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開設、日高アリサのダンジョン探索チャンネル(裏)

時は少しだけ戻って配信準備中

 探索者どうしが内緒話をする時は無窮の神殿がおすすめだ。奥の祭壇のあるエリアは一緒に入った人以外とは絶対にかち合わない特殊なエリアなので他人の目を気にする必要がない。……もちろん信頼のできる人とだけ入ろう、他の人と会わないってことは助けも来ないってことだ。俺の勝手な推測だがおそらくここで殺されたら死体は見つからない。誰も来ないエリアに永遠に放置される。


 そんな特殊なエリアに現役アイドルを連れ込んだ悪い男がいることになるな。姉さん、俺の清い心を信じてください、ドルオタは変に純情なところがあるから大丈夫です。


「まずはロールボードのお勉強といきましょう」

「……あたし勉強は苦手ぇ」


 どうしてアイドルは勉強が苦手な人が多いんだろう。

 やっぱヒカリンはすげえよ、アイドルやりながら大学に合格してるもんな。……授業を受ける時間があるのかは知らない、なさそう。


「簡単な確認のようなものですよ。ロールによって多少の際はあるようですが一つのロールに付きパーツを嵌められる個所はクラススリーまでで48ヵ所のようです」


 クラスワンが16、クラスツーが16、クラススリーも16個のパーツが必要になる。もちろん役割によって付けられるパーツの種類が異なるので能力値が差別化される。


 パーツケースを振る。この中には俺が第十階層マラソンで溜めに溜め込んだ無数のパーツが眠っている、まるで伏線だな……単に売るのが面倒くさかっただけだ。

 パーツ売買って詐欺が多いんだよ、だから郵送じゃなくて対面での取引が推奨されているせいで売るのに手間がかかる。オタ活に全力投球したい俺にとってこれが苦痛で仕方ないんだ。


「ではこれを使ってボードを埋めていきましょう」

「本当にいいの?」

「男に二言はありません」


 自分の胸をどんと叩いて冗談めかして言ったら先輩が笑ってくれた。


 先輩の戦士ロールにパーツを一つ嵌めると光が伸びていって新たなスロットが二つ輝き始めた。こんな調子でどんどん嵌めていく。

 先輩は四ロール持ちだから計192個か。まったく荷物が軽くなってしまうぜ。


「ふおおお! これはッ、ちからが…溢れる……!」


 え、そんな過剰な反応あるの?


「すみません、急に沢山嵌めたので副作用かもしれません!」

「……ごめん、ノリで言ってみただけ~」


 心配して損した。

 てへぺろの可愛い先輩の顔面をわしづかみにしてから言っておく。これはこれからの活動を円滑に進めるために必要な通過儀礼だ。


「先輩に一つだけ、いや二つほど忠告をしておきます。まず一つ、そのキャラウザ可愛いを狙っているんでしょうがマジでウザいのでやめておいた方がいいと思います」

「痛い痛い痛い!」


「第二に、命に関わっていそうなギャグは金輪際やめてください、温厚な俺もしまいにはキレます」

「キレてるキレてる!」


「第三に、俺の握力は63万なのでくだらないギャグはマジで命取りになりかねません。これは通告です」

「……梟介もいい感じに猫の皮が剥がれてきたね?」

「お互い様にしたいですね」

「うん、あたしももっと自然体の梟介と付き合いたいよ」


 付き合いたいときたか。いいぞ、そのガチ恋を釣る言動はアイドルらしいね。


 パーツを嵌めて即席の強さを確保。次は今の先輩に見合った装備…というよりも先輩のような新米探索者でも火山地帯で戦える装備が必要になる。


「ここからは……」


 いや、なんか後ろめたいことをするぞなんて言い方はよそう。

 信頼と信頼でつながれなきゃ大きなことはできない。秘密を明かし、黙っていてもらう。先輩にはアイドル生命を懸けてもらっているんだ、俺もリスクを負うべきだ。


「これはナイショですよ、俺には人には言えないチートスキルがありまして、それを使えば武器を出せるんです」

「それって梟介の使う警棒のこと?」


 勇者武器を召喚する。

 俺の背後の空間が歪み、無数の勇者武器が姿を現す。無骨な鋼の塊の数々から漏れ出る凶悪なオーラにさすがのド根性先輩も絶句している。さすがは俺の誇るLR強化値+99品質神工品だ。


「……ち…チートにも程があるでしょ、ねえ、こんなスキルどうやって手に入れたの? こんなロールやパーツがあるならもっと話題になるはずだよね!」

「実は以前ほんのちょこっと異世界に勇者召喚されていましてね。チートスキルは異世界で手に入れたものなんです」


 先輩の唇に人差し指を当てる。


「二人だけの秘密ですよ?」

「う…うん、二人だけの…秘密だね」


 よし、信頼の口止め成功だ。理由は不明だが二人だけの秘密って効果あるんだよな。



◇◇◇◇◇◇



 慣れない武器はただの鉄と変わらない。ゆえに先輩に貸与するべき武装を一つは決めていた。

 LR軽ストラグル粒子循環型ビームサーベル+99(品質:神工品)だ。強いぞ、そして長時間運用も可能だ。

 形状としては近未来的な柄拵えの剣としてあるべき刃が片方すっぽりと存在しない剣だ。


「変な剣だね、まぁ使えなくもないと思うけど……」

「まずはこれなんですけど、こっちだけ刃がないですよね? じつはこれわざとなんです」


「なんでテレビショッピング風に……」

「そこでここのボタンを押します」


 ブゥゥゥン!


「なんとボタンを押すだけで光の剣が完成するんです!」

「でも切れ味は悪いんでしょう?」


 おっ、乗ってくれたか。


「試してみてくださいよ奥さん、何だって斬れますよ」


 元々かなり強かった勇者武器の最大強化版品質向上品だ。

 そして二つ目はシンプルに円盾だ。中央に青い宝玉のはめ込まれたシンプルな盾。これが強い。


「普通の盾だと思ってがっかりしましたか? じつはこれ、馬鹿つよなんです」

「えー、どういうふうに強いのー」


「なんとこれ、装備しているだけでとある閾値までのダメージを肩代わりしてくれるんです」

「わー、真面目に強いやつだー。それでとある値ってどこまでなの?」

「魔王竜の攻撃に一晩耐える程度には激つよですよ。あ、拳銃もいります?」


「……ねえ、もしかして魔王のいるSF世界にでも召喚されたわけ?」

「いいえ、剣と魔法のファンタジー世界でしたよ」

「ほんとかなあ」

「本当ですよ、俺を信じてください」


 先輩の手を握り締めて真正面から誠意を伝える。これも非常に有効な手段だ。なにしろ夏乃くんの太鼓判付きだ。


『梟介は変に言葉を弄するよりも真正面からはっきりと意思を伝える方が効き目があるね。垂らし込む? いやいや誠意だよ誠意、誠意をもってお願いするんだよ』


『啓蒙するように誘導するんだ。正義と誠意と慈愛を説いて人々を先導する悪しき王のようにではなく相手の手を握り目を見てお願いする、きっと彼らは梟介の言うことを聞いてくれるよ』


 敬愛する夏乃くん直伝の手段だ、こうかはばつぐんだぜ。

 あっという間に真っ赤になった先輩が顔を逸らした。


「信じるから、信じるから手を離して……」


 よし、信頼がまた一つ積み重なったぞ。

 経験上五回ほどお願いすればほぼ俺の言いなりになるからやりやすくなるぜ。


「じゃあ装備も決まったことですしこれから十階層まで行きますよ、十分もかかりませんから!」

「へ?」


 俺のチートスキルは武器だけじゃなくて車両も対象だ。なにしろ火と鉄の女神から最大の恩寵を賜った兵器の勇者だからな。



◇◇◇◇◇◇



 グラビティボードは空を飛ぶスケートボードだ。右足を固定して、さりとて左足が大地を蹴るわけでもなく、左足で足元のレバーを操作して飛ぶ。

 強化前は地面すれすれをスイーっと浮遊するだけのしょっぱいスケボーだったが最大まで強化したら最大高度二万メートル、マッハ四まで出るようになった。とはいえ全速力を出すと細かい軌道が取れなくなるので十分の一の四百キロほどが適正速度だ。全速力を出すと曲がれないんだ。


「どうです、時速四百キロの空の旅は?」


「…吐きそう」

「吐いたら蹴り出しますからね」


「壁が無くなるって良いことばかりじゃないんだね。あの聞き分けがよくてハンサムな後輩が恋しいよ……」

「中身のないガワがお望みなら思い出に浸って生きるといいですよ、俺も思い出にまでは干渉しません」

「改心してよぉ」

「経験上先輩のような女性に主導権を握らせても物事が進展しないので却下です」


 次の階層へと続く長い階段エリアだってグラビティボードなら一瞬で過ぎる。常人なら間違いなく衝突事故を起こしてお陀仏だろうが俺はベテランなんで何とか。いやそれでもこんな空間を飛んでいい代物ではないと思うけども。

 おそらく、たぶん、宣言通りの十分強で十階層のボスエリアまで到達した。


 グラビティボードから転がり落ちてアイドルにあるまじき青い顔のまま震えている先輩を放置して、上空を旋回しているワイバーン二頭をスナイパーライフルで撃ち落とす。ドロップアイテムの回収は戦術アンドロイドに任せる。


「……あのね、気のせいかもしれないけど今ドラゴンを倒してなかったかな?」

「ドラゴン? あんなのは空飛ぶとかげですよ」


 先輩が首をひねっている。

 何かがおかしくて理解できないって顔だ。そしてまだ気持ち悪いのか顔色だけは青い。


「どう見てもドラゴンだったけど」

「あれがドラゴンですって? 冗談きついな、竜っていうのは神にも等しい存在ですよ、神を殺し神に反逆し、世界の支配権を神と二分する超存在です。ダンジョンなんぞに竜がいるわけがないし、あれが本物の竜ならこんなに簡単に倒せるはずがありません」


 もし仮にあのワイバーンと呼んでいるとかげが種族上本当にドラゴンだったとしても俺はドラゴンとは認めない。絶対のちからを持たぬモノにドラゴンを名乗る資格はないと断じる。

 この程度の雑魚がドラゴンなら俺達が必死の想いで戦ってきたモノは何だったんだってなるし、お前らあの程度のとかげに苦労してきたのかよと侮辱されている気分にもなる。


「あれはとかげです、強いて言えばワイバーンです、いいですね?」

「はい!」


 いい返事だ。信頼を感じるな。信頼、様々な物に蓋をした協力関係を気飾るのにじつに便利な言葉だ。


「じゃああのワイバーンを楽に倒せるようになるまで特訓です」

「いいえ!」

「返事はハイしか認めません。マジな話しばらくは十階層で動画をつなごうと考えているのでこの階層に関しては誰よりも詳しくなってもらいます」


 知る人ぞ知る、というか現状俺しか知らない十層マラソンの美味しさを広めたら二個小隊に任せてモタモタ攻略してる自衛隊あたりが本気出してボスの独占とかし始めると思う。民間の探索者チームもアライアンスを結成して死に物狂いで到達しようとするかもしれない。この数か月通い詰めの俺の有り様でわかるとおり高品質パーツ確定ガチャはそれほどに美味しいのだ。


 え、みなさんまだ稀に出現するパーツガチャに一喜一憂してるんですか? 約1%の確率で出現する+3で喜んでんすか? ちょっと深くに潜れば高レア確定ガチャを引けるのに?なんて他の探索者を笑っていたところもあったので、これもいい機会だろう。


 そして始まるスパルタ逢魔塾、悲壮な顔で剣を握る先輩を褒めて伸ばして立派な配信者にしてあげよう。

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