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逢魔梟介は鬼教官だ

◇◇◇ノキアSIDE◇◇◇



 甘酸っぱい青春模様が見れると思ったら鬼軍曹と新兵のやり取りだった。

 あぁうん、あの二人って根っこが体育会系なんだと納得はできる。面白くないのだけが問題で、そこは悔やまれるけども仕方ない。別にこじれてほしいわけじゃないし。


「余計なことを考えるのは体力が余っている証拠だ、ついてこい、明日に響かない程度にしごいてやる。まずはボスマラソン八回だ!」

「サー・イエス・サー!」


 二人がダッシュで丘を下っていった。元気だ、元気ゴリラーだ。こっちはへとへとなのにこの差はなんだと思うレベルの元気だ。マジで中身だけゴリラなのかもしれない。


 あの光景を近場から覗き見していたアスミもおののいている。


「しゅ…終始正論パンチで事をおさめおった……」

「言ってることは正しいんだけど……」


 アスミもミカもざんねんないきものを見る目つきをしている、まぁそこは仕方ないと思う、だって修羅場とか愁嘆場を期待していたし。


 何もかも想定通りな顔をしているのは日野さんだけだ。


「梟介は堅物だからね」

「そう? そうは感じないんだけどなー」

「正確には堅物であろうと自分を型に押し込めている、かな。社会に適応しようとする、わがままな自我をルールで縛る、子供でいられないから大人になろうと努力している、そういう形での堅物だ」


 それは真面目って言った方がいいと思う。

 そう伝えるとジェームズ日野は「それだ!」と私の肩を叩きながら笑い出した。やはりネイティブには敵わないなって笑っている。この人が配信で言葉少ないのは日本語に不慣れなせいかもしれない。


 逢魔梟介は最初は普通の青年だと思った。年齢は同じ十七歳、でも体格やしゃべっている感じは三つ四つ上に感じた……まぁ理解のできる範囲だ。

 探索者は個人事業だ、自らの命と健康を賭け金にして危険なダンジョン潜りで生計を立てている。

 深い階層に潜って月に百万も二百万の稼いでるような連中は総じてシビアな考え方をする。年齢が幾つであろうが大人にならなければ生きていけない環境だ。


 そういう意味では未踏領域でボスマラソンなんて頭のおかしい狩猟をしていたアリサや梟介はかなり頭がイカレているはずだ、それこそ大人びているなんて区別で計れないほどに。

 アリサは確かに強い、きっと両親か親戚にゴリラがいるにちがいない。しかし精神の方はそこまでイカレていないというか驚くほど年齢相応だ。天然物のゴリラなのかもしれない。


 問題は梟介の方だ、あいつはかなりおかしい。最年少のくせに立ち位置がなぜか師匠枠、一発でモンスターが爆散するような聞いたことのないレベルでイカレたハンドガンを持っていて、ここに来るまでの間も一発だって外していない。カメラを回しながらだ。

 索敵も恐ろしく正確でスキルで補強している自分よりも早くに察知している節がある、言わないだけであいつが視線を妙な方向に動かした時は必ずそっちにモンスターがいる。

 一度気になってロールボードを見せてもらったら三職全部が+5で埋まっていて変な笑いが出た。

 あぁなるほどアリサちゃんじゃなかったんだ、という笑いだ。


 元々十階層マラソンをしていたのはこいつだ、それが何かの縁でアリサちゃんに協力して、自分の手柄を譲り渡している。


 あいつには謎が多い。放浪傭兵、従者、狂信者、この三職には五感強化や危機察知のような特殊コアは存在しない。自分は隠しているレアロール『兵隊』と通常職の重ね合わせで索敵範囲を広げている。素の状態で自分を超える探知能力を持つのは考えにくいが現実はありのままに受け入れる他になく、結論としてあいつは異常だと判断した。


 コラボ配信一日目が終了時点で夜中にこっそり神殿を抜け出して、探索者の知り合いに彼について尋ねてみた。東京駅地下ダンジョンをメインにしている探索者達ですらほとんどその存在を知らず、いつも執事服の変なのとして認識されていただけでその異常な実力も何も知られていなかった。

 誰も知らないイレギュラー、でもARCプロほどの大手が自社のアイドルのサポートにつける程度には信用されている。そうなると彼の本来の活動拠点はアメリカなのかもしれない。あの会社は米資本なのでそういう人材を本国で確保してダンジョン配信用にこっちに置いている、こう考えるとしっくりくる。


 経歴が不明という点ではこのジェームズ日野という男もだ。民間探索者ながらに自衛隊と専属契約をして数々の迷宮鎮圧を成し遂げてきた凄腕だ。彼もいつの間にか活動していて経歴に関しては誰も知らない。日野女子を名乗る熱狂的なファン達でさえ出身地さえ掴めない謎の多い人だ。……まぁさっきと英国出身っぽい情報が出たので日野女子のコミュニティにリークすれば遠からず色々出てくると思う。


 そんな男はキャンプに戻るやすぐに電気式のポーターを触り始めた。

 この戦車のようなクローラーで移動するポーターは探索における便利アイテムだ。折り畳み式なので持ち運びも容易だし、探索中に入手したアイテムを持たせることができる。トワイスでは主に撮影を担ってくれている。ダンジョン配信者の多くはこういった便利な品に撮影を任せている。

 そんな品だ、他人にいじられたくはないが、悪意を持って何かを仕掛けるような人には感じない。


「整備ですか?」

「いいや、気になることがあってね」


 純粋な興味なのかもしれない。

 積載量・稼働時間、共にハイエンドのポーターだ。休憩中にちょこっと調べたがBO製の今年発売された最新モデルで四万ドルもするらしい。完全に高級車か何かだ。


 欲しいが高額なために手を出す勇気はない、そういうことだと……

 思えなかった。なぜならドライバーで分解し始めたからだ。スマホに予めダウンロードしておいた思われる電子説明書を表示してドライバーを回して外装を外していく。なんていうか素直にやめてほしい。


「壊さないでほしいなー」

「問題ないよ、機構の確認を終えたら元に戻すからね」


 意図したところが通じないのは彼が生粋の日本人ではないからかもしれない。


「あのー、確認って何を?」

「今日の探索が気になってね、梟介にも確認したんだが今日の湧きは異常だったそうだ。彼はそれを普段よりも人数の多いチームで探索を行った結果目立ったと考えていた、が」


 が?

 日野さんはそう考えなかったってことだ。


「私は別の原因と考えている。普段と違う要因は君達三人組とこのポーターだ、だが私の見たところ君達が原因とは思えなかった」

「……私達に落ち度がないとすると?」

「これが原因である可能性が高い、そう考えて急ぎ君達と合流したわけだ」


 あぁこの人、普通にいい人なんだ。

 どこか掴みどころのない梟介と同じイレギュラーだけど根っこから良い人で、配信を見ていて心配になったから駆けつけてくれたのだ。


 日野さんが外装を外した本体を調べている。その背後から作業を見つめているが何か異常があるのかはよくわからない。


「どうです?」

「目に見えて怪しい部品はないね。これは普段からトワイスで使っている物?」

「ううん、今回のコラボで使うようにARCプロから貸与されたものー」

「ふーん、なるほどね」


 やはり大手プロダクションには一定の信用があるのだろう。ふーん、とかへーとか言いながらポーターの中身をいじっている。


「……ARCプロが何か仕掛けるにしても取れ高のために所属アイドルを危険にさらしたりはしないと思う、それもコラボ案件でなんて」

「常識的に考えてこうだから多分やらないという考え方は社会では通じない。もしその理屈が通じるなら年間四十万もの犯罪者が出たりはしない」

「他人を説得するのにもっともらしい数字を持ってくるのはきらいだなー」

「だが私の行動の説明にはなったはずだ」

「それはまあ」


 日野兄が機械をいじりに戻る。自分はそれを見続ける。

 天下のARCプロが取れ高を狙って仕掛けをする? ありえない、取れ高は欲しいだろうがリスクを考えたら絶対にやらない。

 今の世の中誰であっても簡単に炎上する。大昔はマスコミだけの特権だった公への発信がスマホ一つあれば誰にでもできるようになった。軽い気持ちでやった悪戯が企業イメージを揺るがす大問題になったこともあった。そしてそんな事件からも懲りることなく同じような事件をやらかす人が後を絶たなかった。

 そう、以前はマスコミさえ抑えておけば秘密裏に消せたスキャンダルも大衆の一人一人が報道番組と化した現代では隠せなくなった。

 そんな世の中で企業は個人以上に慎重に立ち回らなければならない。そんな立場にあるARCプロが取れ高一つのためにリスクを冒すか?


 本当なら明日に備えて眠るべきだ、でも彼の作業を見続けているのは「何の問題もなかった、考えすぎだった」この言葉が欲しいだけで、自分は安心したいだけなのかもしれない。


「ふんふんふん……うん、問題ないね」

「えー、結局問題なかったんだー」

「うん、その方がノキアも安心だろ?」


 どきっとした。まさしく安堵した瞬間にそう言われたから驚いた、それだけだ、それだけのはずだ。

 それだけのはずなのに、いま彼が幻のように見せた笑みが心底恐ろしかった。


「本当に何もなかったんですよね?」

「うん、問題になりそうなものはなかったよ」


 じゃあなんで笑った。あんなに冷たく、人命を何とも思わない怪物のように……

 今はもう虫も殺せない優男のような顔に戻っているのに、どうしてあんな顔ができるのか?


 一瞬だけけたたましい警報で鳴いた危険察知のスキルとまだ止まぬ動悸が教えてくれる、この男はやべー奴だ、やっぱ深層に潜る探索者なんてどっかしら壊れているんだ。 



◇◇◇◇◇◇



 結局ボスマラソンは朝までやった。途中からドロップ運が向いてきて普段よりも多めに落ちてさあ、そんな時に途中でやめるなんてもったいないよねぇ……


 いま俺達は清々しい気持ちでコラボ最終日を迎えている。見てくれこの濃霧に包まれた景色を、この向こうに晴れ晴れとした朝日がのぼっていると思うと清々しいじゃないか! ……ダンジョン内に太陽があるのかだって? そいつは俺も見たことない。


「どうかね先輩、邪念は晴れたかね?」

「はいっ! すべては教官のおかげです!」


 先輩が教練を終えた新兵のような顔つきになっている。なんて頼もしい顔つきだ、目だけ爛々と輝かせながら魔族に向かって殺到する先輩の雄姿が目に浮かぶようだぜ。


「今にして思えばどうしてこんな鬼教官が格好良く見えていたのか皆目見当もつかないです! 正直訓練の間はこのクソ教官をどうやったら事故死させられるかの方法しか考えてなかったです!」


 俺の頬を涙が伝う。

 素晴らしい、素晴らしい完成度だよ、訓練の間も殺しの方法を考えてるなんてパーフェクトソルジャーの完成だよ。今の先輩なら恋愛なんていう戯言はツバと共に吐き捨ててくれるさ。


「恋人は!」

「スキャンダル!」


「言い寄ってくる男は!」

「ケツの穴を蹴り飛ばす!」


「運命的な出会いを果たして胸がキュンとしちゃっても!」

「それは気のせい、破滅への第一歩!」


 戦闘中に幾度となく繰り返してきた逢魔塾の標語も完全暗記している。まさしくパーフェクトソルジャーだ。この力があれば魑魅魍魎の跋扈する芸能界でもサバイバルできるはず、はず! 

 まぁそこはわからんよ、だって俺芸能界に足を踏み入れたことないし。俺なんて所詮魔王を倒したことのある一般ピーポーよ。


「コラボを成功させる! そしてのぼるのだ、あの果てしないアイドルロードを!」

「はい、教官!」


 いやぁ、我ながら中々の戦士を育成してしまったな。

 先輩なら必ずや三千世界に名を轟かせる立派な戦士になってくれる……はず!



◇◇◇◇◇◇



「見てください、これが恋愛なんていう惰弱な弱さを捨て去ったパーフェクトアリサです!」

「早くモンスターを斬りたい!」


 完成した先輩をトワイスのみんなに披露したら唖然とされた。ほらよく見てくださいよ、以前よりも当社比1.6倍くらいキリッとしてるんですよ?


 アスミがものすごくハラハラした面持ちで先輩に近づいていった。


「あ…アリサちゃん、いったい何があったの?」

「何って気づいただけだよ」


 みんなしてだから何の部分が知りたいんだよって顔してる。

 何ってそりゃあ恋愛なんて惰弱だと気づいたに決まっている。


「気づいたって何に?」

「あの気持ちが幻だったって気づいたの。このクソサディストが格好良く見えていたなんてただの気の迷いや依存だったって気づいた、それだけだよ」


 素晴らしい、迷いを振り払った戦士は強いので先輩もきっと強くなっている。マザーゴリラとかそんな進化を遂げているな。


「それよりも、今日は夜までマラソンしてもいいんだよね?」

「…………」

「…………」

「…………」


 戦うためのマシーンと化した先輩を大急ぎでアイドルに見えるように身支度をしてあげて、さあコラボ配信最終日いってみよう。

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