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コラボ配信二日目夜

 相変わらずぼつぼつと人のいる第十階層の無窮の神殿、と言えば誤解がある。無窮の神殿は一つのダンジョンに一つしかないのだ。

 どの階層にも存在する無窮の神殿はじつは一つの神殿であり、どの階層から入ってもみんな同じ神殿にたどり着いているというだけだ。そして出る時は元居た階層に戻る、まるで自分以外の人間なんて幻だったみたいに。


 倒しても倒してもどんどん集まってくる火とかげとの死闘の後、配信でちゃんと今日はおしまい宣言をしてからやってきた無窮の神殿では拍手で迎えられた。

 探索者たちの温かな拍手とお祝いの言葉に先輩が戸惑っている。


「え、何これ? どういうこと?」

「未踏領域への到達はお祝い事ですので」


 ここにいる探索者たちの中には配信を見ていてくれた人もいるのだろう。コメントで応援してくれていたのかもしれないし、茶化して遊んでいたのかもしれない。

 どうしても変なコメントばかり目に留まってしまう俺だがコメントの大半は純粋な応援だったよ。


「これは四人だけの旅でしたけど、俺達には見えないだけで大勢の人たちが応援してくれていたんですね。アイドルも配信者も大勢の人を楽しませて、応援してもらっているという意味では似ていますね」

「そうだね、同じなのかもしれないね」


 歓声へと自信なさそうに小さく手を振り返す先輩と、大手を振って応えるトワイスとの差なんて先輩が思うほど大きくないと思う。


「先輩、気づいていましたか?」


 スマホの画面を見せる。これはさっきスクリーンショットで保存しておいたものだ。そこには驚くような数字が出ている。


「先ほど確認したらチャンネル登録者が三万人を超えていました」

「へ……? え、あ、ほんとだ……」


 キツネに摘ままれた顔っていうのは本当はこういう顔を言うんだろうな。宝くじが当たった人だってこういう顔になるのだろう。

 今見たものが信じられなくて、嬉しいはずなのに理解できない、そんな顔だ。


「動画の再生数は七十六万回、ニュース番組でも取り上げられたのが功を奏しましたね、うちのチャンネル開設以来の大ヒット回です」


「……夢じゃないよね?」

「夢じゃありません、先輩、やりましたね!」

「夢じゃ…ないんだよね」


 涙ぐむ先輩の笑顔はとても綺麗で不覚にもキュンとしてしまった。これを配信に乗せられないのはもったいないな……


 いや、これは俺への報酬なのだ。随分と骨を折ったし時にはわりとガチで怒った時もあったがアイドルの笑顔が報酬なんてドルオタには堪らないご褒美だぜ。

 もう先輩は大丈夫だ、たしかな実力はあるしファンだってこれだけ増えた。ARCプロだって先輩の商品価値を見直してきている。俺なんかよりきちんとした映像編集や撮影のプロが参加すれば先輩のチャンネルはもっと伸びるはずだ。


 だからもういいだろう、俺は―――


「ありがとう梟介、本当にありがとう、これからも―――」

「はい、これならそろそろいいですね」

「え?」


 硬い足音に気づいて振り返る、するとレッドカラーのフライトジャケットを着た金髪の男が近づいてきているところだ。あの無駄に色気のある美形は知り合いだ。

 ジェームズ日野、日野兄弟で知られる探索者だ。


「梟介!」

「こんばんは、日野さんも野営ですか」

「ライブ配信を見ていて応援にきたに決まっているだろ。ほら」


 日野さんがビールの六缶パックを掲げる。この人未成年の応援物資にビール選んじゃったの?

 まぁ日野さんはこういう人だ。見た目はできるオーラが出てるんだけどのんびり屋というかマイペースというか天然というか……


 アルコールって所持してるだけで犯罪になったりしないよね……

 受け取ってもいいかどうか迷っているとミカに突き飛ばされた。


「え、頂いてしまっていいんですか!?」

「もちろん」

「感激です、ありがとうございます!」


 なんだ、なぜか不思議な力が働いてミカの目がハートマークに見える。いやまあ恋する乙女の目だよあれは。


 突き飛ばされた体勢のまま両者のやり取りを見上げているとノキアがフォローに来た。


「あぁあれ? ミカは日野兄の熱狂的なファンだから」

「日野女子だったのか」


 日野兄弟のチャンネルはとにかくやる気がない。探索中はコメントなんか見ないし何もしゃべらない。ずっと無言の映像が流れ続ける。

 休憩中も別に何かをしゃべるわけでもなく、ずっと日野兄の横顔が流れ続ける。アフタヌーンティーを楽しむ男の映像が淡々とだ。たまに思い出したように本日のお菓子の品評や紅茶の出来をしゃべりだすが基本無言だ。たまにスパチャを貰っても気づかず妹に指摘されてようやく気づく始末。


 しかしそんなチャンネルを延々と見続ける物好きがいる。日野女子を名乗るファン達だ。登録者三千人程度の配信者にも関わらず熱狂的なファンに支持された結果が抱かれたい男性民間探索者部門三位だ。俺? 選外。


 なんだか扱いに格差を感じるなと呆然としているとノキアに肩を叩かれた。


「梟介もいい感じだから落ち込むな」

「ノキア……」


 見逃さなかったぞ、こいつ鼻で笑いやがった。


「お前いまちょっと鼻で笑っただろ」

「ぶふぉっ」


 噴き出しやがった。


「げほっ、ごほっ、そ…そんなことはない……」

「今現在証明し続けているのに誤魔化せると思っているのかよ!」


 三日間探索をして俺と一番仲良くなったのはノキアだ。タメってのもあってしゃべりやすい。なによりフォローすることが多いし、本人がこの性格なので親しみやすい。


「あーあ、お酒入れちゃったらまともな会議になるか怪しいんだよね……」

「意外だな、真面目に対策を打つつもりがあったのか」

「そりゃあ死にたくないからね、ノリで生きてるアスミとはちがうよ」


 ノキアは動画で見た印象のとおりの女だった。臆病ではあるが計算高く、ダンジョン内の情報をきちんと仕入れている、最年少ながらチームの知恵袋だ。


 トワイスは十層で通用しなかった。火とかげの一匹に手間取るようじゃワイバーンは無理だ。先輩が倒せばいい話ではあるがコラボ後のことも考えると先輩抜きでこの階層を攻略する手段を考えないといけない。俺とノキアはこの点で意見が一致したようだ。


「先輩、対策会議やりましょう」

「うん」


 なんだろう、先輩に元気がない。

 まるでこの一時で、ほんの少し目を離しただけなのに別人みたいにぼんやりとしている。


「……先輩、どうかしたんですか?」

「ううん、なんでもない。対策会議やるんでしょ」


 先輩が勝手にスタスタと歩いていってしまった。

 な…なんか怒らせたか? こういう時はトワイス製AIアシスタントに聞いてみよう。


「へい、ノキア、先輩の不機嫌の理由を教えてくれ」

「梟介のダメなところはそういうところ」


 そういうところ?

 どういうところだ?


「そういうってどういうのだよ」

「強いて言えば私と仲良くしてるところ」

「はぁ?」


 トワイスと仲良くなれるなら……なるだろ、普通。

 視聴歴六ヵ月の熱心なリスナーだぞ。

登場人物紹介


逢魔梟介

 ①いつも執事服を着ているだけで一見まともそうに見えるが気を付けろ、こいつは訓練されたドルオタだ。ネピリムのファンクラブ初代会長でありながら運営能力不足と糾弾されて仕方なく席を譲った過去と有名になっていく推しの雄姿を応援できなかった過去を未だにしぶとく根に持っている。

 身内にアイドルがいるのでその対応は極めて紳士的だ、彼女達がどれだけ繊細な事情で引退に追い込まれるかを熟知しているのでその辺は可能な限り気をつけている。じゃあ姉と離れて生活しろよとは言ってはいけない。それは不可能なのだ。

 キラキラと輝くアイドルたちを応援する一方で自分が輝きたいとはまったく考えていないし思わない。ほどほどに稼げて趣味のオタ活に全力投入するライフスタイルを気に入っている。最終奥義異世界の財宝を使えば生活には困らないという理由も強くある。

 梟介は異世界から帰ってきた後でダンジョンについて学ぶためにトワイスの動画を採用していた。彼の進路が探索者に決まったのもトワイスの影響が非常に大きい。

 ②元四光勇者、火と鉄の女神ウル・ナーガの加護を持つ。神の力は時間を超越して過去・現在・未来に存在する人の手が生み出したあらゆる武器を使用可能とする。元の世界に戻る方法を得るために人界・魔界を散々に荒らしまわった史上最も迷惑な勇者と呼ばれ恐れられた。

 四光勇者の中で随一の殲滅・破壊力を持つとされているが本人はカードの勇者には敵わないと分からされた経緯があるので疑問視している。

 火の女神の権能である耐性を貫通する焼却と再誕を持つ。元々ゲーマーなので能力の応用に長ける。

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