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Two-wiseとミーティングだ

 とうとうこの日がやってきた。トワイスとのコラボ前ミーティングの日だ。

 新宿駅に降り立った俺はリボンタイをきっちり締め直す、タイの乱れは心の乱れ!


「気合い入ってるね?」

「当たり前です! だってトワイスと会えるんですよ!?」

「梟介ってミーハーだよねえ」

「そこはドルオタと呼んでください、俺は志の高いドルオタなんです!」


 俺はこんなにも興奮しているのに先輩はなんだかアンニュイな感じだ。どうしたんだ? やはり十月も終わりだというのにミニスカは寒かったのか?


「ここにもー、一人アイドルがいるんだけどなー」

「でも先輩はグループ解散した失業中の自称アイドルじゃないですか」

「この!」


 先輩のぱんちが俺の脇腹に突き刺さった。さすがは剣道二段だ、いい具合にろっ骨を避けて肝臓を狙ってきやがる。剣道二段って無手格闘術もやるのか。

 先輩の気合いを入れ直そう。


「先輩気合いを入れ直してください、こっちは登録者四千人の中堅配信者ですが、あちらは三百万人越えの有名配信者です。浮ついた気持ちのまま会えばあっという間に喰われますよ!」

「喰われるって、バトりに行くわけじゃないんだから……」


 いいや、それぐらいの気合いで行かなければならない。

 なにしろ俺はすでに呑まれているからな、先輩だけでも気合いを入れてもらわないと困る。俺はドルオタだから、くっ、ドルオタだから推しの言うことはホイホイ二つ返事で引き受けてしまうぞ。


 つまり二対三ではない、先輩VSトワイス+俺という一対四の構図なのだ。


「このミーティング、俺は頼りにならないと考えてください……」

「どうしてそんなに弱気なの?」


 弱気っていうか始まる前から裏切ってるだけです。


「それどころか先輩の敵に回る可能性も考慮してください……」

「ドルオタめんどうくさっ!」


 ARCプロダクション本社ビルの二階は商用スペースだ。パーテーションで区分けされたスペースの一つが本日のステージ…じゃなくてミーティング会場だ。


 約束の十三時の五分前に到着したが誰もいなかった。五分待ったが誰も来なかった。


 さらに五分待ってようやく秋口何某がやってきた。


「おや、早いね」

「社会人なら五分前行動しろよ」

「昼休み明けだよ? 社会人ならそこを汲んで少しばかり遅れてくるぐらいの余裕は見せてほしいな」


 俺の方が正論を言っているはずなのにダンディなおっさんが言うと無駄な説得力がある。俺でさえあっちの方が正しいことを言っている気がしてくる。


「トワイスはまだのようだ、君達、お茶はどうする?」

「貰います」

「あ、あたしが取ってきます」


 先輩が小走りでお茶を取りに行った。壁の方に紙コップの自販機が並んでいるがあれは全部無料だ。ホットとコールドの紅茶と緑茶とコーヒー、コーラのような炭酸飲料も選べる。


 暖房に効いた室内とはいえ十一月半ばの寒空を俺と同じく駅からここまで歩いてきた先輩だ、きっと正しい選択をしてくれるだろう。正しい選択を選べること、それが資質というものだ。というかアイドルが腹を冷やす飲み物を選ぶわけがないし愚問だったな。


「はい、おまたせ」

「先輩には失望したよ……」


 先輩が持ってきたのはアイスコーヒーが三つだ。

 そういやこの人、間違い続けて詰んでた人だった、そんな人に正しい資質なんてあるわけがなかった。


「え、緑茶の方がよかった?」

「ホットがよかった……」

「アリサは暑がりだからね、任せればそうなるさ」


 湯気の立つ紙コップを持ってる秋口何某が嫌味ったらしくこうほざいた。


 十三時十分、ようやくトワイスがやってきた。マネージャーらしき男もいる。やけに腰の低い男でぺこぺこしている。


「いやー、さすが天下のARCさんでんな、ドえらいビルなんでド肝抜かれましたわ。あ、わてはトワイス担当マネージャーの関口いいます」


 きょうび大阪でも中々聞けないようなこてこての関西弁の、サングラスにアフロという怪しさを詰め込んだような男だ。しかも中のシャツは柄物だ。……芸能マネージャーというか金融屋だ、それも闇の付く方の。


「これがうちのトワイスですわ」


 おおっ、ほ…本物だぁー。

 ロングの髪をドピンクに染め上げた太陽のように笑顔が眩しい、口の大きな正統派美少女がセンターのアスミ、トワイスきってのお騒がせガールだ。いつもギャーギャーうるさいぞ。


 ブルーの髪を短くしているのがロックミュージシャンみたいな出で立ちをしているのがミカだ、見た目は怖いお姉様系だが中身はただの面白い中二病だ。実際ギターもボーカルの腕前も本格派でシャウトからのハイトーンボイスで歌い上げるソロ曲はじつは名曲揃いのトワイスを支えるギタリストだ。


 綺麗な銀髪にオッドアイのクールっ子はノキア、トワイスの可愛い担当を自認するロリ系で実際メンバー最年少の十七歳。なおファンの間の認識は可愛い小動物だ、すごいビビリで一切顔には出さないが手足は震えまくってるタイプ。


「やだ、本物だ……」

「梟介あたしより嬉しそう」


 嬉しいよ、超嬉しい。

 トワイスの自己紹介を皮切りにこちらも名乗っていく。秋口何某、先輩と名乗り、最後は俺だ。


「アリサ先輩のダンジョン攻略をサポートしている逢魔梟介です、よろしくお願いします」

「彼は探索者歴は短いのですが腕利きです、必ずやコラボを成功させてくれるでしょう」


 秋口何某が俺のフォローに回った。おかしいな、妙だ。

 こいつが俺を案件に巻き込む時点でおかしいのにフォローまでするか?


「必ずでっか。そりゃあ頼もしいですなあ、こっちも稼ぎ頭を預けるんです、怪我なんてさせられたらたまったもんじゃおまへん」

「ええ、ご懸念のほどは理解できます。こちらはお願いしている立場ゆえご要望があれば可能な限りは叶えてさしあげたいと考えております」

「そりゃあ頼もしいこっちゃな」


 なんとなく違和感を抱えたままミーティングが始まる。

 まずは秋口何某からの説明だ。各自に配られた書類を手に起立してしゃべり出す。


「本コラボの内容ですが第六階層から第十階層ボス討伐までのロングラン生配信となります。期間は多く見積もって三日間、うちのアリサにはトワイスのサポートに回ってもらい、頼りになる案内役として彼女達の探索を無事に成功させます」


 ロングラン探索の必要資材はARCプロが出す、ただし予算は50万円までとする。

 野営具は各自手持ちの物があれば持ち込みで構わないが無いのであればARCプロが購入の上でコラボ後に事務所の備品とする。これの購入代金も上記の予算に含む。


 細かく説明されていった最後に質問タイムが設けられ、すぐに挙手するアスミ。やだ、挙動の一つ一つが完全にアスミだ、可愛い。


「はいはーい、ロングラン配信なんですけどダンジョン内で寝る時も配信したままってことですかー?」

「可能ならそうしてほしいね、その方がコアな層にもウケそうだ」


 アスミが「うげー」って言ってる。マジで飾らないところが魅力だ。


「だが宿泊には無窮の神殿を用いるため電波が通らない。残念ながら今日はここまでと言ってライブは停止、就寝中はトワイスとアリサの過去の動画を編集したものを流す形になる」


 なるほどな。資料を読むに三連休の三日間の間、朝の八時から夜の九時までの間を配信探索、翌六時から探索再開という流れのようだ。

 確認した感じ無理のない旅程だ、これは監修に現役の探索者がついているな。


 秋口何某がこっちを見ている。


「逢魔くん、それとアリサ、この旅程で問題ないかな?」

「はい、大丈夫です! 梟介、大丈夫だよね?」

「ええ、先輩なら問題なく案内可能です」

「では具体的なコースの説明に入ろう」


 書類束をめくる。先輩を通して俺が事前に提供した第六階層、第七、第八、第九、第十階層のマップがある。どうやら俺が推奨したルートがそのまま採用されたようだ。赤い線で階層階段から階層階段までルートが示されている。


 出現するモンスターの種類、大まかな脅威度、ルート選定まで含めてコラボ開始前に先輩と何日もかけて調査した内容だ。コラボは始めるまでが大変って本当だったよ、今日もこうして時間を取っているわけだしな。


「道中のモンスターの対処に関してはこちらで決めるよりもアリサとトワイスが相談のうえで決めるべきだろう。戦闘行動に関しては書類仕事とは性質が異なるのでね、勝手に決めてそれで安心というわけにはいくまい」


 とりあえず舌打ちをしておく。嘘こけてめえ戦闘行動のプロだろって指摘のつもりだ。

 このおっさんは元デルタフォース部隊長で、今も当時の部下を何人も抱えている。人さらい、恐喝、何でもこなすARCの裏の仕事屋だ。


「逢魔くん、何か?」

「いいえ、なんでもありませんよ」


「ならば態度を改めたまえよ」

「いえね、秋口さんも同行したらどうかと思っただけですよ。まだ腕は鈍ってないはずでしょう?」

「遠慮しておくよ、見てのとおりの事務あがりの中年にはダンジョンは堪える」


 冗談抜かせ、カネに物を言わせてボードを相当に埋めているだろうに。

 カネに糸目をつけずに高レアパーツを買い漁った元デルタフォースだ、間違いなく自衛隊の迷宮鎮圧部隊並みに手強い。それは俺が保証する。


 そらっとぼけた秋口を余所にこっちを気にしつつも先輩がトワイスと相談を始めている。アスミが率先してしゃべってる。トワイスのお騒がせ娘はダンジョン外でも健在だ。


「道中のモンスターの対処かあ……ノリで!」

「コラボだぞ、そこは何か決めておこうよ」


 ミカがつっこむ。生で見れるとか感動する。

 そしてうちのアリサ先輩が……


「いいね、ノリでいこうよ!」

「おー、話がわかるぅ!」


 一瞬で意気投合するア行の二人。あー、やっぱりこの天然素材二人は気が合うのかー。


「動画を見ていてアスミっぽいとは思ってたけど……」

「やっぱ脳筋のノーキン族だったかー」


 トワイスのツッコミ担当ミカと可愛い担当ノキアが呆れている。


「うちの先輩がすみません」

「あんたも苦労してそうだな。先輩って呼ぶってことは高校の後輩なのか?」

「いえ、一個上なのでなんとなく呼んでるだけです」

「幾つ?」

「十七です」

「若いなー」


 ちなみにトワイスの三人はアスミが20歳、ミカは21、ノキアは17だったはずだ。


「一個下で十七ってことはアリサちゃんは十八か、梟介はノキアとタメじゃん」

「私よりしっかりしてそう」

「ノキアよりしっかりしてない人類なんていねーよ」

「いるいる、さすがに中坊には負けない自信がある」

「逆にそこに勝って喜べるのか?」


 間近で見るトワイス漫才が尊い。仲良しの美少女たちがわいわいやってる光景だけで白米が進むね。


 結局モンスターへの対処はノリに決まった。変にあれこれ決めておいても咄嗟の時にそう動けるかというと無理だ。それは訓練を受けていない人間には絶対にできない。事前の取り決めが無効になるだけならまだいい方だ、大抵は取り決めが足を引っ張る。


「梟介もそっちで陰湿なやり取りしてないで混ざりなよ、推しのトワイスとしゃべりたかったんでしょ?」

「いざとなると勇気が出なくてですね」


 推しとしゃべってもいい機会を活かせるドルオタが果たして世に何人いるというのだろう。

 しゃべりたい、でも上手くしゃべれない、もどかしいこの気持ちはもしかして恋?

 推しです。


「梟介ってほんとめんどくさいよねー」

「ドルオタの繊細な心はアイドルにはわからないんですよ」

「おー、イケメンくん私達のファンなんだー。よかろう、握手してやろう」

「ありがとうございます!」


 アスミと握手する。しっとりとした温かい手だ。この快挙は逢魔家の歴史に残りますよ!


「イケメンくんも同行するんだよね、戦えるの?」

「アリサ先輩ほどではありませんが自衛くらいは可能です」

「そうなんだ、じゃあ戦闘は私達に任せてよ!」

「謙遜を鵜呑みにしないの。ったく、十階層で自衛ができる猛者と六階層でまごついてる私らじゃたぶんレベチだから」

「え、そうなん?」


「そーそー、梟介はめちゃつよだから頼っていいよ」

「みなさんの足を引っ張らないようにがんばります!」

「従順男子擬態系バトル男子かよ、こわー」


 トワイスのわちゃわちゃ空間に巻き込まれるの素直に楽しい。

 そんな時にだ、関西弁の怪しいマネージャーがすり寄ってくる。俺ではなく先輩にだ。


「アリサはんに一つお願いがおまんねん」


 揉み手をすりすりごますりポーズで頭もぺこぺこと下から来る怪しい関西弁が言う。要求する。


「ボスマラソンで余ったパーツがあったらうちの子達に分けてほしいねん。ほら、うちの子達な、普段は六階層で遊んでんけど深い階層ゆーとモンスターもつよなるんやろ? 底上げしておきたいねん」


 理解のできる要求だ。二つ返事で承諾しようとした先輩が「はっ!」と気づいて目配せしてきたので頷いておく。

 今回俺達はけっこうな不利益を呑んでいる。パワーレベリングによって十階層の美味しい狩場はトワイスにも開放される、それはつまり現状うちのチャンネルだけが持つ強みの一つが潰れるのだ。そこにパーツの提供となると出血大サービスだ。


 しかしトワイスコラボによる恩恵は大きいはず、先輩のチャンネルの躍進に必ず貢献してくれるはず。何より推しのトワイスがケガするのは普通に嫌だ。


「はい、問題ありません」

「へ……? ほんまにいいんでっか? けっこう厚かましいお願いしてるつもりやってんけど……」

「いいんですよ、だってあたし憧れのトワイスとのコラボが楽しみで仕方ないんですもん!」


 先輩の屈託のない太陽の笑顔に関西弁マネージャーが固まり、六秒ほど経ってから夢から覚めたように動き出す。


「お人よしっちゅーか何ちゅーか、こりゃワテの負けや、あんたさんアイドル向いとるわ」


 関西弁のマネージャーが茶封筒を懐から取り出す。一つ二つ、分厚い茶封筒が三つテーブルに置かれる。


「ほんまはどうやって値切ろうか考えに考えとったんやけど全部あげますわ。その代わり、うちの子達をきっちり守ったってや」


 え、超いい人……

 茶封筒を覗き込むと百万が入っていた。帯があるからたぶん百万円だ。それが三つで三百万だ。


 頭を下げる関西弁のおっさんに男気を見たぜ。やっぱアイドルのマネージャーやってる人はアイドルが好きで大切にしているんだろうな。

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