済ませ、席を立つ。

 まだ開門まで二十分あるがこういうのは時間に余裕を持たせるに限る、毎回駆け込む奴らもいるが入れなかったら二時間待ちぼうけだ、悲惨だ。


「ではそろそろ行きましょう」

「今日は第二階層に行ってみたいな~?」

「マジですか……」


 マジで第二階層からは危ない。ここだけでも年間うん十人は死んでる危険な場所だと説明しても聞き入れてもらえず、じゃあ大丘陵で一番手強いのを一人で倒せたら案内しますっていう割りと無茶な課題を出してみた。これはわりと本気で無理無茶無謀だ。なにしろあのでかいイノシシは第二階層の中間くらいのモンスターよりも強いからだ。

 まぁピンチのところを救出する感じにして身の程を弁えてもらおう。そう思っていたら先輩が……


「せりゃ!」


 突進してくるイノシシを華麗に斜め前ローリングで回避してから繰り出した横合いからの刺突でイノシシの心臓を貫きやがった。弱りながらも抵抗を続けるイノシシは動きの冴えを失い、軽やかに逃げ回る先輩マタドールを睨みながら座り込み、ゆっくりとちから尽きた。


 い…いくら何でも強すぎやしないかこの人、剣道二段ってここまでできるのかよ。つかこのイノシシって自衛隊のアサルトライフル一斉射に耐え抜いたかなりの強敵なんだけど。


 あ、まさか……


「先輩、ロールボード見せてもらえます?」

「いいよ」


 昨日渡したクラスワンのパーツの嵌ったロールボードは筋力上昇+4が五つ嵌っていた。あの時適当に渡しちゃったのって全部筋力+4かよ。そりゃ強いわ。

 第二階層にいる探索者でもパーツは+1とか+2で戦ってる中でこれとは……

 しかも戦闘職種最強と呼ばれる戦士ロール持ちだし……


「それでどう、あたし第二階層でも戦えるかな?」

「も…問題ないと思います」


 先輩はすでに脱サラして探索者やってる中年おじさんとか普段は本業があるから週末だけ潜るエンジョイ探索者なんかよりも強い気がする。


「でもくれぐれも油断はせず緊張感を保ってください。マジで慣れてきて気が緩んだところのうっかり事故は多いんで」


 俺にできるせめてのも抵抗は注意喚起だけだよ。

 ヒカリン、ごめん、先輩ってかなり探索者に向いてるかもしれないです……



◇◇◇◇◇◇



 第二階層『湿原地帯』の探索は午後二時に切り上げた。パーツも二つ落ちたがクラスワンの+1が二つだった。品質厳選の終わった俺からすれば二千円になるゴミだがまだクラスワンのボードに空きだらけの先輩にとっては嬉しいドロップ品だ。


 珍しく倒しても霧化しないモンスターの死体も手に入った。モンスターの死体は素材として企業が買い取り、探索者用の装備品に生まれ変わる。だから持ち帰った。……ストレージに入れれば楽なんだが先輩もいるし普通に背負って持ち帰ったよ。それなにって話になったら異世界に召喚されて勇者やってましたっていう頭のおかしい奴みたいな話もしなきゃじゃん。

 今回持ち帰ったのは妙に足の長いカラスを二羽。これを世話になっている藤林科学繊維さんに買い取ってもらったのは一応俺が社員待遇の契約探索者だからだ。基本的にはこっちの活動にはノータッチだけど定期的に活動報告書と手に入れた素材の専売が求められているんだ。


 でも今回は先輩の倒したものなので普通の買い取りで、二羽で一万円にしかならなかった。相変わらず査定が厳しい気がするがマジでよく売りに来られる素材なうえに初心者用の装備にしかならない雑魚素材なのだそうだ。


 藤林科学繊維さんは装備を作るメーカーに素材にした物を卸す原料系の会社だからなー。買い取る目的もダンジョン産素材の研究の部分が大きいんで研究の終わったありふれた素材の買い取りなんてボランティアと変わらないんだそうな。

 その他にも幾つか持ち帰って本日の稼ぎは俺が六千円。先輩が一万五千円だ。


「探索者って思ったよりは儲けが少ないんだね」

「第二階層は大学生がサークル活動でお小遣い稼ぎに来る場所なので仕方ないですよ。それでも粘り強く長時間潜れば三万円台にはいくそうです」


 ちょうどいい話題なのでここで注意喚起。


「長時間だらだらと探索していれば緊張感がなくなります。それで油断してうっかり死ぬって話はよく聞きます。まだいけるはもうやめておけなのです」

「だから梟介は一時間で帰りたがるの?」


 いえ、それは先輩のガイドがめんどうくさ……じゃなくて気乗りがしないからです。

 とはいえ社会性動物は本音を隠すぜ。


「そうですね、深く潜る時でも四時間を限度にしています」

「深くって普段はどの辺で稼いでるの?」


 ポータル権を手に入れたから十層とは言えない。一応ここの最新階層は八階層となっているからだ。

 ほら、誰もいない階層でチートを使って楽に稼ぎたいじゃん。人に見られるような階層で勇者のちからで戦っちゃうとお前いま何やったってなるじゃん。俺ツエー系漫画の主人公じゃねえんだよ。


「そうですね、最近は五階層です」

「梟介はすごいなあ」

「煽ててもダンディコーヒーしか出ませんよ」

「後輩のくせにおごろうとしないの。カフェ代くらいあたしが出すよ」


 男女で入店して毎回女に払わせるのってクズ男に見られてそうで嫌なんだがな……


「毎回悪いですよ。たまには俺におごらせてください」

「いいっていいって、後輩に出させるわけにはいかないよ。それにあたしこうみえてイイトコのお嬢様なんだよ?」


 グループが解散したとはいえアイドルで剣道二段で美少女で良家のお嬢様とかなんだこの人、無敵かよ。


「じゃあ大人しくおごられておきます」

「そうそう、素直にそうしなよ」


 おいダンディ、その大仰に肩をすくめて「おいおい、ボーイは女の扱いがまだまだだな」みたいな仕草はやめろ。

 そして別れ際だ。


「明日はちょっと用事があるからさ、また明後日からよろしくね!」

「え……」


 手をぶんぶん降りながら改札の向こうに消えていく先輩を見ながら戦慄する。

 これはどこかで強い意志をもって断らなきゃ無限に付き合わされるって直感的に感じたのである。

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