恋の結末⑦
「恋をするな、とは言わない
だが、己の立場を忘れてはいけない
何より、周りを冷静に見る目を決して曇らせてはいけない」
そう、父上は静かに話した
男がだれか、婚約者がだれか、とは父上は言わなかった
だが、僕たち兄弟は4人で
高位貴族には珍しいほど、年が近く連続している
そして、僕は父の銀髪を持っているが
次男と妹は祖母の金髪を、そして、三男が母の白金を受け継いでいる
髪色がここまで多様な家族も珍しいが
僕たち4人は分け隔てなく、皆、それぞれの望みの道を自由に進めるように
勉学も鍛錬も自主的に選ばせてもらえている
何より、高位貴族なのにも関わらず
僕たちの誰一人、婚約者を父たちに定められていない
それが誰の献身を元による自由なのか
今、僕ははっきりと分かった
母上は結局、隣国から帰ることはなく
療養所から出ると、教会に身を寄せ、修道女として
孤児たちに礼法や勉学を教え、過ごした
僕たち兄弟が訪ねれば、母上は必ず時間をとってくれたし
僕たち兄弟の卒業や結婚などの行事にも顔を出してくれた
母上は父上に一度も声をかけることはなかったけれど
父上は母上が来るとただ静かに母上を見つめていた
そして、僕に家督を譲ると
父上もまた隣国へ行き、母上のいる教会近くで静かに暮らした
療養所を出た後も元々体が弱かった母上は頻繁に体調を崩した
その度に、父は近くであれこれと裏で手を回し
母を静かに支え続けた
父は家督を譲る前から
隣国で一人暮らす母へのサポートはしていたけれど
近くにいれるようになったからだろう
ずっと細やかで母に悟らせないよう繊細で綿密だった
そんな父に弟妹、特に、妹は呆れ返っていたが
僕は生き生きと陰から母を見守る父上に
ずっと本当はそうしたかったのだろう、と思うと何とも言えなかった
何より、母上が一人で暮らしていた時よりずっと
母上が体調を悪化させることは減っていた
そのため、僕たち兄弟は父上の裏工作を見逃すことにした
そして、いよいよ母上が倒れると
父上は母上を教会から引き取り
最後まで自ら看護をして、看取った
最後に訪れた時見た二人は
やっぱり母上は父上を見ることはなかったし
話しかけることもなかったけど
決して己に触れさせず、近寄らせすらしなかった昔とは違い
大事そうに母の背を支え、一口ずつスープを飲ませる父の手を受け入れていた
何より、母の世話をする父の幸せそうな顔が
二人の穏やかな毎日を表していた
父は間違えた
そして、母は絶望し、傷ついた
でも、やっぱり二人は最期までともにあった。




