恋の結末③
数か月経ってもよくならない病状に
母上は医療に長けた隣国の療養所に向かうことになった
母上が倒れてから
父方母方両家の祖父母が気にかけ、時間を見て通ってくれたから
僕たちは一人になることも心細い思いをすることもなかったけれど
でも、暖かな母の腕の中を思い出せば、心がちぎれるほど寂しい
14にもなった僕がそう感じるのだから
まだ8つで、己の発言が原因となった妹は特にそうだった
あれ以来、一人娘ということで特に可愛がられ
少し我儘なところがあった妹はすっかり大人しくなってしまった
それを母上が喜ぶとは思えない
だから、寂しいけれど、母上が元気になるように見送る
「きっと、会いに行きます」
そう言った僕に母上は何も言わず
ただ、小さな頃そうしてくれたように優しく頭をなでてくれた
ジンッと込み上げてくる感情を長男の意地で飲み込んで
頑張って笑う僕のほほを母上は軽くつまむ
それは、父に似て、我慢し過ぎる帰来があるという僕が
無理をし過ぎたときに、母上が頑張りすぎないで、と
よくしてくれた仕草で・・・
耐え切れず、母上の手に縋り付いて泣く僕を
母上はいつまでもゆっくり撫でてくれた
そうして、子どもたち一人ひとりとゆっくりお別れをした母上は
母上の二番目の兄に付き添われ、隣国に旅立った
母上が最後まで父上に
声をかけることはおろか見ることすらなくても
もう、誰も何も言わなかった
そして、そんな母上をいつまでも
父上はさみしそうに、何より愛おしそうに見つめ続けた
母上の馬車がもう、かけらも見えなくなっても
その場で立ち尽くす父上は、僕たち以上に
まるで、親に置いて行かれた子どものようだった。




