負けられない戦い、それは王様ゲーム
「それじゃあ対策会議を始めたいと思いまーす!」
「うぇーい!」
酔っ払いのアスミとミカはすでにテンションが高い。いや元々高いのでアルコールは関係ない……わけがないよな。
銀色の断熱性シートを敷いたキャンプで丸く円陣を組む面子は先輩と俺の日高アリサのダンジョン探索チャンネルの二名。
トワイスのドキドキダンジョンチャンネルから三名。
そしてなぜかしれっと参加している日野兄弟チャンネルから日野兄。なぜもくそもミカとアスミが熱心に誘っていたよ。
この六人でオイルランプを囲んで円陣を組む。なお内三名はすでにビールを二本か三本空けている。日野さん、あんたダンジョンに幾つのビールを持ち込んだんだ。
会議の音頭はアスミがとる。
「ガチな話、私達の武器とこの階層のモンスターって相性が悪いと思う」
「そうね、全然効いてなかったもの」
心なしかミカが女を出している、日野さんのフェロモンに当てられたか。
ちなみにトワイスの武器は重量系だ。いわゆるメイスに分類される先の方が大きくて丸い鉄の棒だ。おそらくはダンジョン産素材と金属の合金だと思われる。
日野兄がしきりに頷いている。
「東京駅地下ダンジョンの浅層・中層は打撃武器が有効だからね、それが裏目に出た形か」
なお日野兄は十層に来たことがないはずだ。なにしろこの階層で他の探索者を見たことがない。
会議なので俺も発言しておく。
「武器種の問題というよりも品質の問題ではないでしょうか?」
「ふむ、聞かせてくれ」
「アスミさん達の使ってる武器って中層のモンスター素材を使った物ですか?」
「うん、グレートバンガの角と鉄……鉄?」
「タングステン的な何かだって聞いたなあ。いやメーカーの人の話は聞いていたつもりだが忘れちゃったな」
グレートバンガとは二足歩行で両手に武器を持った牛人だ。どう考えてもミノタウロス的な何かだと思うが発見者的にはこんな階層で出てくる奴にミノタウロスはもったいないのでバンガにしたらしい。そしてバンガのレアバージョンがグレートバンガだ。たまにしか出てこないがえらく強いと聞いている。
話を戻そう。
「それです、中層のモンスターの素材で作った武器だからこの階層では通じない、そうは思いませんか?」
「それだ!」
一瞬で賛同するアスミ。俺の発言ではあるが一瞬で賛同されると不安だ、もっと根拠的なものも聞いて納得してから賛同してほしい。
そして日野兄は落ち着いた大人の男なので俺の欲しい疑義をくれる。
「ふむ、その根拠は?」
「これです」
背嚢から物を取り出すように見せかけてストレージからメイスを取り出す。これは藤林科学繊維がワイバーンの素材から作った試供品というか実験品だ。
「これはワイバーンの素材から作ったメイスです、これでアスミさんのメイスを叩いてみましょう」
地面に置いたメイスにメイスを叩きつける。轟音がし、石が割れるみたいにアスミのメイスが砕けた。
「なるほど、五つも階層が違うと素材の差がここまで顕著に出るのか」
「ちょいちょいちょいちょい! 梟介くんひどい! 私あしたから何で戦えばいいのッ、素手でやれと!?」
「これをあげます」
ワイバーンメイスをプレゼントするとアスミが一瞬で笑顔になった。吾ながら随分とアスミの扱いに長けてきたものだ。
「もぉ~、そういうことは早く言ってくれなくっちゃ。梟介もビール飲むぅ?」
「いえ、未成年ですので」
「そうだった!」
「しかしこれだけが根拠かい? 私には武器種の問題ではないという説明にはなっていないと思うのだが。というのも私達リスナーはアリサくんの斬撃が非常に有効なのを見てきている」
「あー、それなんですけど俺は普段警棒で蹴散らしているんですよ」
配信中に銃を使う理由は単純にカメラを動かしたくないからだ。画面酔いでリスナーが脱落するなんて先輩に申し訳が無いからな。
「あのスタンロッドか」
「ええ、これです」
リュックの中に開いたストレージから警棒を取り出す。これでワイバーンメイスを軽く叩いたらメイスは粉々になると思う。こんな何気ない警棒でも最大強化済みの勇者武器だ、加えて特殊効果、攻撃部位破壊もある。
「俺と先輩の攻撃が通じているのは単純に武器とステが強いからです」
「なるほどね、理解したよ」
日野兄が納得してくれた。そうだよ、ここまで話してようやく納得してもらった方があとで議論を蒸し返したりせずに済むしこっちも助かるんだよ。
「梟介ぇ~」
なぜかアスミが猫撫で声で身を寄せてきた。俺の胸板でのの字を書き始めた。欲しいのか、この勇者武器が欲しいのか?
なんて強欲な女なんだ。でもいつも見ているトワイスの通りなので余裕の解釈一致です!
「アスミさんその武器欲しいな~~なんて」
「あげませんよ」
「色仕掛け効果なし!」
年上の女性に向かって言ったら失礼なんで言わないけどアスミって色気でどうこうするタイプではないと思う。見ていて楽しいけど付き合いたいかって言われたら疲れそうだから遠慮したい、いや確実に遠慮する。俺はすでにトワイスとの付き合いにかなり疲れているのだ。
今度はノキアが身を寄せてきた。なんだなんだテンドンか? さすがは大阪の女だ。
「可愛いノキアのお願いを聞いてほしいなあ~~」
「次は見捨てるぞ」
「ごめんなさい、だから次も助けてください」
そして最後にミカは……
アホ二人のアホ行動に呆れながらため息をついている。さすがトワイスの良心、完全に解釈一致です。
そんな俺達を生温かく見守る日野兄はビッグブラザーの貫禄である。
「随分と仲良くなれたみたいだ。梟介は人を避けるところがあるから少し安心したよ」
「そうですか?」
「そうだよ。梟介のようなタイプは軍に向いている、逆に自由な探索者はあまり向いていないと思っていたからね」
「軍を辞めた人が言いますか」
「軍を辞めたからこそ言えるアドバイスもあるよ」
日野兄がもう何本目になるか不明なビールのプルトップを引く。ダンジョンでガチ飲みだよこの人。
ミカが割って入る。
「あのぉ、もしかしてジェームズさんって自衛隊にいたんですか?」
「いや、祖国の空軍にいたよ。手前勝手な理由で退役したからあまり他人に言いたくなくてね、ここだけの秘密にしておいてくれ」
日野スマイルが炸裂してドキドキで爆発したミカが死んだ、いや失神した。
軍の話は秘密だったのか、俺も知ったのは特殊な経緯だったが公言しているとばっかり思っていた。
「では対策会議の続きに戻ろう。攻撃力の問題はアスミが譲り受けたメイスで一応形がついたとして、そうだな、次の話題はどうやって空を飛ぶワイバーンを倒すかにしよう」
「一応ウインチ付きワイヤーガンを用意しています」
「なんだ、じゃあ問題ないね」
いや、問題はある、このワイヤーガンが本当にワイバーンの翼を貫通できるのか、それと上空を飛び回るワイバーンの翼にピンポイントで命中させる技量をトワイスが持っているかという恐ろしく厳しい問題だ。
ふと気づいた、先輩がまだ何もしゃべっていない。
「先輩からは何かありますか?」
「……梟介」
な…なんだろう、先輩がじぃっと見つめてくる。
改めて見ると可愛い顔をしてるな。猫系だ、猫先輩だ。
「先輩、どうかしましたか?」
「王様ゲームやろうぜ!」
突然アスミがぶっこんできやがった。
王様ゲームって合コンでよくやるっていうゲームだろ、どうして今やろうと思ったんだよ!?
「男と女が酒を飲んだならそれはもう王様ゲームの合図なのさ、そうだろ!?」
目と目があった瞬間に始まるポケモンバトルかよ……
「いや、俺合コンに行ったこともないし酒も飲まないので……」
「ジェームズさんもやるよね!」
俺のノリが悪いと見るや矛先を日野さんに変えやがった。だがこれこそがトワイスのアスミだ。欲望全開、自分の意見はどんな手を使っても押し通す、そのくせ無理だと思えば華麗なる前言撤回や唐突な記憶喪失になる。傍から見ている分には面白いで済むお騒がせ娘だ。
情熱的ではなく欲望の炎の女アスミの押しを受けても微笑を湛えているだけの日野さんは本気ですごいな。俺なんかとは違って本物の大人の男だ。
「面白そうだね、いいよ」
乗った、大人の男が華麗に乗った! なら、まぁ、いいか、王様ゲームにも興味はあったし。
アスミが荷物から一本だけ王冠のマークのついたプラスチックの棒と、番号を振られた棒を取り出す。王様ゲームのために制作された道具まで存在しているとは驚いた、もしかして世間一般の方々は俺が思うよりもはるかに頻繁に王様ゲームをやっているのかもしれない。
「説明しよう! この棒を引いた者こそが王となり下々に一回だけ命令を下すのである、命令は絶対に守らなければならないのである! 質問タイム!」
即座に挙手するミカの姿に歴戦のトワイスメンバーの練度を見た。
「アスミ先生、それはエッチな命令もですか!」
「ミカのアホたれ、常識で考えてごらんなさい」
どうやらエッチな命令はなしのようだ。さすがはアイドルだ、正直疑いを抱きつつあったが本職を忘れているわけではないらしい。
「エッチな程度で守られない王様の権威などこの世に存在すると思う? 王様の命令は絶対! 死ねと言われれば死になさい!」
ちがった、ガチのデストピアゲームだ、初手王様を引いて全員殺さないと生き残れないガチの闇のゲームだ。
そしてなぜ喜ぶミカよ、恥ずかしがりながら日野さんの方をチラチラ見ているな。日野さんはさすがだよ、新しいビールのプルトップを引いてやがる。
「さあやるぞ、みんな、準備はいいな? 王様だーれだ!」
引いた!
さあ終焉の神話を始めよう。まさか俺の手でトワイスに引導を渡すことになるとはな。さあ運命の選択の結果を確認する!
『四番』
「…………」
四番か……
そしてアスミがいきり立つ、立ち上がる!
「おっしゃああ! 私が王様だぁ!」
よりによって一番権力を与えてはいけない女が王様になってしまった。この勝負、これで最後になるかもしれない。
「王様の命令は絶対、とりあえず三番が四番のおっぱいを揉む!」
初手エッチな命令! え、四番って俺じゃん……
出頭する犯人のように四番の棒を掲げ、日野さんが三番の棒を振ってる。え、俺揉まれる側?
「そう嫌そうな顔をしないでほしいな」
無茶を言うんじゃねーよ。男が男におっぱいを揉まれるとか冗談じゃねーよ! 絵面は完全に冗談で爆笑ものだと思うけど揉まれる側は冗談じゃねえんだよ!
「だが王様の命令は絶対、そうだろ?」
「くっ、なんでよりによって一番つまらない感じになったのか……」
日野さんが俺のおっぱいを揉み始める。マジな話をすると親指で乳首を転がすのやめてくれねえかなって思ったが手癖か何かだろ、この人ノーマルだし。
「いい胸板だ、鍛えているな」
「職業が職業ですんで。てゆーかそろそろ止めてもらっていいですかね」
「おっと、つい」
ようやく揉むのをやめてくれた日野さんにアスミが詰め寄る。
「ジェームズさん、梟介のおっぱいはどうでした?」
「かなりのパワーを感じる筋肉だったね」
「うわー、つまんねえ感想ダッ」
セクシャルな命令を受け入れたのにつまんねえ奴らみたいな反応は素直に腹が立つ。見ていろ、俺が王様となった暁には常識の範囲内で屈辱的なオールレンジ命令をかましてやる、王様以外全員に命令してやる。
そして始まる第二回戦。
「王様だーれだ!」
「しゃあ!」
ミカが王様となった。ま…まぁミカなら常識の範囲内で考え得る安心な命令のはず……
はず……多大な願望を込めて、はず。
「じゃあ二番が銭形警部になってそこらの連中にルパンが来なかったか聞いてこい」
地味に恥ずかしい命令だ!
「二番だれー?」
「ん」
ノキアが二番の棒を掲げる。このあとノキアはすでにかなりやり慣れているとしか思えない淀みのない動きで「ばっかもーん、そいつがルパンだ!」って見知らぬおじさんグループに言ってきた。
怒鳴られたおじさんグループはなぜかしみじみしている。
「懐かしいな」
「今の子もあれやるんだな」
「私は大学の頃かな、コンビニでやらされましたよ」
「棚橋さんもやりましたか」
あー、おじさん世代もあのゲームやってたんだ、あの感じは昔からあるゲームなんだろうな。
「じゃあ次のゲームだ、王様だーれだ!」
王様ゲーム第三戦、王様の命令は酒とつまみを仕入れてくることで俺が行かされた。夜の無窮の神殿では探索者どうしが足りない物資を都合し合う。このためだけに来ている、通称行商人という輩もいて売店もある。
今回はARCプロのサポートがあるので電動ポーターやカメラのバッテリーなんかの手配も受けているがさすがに酒の用意はなかった。
売店は俺もよく利用する。電気式の軽車両は東京地下ダンジョンの第一階層の神殿までのルートに合わせて自作した物と聞いている。当然ながら公道を走ることはできない、法の穴を突いた車だ。
車両のドアは開かれ、そこにも様々な食品が陳列されている。さきいかの小袋やカルパスのようなつまみが一つ500円、クーラーボックスにある飲料も500円だが酒だけは1000円。お菓子や弁当なんかもある。……この命令って財布にでかいダメージを入れてくるな。
売店の経営者は頭にタオルを巻いたおじさんだ。ダンジョンよりもラーメン屋にいた方がしっくりくる。
「これ買ってもいいですか、飲むのはちゃんと成人の人だけなんですが」
「構わねえよ」
構えよ、俺にとっては都合がいいけど倫理観の問題として構えよ。
都合はいいので買っておく。しかしこの売店に違法営業などの疑いを持った瞬間だった。……六人分の酒とつまみで二万円か、地味にでかいな。
◇◇◇◇◇◇
梟介が王様の命令で調達に出かけた。この瞬間を狙って蠢動する者どもがいた!
そう、トワイスという名の他人の恋路が超好きな三人組だ。
そう、梟介なきこの場は合コンにおける女子更衣室やトイレと同義の空間と化したのだ。まずはミカが自然を装って話題を振る。
「ねえ、こうして女子が四人集まってるんだし好きな人の暴露大会とかしたくない?」
「ガチのヘタクソがよぉ……!」
しかしアスミの突然の裏切り。困惑するミカ。面白そうに見守る日野兄とノキア。
「どけ、私がやる」
ミカを突き飛ばしたアスミが前に出る。誰の前にってアリサの前だ。
「ねえアリサちゃん、ずばり梟介のこと好きでしょ?」
「へあっ、え? なんで突然!?」
「私達はもう全部わかっています、わかっていて今夜まで黙っていました」
総トワイスが深く頷いている。
すべてわかっています、私達はあなたの味方ですと一応このような顔つきを作る努力はしている。……しかし彼女達が真実そのような想いでいるかと言えば違う、続く言葉があるのだ。
すべてわかっています、わかっていて最終日前日まで温めてきました。
私達はあなたの味方です、だから全てを正直にさらけ出してください。
つまり私達に面白いネタを提供してください。これが本音だ。
「ふっふっふっふ、一つ情報開示をしましょう。私達には王様ゲームのくじを操作する能力があります」
「え、ちょっ、なんでっ、そんなことを!? ていうかどうやって!?」
「あれはジョークグッズでねえ、引いたくじの番号が筒に表示されるんだ」
無駄にハイテクなアイテムである。
「私達が協力すれば王様の命令で梟介の想いを聞き出せるのです。あとはアリサちゃんが素直になるだけです」
(こっ、この人達……ワルだ!)
ワルだ、他人の恋路でメシが美味いタイプのとんでもないワルだ。
しかし魅力的な提案なのもたしかだと揺れる心は恋心。イカサマに関しては思うところもあるが共犯のメリットも大きい。
あの素っ気ない後輩の気持ちを知りたいのは確かだ。
「梟介のことが好きって言ったら……本当に協力してくれる?」
「任せて!」
今トワイスはかなり悪い顔になっている。二人の恋路をいじって遊びたくて仕方のない顔だ。建前を張り付けた顔は死んだ。
しかし……
「ふふっ、恋愛リアリティショーを間近で見ているようなものだね」
一番楽しんでいるのは日野兄ことジェームズ日野なのかもしれない。
登場人物紹介
日高アリサ
①活発そうな元気系アイドル属性のくせして無理してお姉さんキャラに回った挙句に大自爆をかました可哀想なアホの子。元気系アイドルに色気なんてあるわけがないだろいい加減にしろ! キュートだとSSRでもセクシーではアンコモンまで落ちるんだよ!
猫目の生意気可愛い系の美少女なうえに善良で運動が好きでわりと本格派の剣術を長年やってた逸材だ。才能に溢れているので何にでもなれるし何でもできるぞ、でも色気だけはないぞ。




