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コラボは前日から始まっている

 コラボ配信の前日、配信が第六階層スタートなので配信に備えて昼間から潜り始める。すでにマップの一般公開されている第六階層までは最短距離のルート開拓までされている上、道中は他の探索者が通った後なので比較的安全だ。


 開いたばかりの大門を潜って第一階層の大丘陵を歩いていく俺達は大きな荷物を背負っている。折り畳み式の電動ポーターは第六階層まで温存する予定だ。


 大きな荷物を背負っているアスミがぼやく。


「まるでヒマラヤ登山隊だね、ここも配信したらいいのに」

「未踏領域攻略ロングラン配信の方がインパクトあるやろってぐっちーに押し切られただろー?」


 なお男気あふれる関西弁マネージャーのあだ名はぐっちーらしい、関口だからだ。


「そうだけどさあ。やれやれ、こんなに苦労してるんだから配信に載せるくらいやらないと損だよ」


 うーん、さすがのメンタルだ、配信に未だ慣れていない俺達は配信をやろうとするとどうしても気構えてしまう、前日には普段より早く寝て体調を整えたりしてしまう。

 だがトワイスはなんてこともないシーンでも配信をやりたがるし、マネージャーに止められてなければ実際に今配信を始めたはずだ。

 このメンタルの差は配信者としての経験もあるが向き不向きにも関わっていそうだ。学んでマネをしていかないといけない姿勢であろう。


 呑気におしゃべりしながらの探索だがさすがにトワイスは問題ない。先輩も問題ない。つまり問題はない。第一階層のたまに出てくるモンスターくらい慣れっこだ。


 十二時に潜り始めた我らコラボ探索隊はスイスイと階層を跨いで潜り続け、夜の八時前にようやく第六階層の無窮の神殿にたどりついた。道中もトワイス特有のはちゃめちゃなイベントが盛りだくさんだったので俺は大満足だよ。アスミはどうして何もないところでこけて、しかもこけた先が沼だったりするのか。お笑いの神に愛されているとしか思えない。


 そんな泥だらけのアスミはさっきからゾンビのような鳴き声を発していたが、神殿の冷たい床の沼じゃない安心感にやられてぺったりと寝転がる。


「うはー、やっと着いたー」

「おつかれー。食べる?」

「食べる!」


 おいおいおい、最年少のノキアがチョコバーでアスミ釣りを始めちゃったよ。猫が餌欲しさに飛び跳ねる動画みたいになってやがる。……配信外でも面白いことをし続けるとか本物だよ、本物のオモシレー奴らなんだ。


 夜の無窮の神殿にはそこそこの数の探索者がいてグループ毎に分かれて集まっている。中層以降で活動する冒険者の多くが野営込みのロングで潜る。多くの仲間を集めて多くのリソースをつぎ込み、それに見合う成果を得ようとするガチな連中だ。

 従って夜間に神殿にいる連中は顔見知りばかりだったりする、って日野兄から聞いた。俺は野営なんてほとんどしたことのないお気楽探索者だから知り合いなんてほとんどいない。


「おっ、トワイスだ」

「おつかれー、ってアスミやべえな、どうしたよ?」

「沼に落ちたー」


 野営中の探索者たちから手を振りながら声を掛けられてはひらひらと手を振り返している。どうやらトワイスも野営常連らしい。……ここでその手があったかって思う奴は厄介オタの思考回路だから自重が必要だ。トワイス目当てに夜間の神殿に来て念願のトワイスを見つけた厄介オタが何をするかなんて怖いな、字面だけで犯罪の香りがしてる。


 悶々とそんなアホなことを考える俺を置いて先輩が言う。


「知り合いが多いんだね、それに仲良さそう」

「仲いーよ、週一か二で会ってれば自然と仲良くなるよ」


 野営場所を決めて荷物と腰を下ろす。一応ガイドらしい発言はしておこう。


「最後の休息から三時間、みなさんおつかれさまです」

「うぇーい」


 ウェイと口笛と拍手の飛び交う楽しい職場だ。

 すぐさま簡易コンロでやかんを火にかける。六階層の外気温は現在四度、温かいものが必要な気温だ。


 お湯さえ作れば後は各自が勝手にお茶にするなりコーヒーにするなりとやるだろう。俺はとりあえずカップ麺に使う。

 アスミが寄ってきた。俺は嬉しい悲鳴というやつで、妙に慌ててしまう。


「執事くんはカプラーかね?」

「カプラーのレッドホットチリです」

「おおっ、センス良いね!」


 これは一口あげなきゃいけないパターンだな。

 他人の食ってる夜のカプラーには不思議な魅力がある。俺もガキの頃はよく親父がこっそり食べてたカプラーをねだったもんだ。絶対に一口で終わらない一口頂戴だ。


 先輩がキョロキョロしている。お湯入りのカップを手渡しながら……


「珍しい光景ですよね」

「うん、夜のダンジョンってだけでも珍しいのにこんなにたくさんの人がいるなんて不思議、まるでダンジョンじゃないみたい」


 正則さん曰くヒマラヤのキャンプ地みたいだそうだ。すごいっすねヒマラヤに登ったんですか?って聞いたら行ったことはないらしい。マジで何なんだあのおっさん。


「おや、もしかしてアリサちゃん達迷宮キャンプ初めて?」

「うん、初めて」

「俺は二回目です、変なおっさんに絡まれて面倒くさい夜でした」


 この時絡まれたおっさんが正則さんだ、そして彼の仲間たちの関東おじさん探索者同盟のメンバーだ。クソみたいなアドバイスをしてくる説教したい系のおじさん達なので正直関わり合いにならないほうがいい。悪意はないんだが若者を導かなきゃいけないみたいな不要な使命感に燃えていて単純にうざい、話もいちいちなげーし。


「わー、それは嫌な目にあったねえ」

「私らもよく絡まれてたよ、女ばっかだと変なのが寄ってくるんだよなー」

「一回ガチの犯罪者いたよね、あの時はビビったー」

「お前だけはこっそり逃げてたけどな……」


 ノキアだけ先に気づいて一人だけ逃げたのか。恐ろしく一致する解釈、いつも一人だけ危険から逃げる抜け目のないトワイスの妹枠ノキア。たまにひどい目に遭ったりするとコメント欄が天罰とか自業自得とかで埋まるのマジで面白い。神の実在がいま証明されたってコメントを見た時は紅茶を噴き出したよ。


 で、この話を聞いてる先輩の様子も相まって女子キャンプ感がすごい。もうトワイスの四人目になればいいのに。


「やべー、え、どうなったの?」

「寝ぼけたままのアスミがちんこ蹴った」


 ミカの証言を聞いた瞬間に俺を襲う謎の幻痛よ。自分が蹴られたわけでもないのに痛みの記憶だけフラッシュバックするのは男子あるあるだ。


「私は野郎の絶叫で起きたけどアスミはマジで怖い奴だよ」

「起きるなり全員とっ捕まえて深夜のちんこキック大会を始めた奴が言うかねえ?」

「仕方ない、寝る前にジャンプ漫画読んでたから仕方ない」

「ジャンプ読んでんだ……」

「面白いから仕方ない」

「あたしも読んでる!」

「お、仲間発見伝」


 ミカと先輩が意気投合してる。羨ましいが絶妙に話題に入れないのは三年ものブランクがあり、異世界から帰ってきた俺の感性は少年誌や青年誌から離れて古めの映画や演歌に向かってしまったからだ。


「おいおい君達ぃ、アイドルなら一応ファッション誌とか高尚な趣味を押し出さないとさあ、アンテナ感度低い女だと思われちゃうぞー」

「アスミ、ファッション誌なんて読んでたのか?」

「読んでないけど」

「アンテナ感度の低い女だ……」

「最近何読んだよ」

「コンプティークとアニ通」

「その有り様でよく他人様の趣味にケチつけられたな……」

「いやいや、ミカさんアイドルとしての意識の問題ですってば」

「じゃあお前から改善してファッション誌読めよ」

「ですが警部、インタビューにそう答えればいいだけで実際に読む必要はないのでは?」

「アンテナ感度はどーした?」


 ギャーギャー言い合う夜が更けていく。この仕事楽しい!



◇◇◇◇◇◇



 寝る直前までギャーギャーうるさかったトワイスだが寝るとなれば一瞬で眠った。この図太さも見習わないといけない。寝るべき時は寝る、そして働ける体を維持する、これができないと過酷なアイドル稼業なんざ長続きしない。

 トワイスの寝顔を横目にニヤニヤしながらオイルランプの明かりを頼りに撮影機材の確認をしていると先輩が起きた。


「寝ないの?」

「機材のチェックだけでもやっておこうと思いまして」


 時間を確認すると深夜の二時だ。思ったより随分と時間が経っている。

 起き上がった先輩がちょこんと隣に座ってきた。そういう萌えポイントの高い仕草は良いと思いますがカメラの回ってる時にお願いします。


「すみません、起こしてしまいましたね」

「ううん、いーのいーの。梟介も紅茶飲む?」

「眠れなくなりますよ」

「あたしそういうの関係ないから」


 カフェインの摂取が睡眠に影響を及ぼさない人類とかいるんだ。

 しかし色々と規格外な先輩ならありえるのかもしれないし、気のせいかもしれない。


「じゃあいただきます」

「よし、先輩が美味しいのを淹れてあげよう♪」


 背嚢をごそごそする先輩がえらく上品な缶入り茶葉を取り出した。俺もよく飲むパック紅茶の海外ブランドが出している茶葉だ。

 別のケトルに茶葉を入れ、あとからお湯を注ぎこんでいる。先輩の淹れる紅茶は中々侮れない美味さなので助かる。よし、俺もストレージから牛乳を出そう。こういうのは世話になってばかりも心苦しいしな。


「じゃあミルクティーにしますか、先輩はどうです?」

「おー、ナイスナイス……パックの牛乳とかどうやって持ち歩いてきたのよ」

「そいつは秘密ってやつですよ」


 温かい紅茶に冷たいミルクは台無しがすぎる。ミルクもきちんと温める。うおー、洗い物が増えていく。

 砂糖でもいいがここは蜂蜜にする。ミルクティーにコクが出るから俺は好きだが好みは人其々だし嫌いな人も多いと思う。


「はぁー、温まるねえ」

「ええ、それに美味しいです」


「毎日淹れてあげようか?」

「こういうのはたまにがいいんですよ、毎日だとありがたみが薄れますんで」

「梟介ぇ、おっさんくさいよ?」

「先輩は思っていても言わないで心に留めておく技術を身に着けるべきですね」

「親しき仲に礼儀なしがモットーよ」

「そのクソみたいなモットー早く捨ててください」

「やだ☆」


 あーあ、輝くような笑顔で言われちまったぜ。

 それからすぐに機材の点検も忘れてしまい、先輩と朝までしゃべっていた。

途中から寝たふりに切り替えたトワイス陣の感想


 アスミ「付き合ってるよね? これ絶対付き合ってるよね?」

 ミカ「青春だな……うっ、なぜか胸が苦しい」

 ノキア「うーん、面白い」

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