恋の結末②
母に掴みかからんとばかりに、顔を真っ赤にさせて駄々をこねる妹、
慌てて妹を止めようと、椅子を蹴倒して手を伸ばす三男に
びっくりして、カラトリーを皿の上に跳ねさせる次男
そんな弟妹たちを落ち着けようと一斉に駆け寄る使用人たち
混沌とした場で、スッと母上が徐に立ち上がった
それだけで、場が、すべての視線が母に寄せられる
でも、母を見た瞬間、ヒュッと息をのんだ
いつも、基本、優しい笑顔を浮かべている母上の顔から一切の表情が消えていた
母上は美しい故に、能面のようなその表情は恐ろしくて
まったく知らない誰かを見ているようで、誰一人声が出せなかった
今までの喧騒が嘘のようにシンッと静まった部屋から
母上は何も言わずに、そして、誰のことも一瞥することもなく
出て行ってしまった
母が去ってしまったことで見捨てられたと感じたのか
泣き叫んで、癇癪を続ける妹を抱きしめながら
父上は、すまない、と繰り返した
僕は立ち尽くす弟たちの背を撫ぜることで自分を落ち着かせた
それから、一か月、母上の顔を見ることはなかった
あの後、母上は意識を失って、高熱に倒れた
そのことで
自分のせいだ、と己を責める妹を私たち兄弟は抱き締めて
必死に幸せな今を壊すまいと抗った
病床で見る母上は今にもここから消えてしまうかのように儚く
傍で懺悔を繰り返す父上はいつも大きく感じていたその背が
小さく感じるほど弱々しく感じた。




