恋をした、だから
恋をした、一世一代の恋だった
まるで、雲が晴れ、陽が差すような
暖かな太陽のような、彼の笑顔を見た瞬間に私は恋をした
恋した人には決まった相手がいることも
心を通わせたところで決まった将来が覆らないことも分かっていた
それでもいい、とこの恋の思い出だけで
生涯、生きていけると思えるほど、大切な恋だった
だから、愚かな私は、いや、私たちは恋に溺れた
婚約者のいる相手とのおかしな距離にはじめは
ずいぶん、手酷い仕打ちを周りから受けた
それは仕方がないことだと思った
私は確かに彼を男性として慕っていたし
勘違いではなく、彼もまた私に思いを寄せてくれていたから
でも、彼は学園生徒の代表として総会を統べる学園の総長で
私は補佐の一人だった
成績で選ばれるソレは学園の中で唯一覆らない価値で
私たちを物理的に離すことは誰にもできなかった
それに私たちは誓って疚しいことなどしてはいない
一緒に調べものをするために詰める図書館や
総会の仲間でとるランチの際に彼がそっと置いてくれる私の好物のケーキ
総会が主催するパーティで着るドレスに何げなく差してくれる
手頭から用意してくれただろう一凛の花
そんな些細な交流で、私たちはそっとお互いの気持ちを隠し宥めていた
だが、隠せば隠すほど、私たちの関係はなぜか注目を集め
潜めれば潜めるほどに、私たちの関係は少しずつ認められてしまった
過激になる攻撃と相反するような苛烈な応援
私がどちらに与するかは自明だった
それに
『私たちは何も恥ずべきことをしてはいない』
そんな気持ちも私の中にあった
私たちは思い合ってはいたけれど
決して、不貞と蔑まれるような行為はしていなかった
それに彼はちゃんと婚約者とも必要最低限の義務を果たしていた
総会の仕事で学園内では私たち総会の仲間と過ごしていたし
在学中にも拘らず
その魔力と剣の腕を買われ、騎士団に在籍していたため
多忙を極めていたから
月に一度のお茶会すら難しい時期はあったと聞いたけれど
機会がどれほど少なかろうと
彼はきちんと彼女を婚約者として遇していた
それに、そういうことは彼や彼の婚約者だけに起きたことではない
何代かに一人と言われるくらい珍しいことではあるが
皆、そういう有望な相手と婚約したことを誇りに思い、支えてきたのだ
有能で有望な人間は誰にも望まれ、忙しいものだ
ならば、それを支える人間は甘んじて受け入れるべきことだ
私はそう自身に言い訳して、納得したふりをした
でも、どんな状況にも凛と一人立っている彼女を見ると
酷く自分が惨めに思え、何より責められているような気がして
いつしか彼女に悪を押し付けた
周りが望むように・・・
物語の悪役がそうであるように・・・
己から、彼女だと、いったことはない
だって、彼女に何かされたことはない
だけど、過激な攻撃を受けたとき
彼女にやられたか、と聞かれれば、口ごもった
誰の指示かなんて、わからない
そう、私は己自身にすら言い訳して
だけど、私が、いや、私たちが
己の心に自由に生きられるたった三年間しかない学園生活を
誰にも、何にも邪魔されたくなかった
そして
私からいつか彼を奪い、当然のように独り占めする彼女は
私にとって確かに悪役で、私たちの大切な恋の思い出のために
ちょっとだけ我慢してもらう
そんな気持ちも、確かに持っていた。




