最終日、Two-wiseの十階層ボスを倒すまで帰らないぞ
コラボ最終日の配信が始まる。みんなして横に並んでの挨拶からスタートだ。
「ボスを倒すまで帰れないぞ企画もとうとう最終日!」
「ボスを倒すまで帰れないのに最終日ってなんだよ」
「明日は兵庫県で特番のお仕事だよー」
「げっ、ってことは倒せなかったらやべーじゃん」
「やばいよ! 神戸第一放送のみなさんも今頃ハラハラしながら見守ってくれていると思うよ!」
「神戸第一放送のみなさん、なんとしても倒すんで安心してくださいね!」
田中です!:開幕そうそうにピンチで笑った
ダンゾン専門家:ゴリラならやってくれる
「しかし私達も驚きましたね」
「そうそう、なんとアリサちゃんはさっきまでボスマラソンしてたんだよ」
「今も一睡もしてない状態でここにいるんだよ、ほんと驚きだよ!」
荒巻大輔:なんて?
山内しのぶ:アリサちゃんだけ眠らないで朝までマラソンしてたって遠足の日に眠れない子供じゃん!
〇珍ネス:とんだ狂戦士だぜ(褒め言葉)
淀川まもる:やっぱり深層に潜る人はどこかおかしいんだね……
森野博@石灯槍:なんて頼もしいお顔なんだ
FAN太爺:完全に戦士の顔になってる
山猫隊長:いや、これはゴリラの顔だ
「じゃあアリサちゃん、一言どうぞ!」
「みんな見て見て、ほらさっき+5パーツが四つも落ちたの!」
竜胆会長:完全にゴリラ
ひかり奏で:ゴリラにガチャを教えたらいけないんだ……
戦艦ヤマモト:きっと朝まで笑顔でガチャ回してたんだろうなあ
ダンゾン専門家:一晩で四ついいなー、視聴者プレゼントとかありませんか?
福沢耳郎:僕はアリサちゃんの写真がいいです
竜胆会長:ゴリラの写真で代用できるぞ
「じゃあ今日もはりきっていってみよう!」
「アスミ、本日の作戦は?」
「全力で戦う、以上!」
「みんなー、アスミゴリラの活躍にも期待してねー」
さあコラボ最終日、いってみよう!
霧立ち込める溶岩とひび割れた大地をゴリラ軍団が往く。往く手を塞ぐモンスターの群れもゴリラ軍団は物ともしない。
音もなくやってくる大きな火とかげの群れも発見次第二頭のゴリラが粉砕だ。
ダンゾン専門家:昨日とは打って変わってアスミが大活躍だよ!
橘譲治@ノキア推し:アスミ覚醒回
FAN太爺:やってることは相変わらずメイスで力一杯殴ってるだけという
山猫隊長:ゴリラが憑依したな
森野博@石灯槍:一晩で打てる対策となるとパーツ入れ替えか武器のどちらかだろうね
天上院露人:昼夜関係なくこのモンスター湧き、原因はもうアスミさんの騒音で確定でしょうか?
山田です!:幾ら何でも多すぎない?
「やばいやばいやっばい! 増える増える!」
「わかめが増える!」
「ミカぁ、こんな時に笑わせにくんな!」
◇◇◇◇◇◇
火とかげが湧いてくる。どこからともなく無音で集まってくる。三十を超えたあたりで異変に気付いた。火とかげが黒い霧と化して消えた跡地に幾つかのドロップアイテムが落ちている。
普段は岩に擬態して隠れているせいで見つけにくい火とかげをここまで大量に倒したのは初めてだ、いや昨日も中々のもんだったが夜間のせいでドロップアイテムまで気が回らなかったな。
やはりトワイスは持っている。人外魔境の芸能界で成り上っていった逸材だ、俺のようなパンピーよりも遥かに運気に恵まれているに違いない。先輩も運の部分は微妙なんだよな、あの人は親ガチャとか容姿ガチャに運気を吸われすぎたに違いない。
火とかげを適当に銃撃で倒しつつもドロップアイテムにカメラを回す。
山猫隊長:けっこう落ちてんじゃーん
天童総長:ボスは高パーツ確定ガチャ、雑魚は無限湧きでドロうま、十層うまうま
レイニーデイ:モンスターハウスうんめええええ!
橘譲治@ノキア推し:ここここここれマジで幾らになるんだ?!
ダンゾン専門家:第十階層こわって思ってたけどこれを見ちまうと行きたくなる
原宿不利:徳川埋蔵金は東京駅の地下に眠っていた!
そしてスマホを起動。同中探索者の淀川にメッセージを飛ばしてこの事実を各所にばらまいてもらう。
人はおかねが大好きだ、どんなに俗に興味のない人間でも案外この手の話題は面白がる。闘争から離れた現代社会では人の能力を客観的に計る指標としてかねを多く集める能力が見られている。
もちろんおかねだけが人間のすべてではない、だが傍目にもわかりやすい指標であることは確かだ。
連戦を続ける。俺もフォローしつつ一息で全滅させるような決定的な手は打たない。何故なら―――
平屋建て二階堂:ノキアの必死顔可愛い
ミカさん大好き:ミカはこういう時に輝く女性です
橘譲治@ノキア推し:がんばれー、それと視聴者プレゼントー!
酒盗坂飲衛兵:アスミ大活躍回
ダンゾン専門家:やっぱモンスターに囲まれてるトワイスはオモシレーや!
あえて言おう、必死こいて戦ってるトワイスはやっぱり面白い。これは確実に取れ高と呼ばれるものだ。だからリスナーは熱狂してコメントもすごい勢いで投稿される、同接数のカウンターもすごい勢いで回っている。
今や六十万人もの人がこの光景を共有している。つまりは一緒に戦っているうちのゴリラも六十万の熱い視線の中にあるのだ。
フリップを出す。
『今視聴者数が642333人です、いい調子です、この調子で必死こいて戦ってください』
「無理無理無理むりぃ!」
『無理っていうのは根性なしの言葉なんですよ』
「それがサボってる奴の言うことかー!?」
当然ではあるがカメラを回しながらフリップに文字を書いているのだ、その間は援護射撃が止まってしまうのだが配信に野郎の声を入れるわけにはいかない。苦渋の決断的な何かだと信じてほしい。……まぁトワイスのこのギャーギャー言い合いながら必死こいて戦ってる姿を見に来たわけで、いま俺は大変満足です。
これこれ、これが見たかったんだよ。
『がんばれみんな☆ 俺は陰ながら見守っています』
このフリップでアスミがキレる。
「フリップ書いてる暇があるならー!!」
「やばいってやばいって、可愛いノキアちゃんが死んだら世界の損失だよ!」
「梟介ー! そのフリップを捨てて戦えー!」
輝いてる、今のトワイスが一番輝いてる、リスナー歴六ヵ月の俺が断言する、トワイスはやっぱり命が懸かってる時が一番面白い。
『今の画面めっちゃ面白いです、リスナーも大喜びですよ!』
「お前あとでほんと覚えてろよー! 梟介ぇー!」
ダンゾン専門家:もう完全にカメラさんの名前出ててクソワロタ
天童総長:きょうすけ、ね
橘譲治@ノキア推し:ノキアちゃんと一緒にいられるとか羨ましい、きょうすけ、そこを代われ
やばい、コメント欄が荒れ始めている。
アイドルに男の影は厳禁だ、俺なら間違いなくキレる。姉さんと男のツーショットなんて出回った日には発狂するし、目の前で見てしまえば光の速度で撃ち殺す、俺なら絶対に殺る、殺ってしまう自信がある。
アイドルファンってのは執念深いからな、今頃自分の推しが他の男に抱かれているなんて妄想に到ってしまえば瞬時に犯罪者に転進するぞ。
住所の特定、経歴の洗い出し、まったく恐ろしいことに数の揃ったアイドルファンの調査能力は下手な興信所なんかよりも遥かに優秀だ。え、なんでそんなことがわかるかって? そりゃあ俺もアイドルファンでしてね。
三百万人のチャンネル登録者に狙われるのはさすがの俺もゾッとしない。俺にも守るべき生活がある、もし逢魔アカリとの二人暮らしが世間にバレでもしたら世論という凶悪な武器をARCプロに与えることになる。
『名前を呼ぶのはやめてください!』
「名前バレがなんだー! こちとら命の危機だぞー!」
ここでノキアが気づいた、最悪な事実に気づきやがった。
「警部! やっこさんは個人情報の流出を恐れていますぜ!」
「でかしたノキア! みんな、梟介の下に集まれー!」
最終手段、トワイスと先輩がつけているヘッドセットマイクからの入力をオフにする、そしてグラビティボードをふわりと浮かせて退避する。人なんぞ所詮は空も飛べない大地の人よ、地べたで虫の鳴き声のようにか細く叫んでいるがいい。ククク……
「あなた方に何ができるというんです?」
何もできない、空にあがった俺に対処できる奴なんて夏乃くんか魔王くらいのものだ。
「ククク、いいから大人しくワーワー戦って取れ高を確保してくださいよ、俺達のチャンネルの利益のためにねえ」
談合坂贈賄:魔王のような事を言い出したぞ
ロリコン探偵、犯人は俺だ:黒幕はカメラマン
氷川翔:そんな映画があったね
氷帝会長最推し:声だけでわかる、これはイケメン
ジェームズ日野:もしかして、本当に彼がモンスター大量発生の黒幕なのでは?
「降りてこーい!」
「勧告に従わねば当方には実名公表を行う用意がある!」
「我々の温情に感謝しろー!」
「梟介ー、さっさと降りてきなよ! こっちはあんたの住所まで知ってんだからね!」
こいつら……
人が弱みを見せた途端にイキイキとイキリ倒してきやがる。
「ふざけるなー、スタッフの実名公表なんてそれがストリーマーのやることかー!」
「うるさーい、大人しく勧告に従えー!」
「あれを何とかしろ! それが私達の要求だ!」
思ったよりも余裕あんなあの人達。がんばれがんばれー、コメントも盛り上がってるぞ~。
ちらっと確認したコメント欄がカメラマン黒幕説で賑わってやがる……
モンスターの群れもピンチも全部俺のせいにされてやがる。いったい誰が元凶でそんな妄想を……(コメント遡り中)
日野さん!?
「くそっ、俺がチャンネルのためにどれだけ骨を折っているかも何も知らずにこいつらは好き勝手言いやがって……」
淀川まもる:手段と目的が完全に入れ替わってる……
天童総長:こいつ、最後に改心して死ぬ系ラスボスと同じセリフを
賢者としひこ:貴様の過ちは明白じゃ!
えんけんゲームス:大切にするべきはアリサちゃんとトワイスだろ
ダンゾン専門家:我々としてはスタッフさんはもっと愛情を持ってトワイスと接してほしい
ゆかり七歳:おにいちゃん、アスミちゃんにもっとやさしくして!
「くっ、俺が間違っていたというのか……」
えんけんゲームス:こいつちょろいぞ
天童総長:こいつはラスボスじゃない、信念がない
勇者よしぴこ:サブイベントの小悪党レベルだ
賢者としひこ:彼もまた救われるべき弱者だった、それだけの事じゃろう
マジで好き放題言いやがって。それとあの並びは奇跡だろ、自称賢者と勇者が上下に並びやがって。
「わかった、わかりましたよ……」
ロリコン探偵、犯人は俺だ:本当にちょろいなこいつ
尾田玄人:けっ、雑魚が
エンプティ:二度とイキるなよ!
コメント欄は読まないようにしよう。なんていうか暴言を吐きそうで自分で怖い。嫌な形で配信者の苦労を知ったな、くそ。
「じゃあトカゲは片づけてしまうので、とっととボス戦にいきましょうか」
大いなる光の刃の権能を解放する。召喚―――戦略爆撃機バストール改。
天から無数の流星が降り注ぐ。炎に包まれた流星の正体は焼夷弾だ。こいつは着弾と同時に内部の燃料を周囲にばらまいて周囲を燃やす。つまりはあの上空には俺の召喚した爆撃機が飛んでいて、こっちに向かって一直線に輻射熱まで含めて幅80メートル直線距離500メートルの炎の絨毯を作りにきているわけだ。
こいつを四つ召喚してこの場を四角く囲む。増援なんぞ炎の壁で阻んでしまえばいい。
大いなる光の刃の権能を解放する。召喚―――円舞曲を踊る聖剣陣。飛んでいった聖剣の群れが火とかげの群れを刺し殺していく。あの聖剣はレーザーも撃てるぞ。
はい終了、五十匹にも足りない火とかげなんぞ瞬殺よ。グラビティボードの高度をゆるめて地上に降りると……
「みなさんどうしました、そんなアホみたいに大口ひらいて」
「……」
「………」
「…………」
みんなアホみたいに大口を開いたまま静止している。いつから時間停止ポルノの世界になったのだろうか?
そんな中で一人だけ再起動したノキアがアスミの後ろに隠れながら言う。
「お前がどうしたんだよ、とか言っても怒らない?」
「すでに言ってるし怒らない」
「じゃあ今のは何?」
「俺の持ってるダンジョン産レアアイテムのパワー」
この説明が一番まるい。なにしろそんな物が見つからなくてもリアルラック足らないんじゃないですかで終了するからだ。
「……そんな隠し球があるなら最初から出してほしい」
「アリサ先輩とトワイスの配信でどうして俺が出しゃばるんだよ、そんなもんリスナーは見たくねえよ」
「私達はもっと早く助けてもらいたかったよ!」
「しかし取れ高というものがだな」
「取れ高より命が大事!」
こっそりと補助魔法のバイタルガードを使っていたおかげで怪我一つないのにここまで強弁するか。こっそりとだからいけなかったんだろうがライブに緊張感がなくなるのはよくない。それと説明が面倒だ。
ここで先輩たちも再起動する。そして一斉に俺の眼前まで走ってきて、目の前でピタリと止まる。
なんだなんだ文句か、文句をつけるつもりか?
「梟介すごい!」
「MVPだ! 胴上げしよう!」
胴上げされてしまった。ノキアよ、これが感謝だ。助けたのに文句言われると次は見捨てようってなるし誰も得しないからお勧めしないぞ。……と言いつつ何度でも助けてしまうんだろうな。
世界からトワイスがいなくなるのは嫌だ、俺の仕事明けの楽しみの一つだぞ。
胴上げが終わって円陣を組む。自然に俺を入れるのはやめてほしい。
「じゃあ気を取り直して!」
「階層ボスまでいこう!」
アリサ先輩とアスミの号令で気を取り直した我らコラボ隊はボスのところまで空を飛んでいくことになった。……地上は俺が燃やしちゃったから最悪明日まで通れんよ。




