恋の結末①
母上は美しい人だ
子どもが4人もいるというのに
永遠に無垢なる妖精姫と呼ばれるほど
現実味のない美しさを持った人
だけど、そんな母上は私たち子どもたちの前では
優しく、そして、時に、怖い母親だった
叱られると怖いけれど
でも、その目に溢れる私たちへの愛情を知っているから
僕たちは母上が大好きだ
母上はそんな僕たちの大好きをきちんと受け止め
もっと大きくして返してくれる
そんな素敵な、自慢の母上だ
だから、はじめは気づかなかった
僕たちをいつでも守ってくれるかっこいい父上
そして、僕たちのことを可愛がってくれる4人の祖父母たちに
母上が決して僕たちに見せるような笑顔を見せないことに
そして、そんな母上を父上がいつも悲しそうに見つめていることに
母上がいるときは、父上は近寄ってこない
父上がいるときは、母上は姿すら見えない
そのことにもどかしさを感じたことは一度や二度じゃない
だって、父上のことも母上のことも大好きなんだ
だけど、なんとなく、僕は口にできなかった
何かが崩れてしまうような、そんな危うい空気を
僕も、僕の下に生まれた双子の弟たちもなんとなく察していた
それを破ったのは、末っ子で誰より甘えたの妹
妹は友達の令嬢の別荘に何人かと招待された
特に仲のいい友達たちが両親と一緒に訪れると聞いて
妹は両親それぞれに強請ったのだ
ともに行ってほしい、と
それは月に一度の家族揃っての晩餐だった
母上は即答しなかった
父上は仕事の都合がつかない、と謝った
でも、妹は癇癪を起し、二人といけないならもうどこにも行かないと騒いだ
母上は静かにそんな妹を叱ったけど
感情的な妹は多分言ってはならないことを言った
母上が嫌だからって、私に我慢させないでっ、と
子どもの僕たちがうっすら感じていた母上の父上に対する感情
嫌悪感とも無関心とも違うが、それに近い負の感情
だけど、触れたら壊れてしまう、そんな怖さ
それを妹が踏み抜いた。




