1.恋愛の勝ち負け
「ねぇ! ミケット。ちゃんと私の話、聞いてる?」
「聞いているわよ。ルイ様がレナにロマンティックな告白をしてくれたのでしょう? チューリップの花束だなんて素敵じゃない」
「そうよ……静か過ぎるほど静かな図書館でね」
ミケットはティーカップを口に運びながら、横目で私の不満そうな表情を盗み見ている。
いつもそう。
人の表情や機微をよく見ていて、自分のことは後回しにしても相手が望んでいることをしてあげるのがミケット。
私の性格とは真逆の優等生タイプね。
「んー、そうね、確かに静かな図書館で告白は困るわね」
ほらね、今だってそう。
でも、最近、ミケットがルイ様と友人関係になったって知っているのよ。
それなのに……。
「あーあ、なんだか面倒くさくなっちゃった」
「レナ? 急にどうしたの?」
◇
私の言葉に困惑したミケットには悪いけど帰ってもらった。
ミケットはとびきり美人でもないのに、他の令嬢たち曰く、凛としていて少し近寄り難いらしい。
「そうかなぁ、ミケットは普通って感じなのに。きっと伯爵令嬢だから私より何でも上手くいくのよ」
令嬢たちに人気のケビン・シェロー伯爵様とお付き合いもして、楽しい思い出を作った後に、前途有望なレイモン・タイヨ侯爵様と婚約だなんて――世の中、不公平よ。
ロマンティックな告白されたって、ぜんぜん嬉しくないわ。
ケビン様の友人ルイ・ワイス男爵様からだもの。
正直、私の方がミケットよりも顔は良いし、ちょっとお喋りだけど性格も明るいのに。
私が子爵令嬢だから?
――今に見てなさい! 絶対、みんなが羨むような男性と結婚するんだから。
◇
あの日以来、ミケットは私と少し距離を取るようになった。
だから、今日の夜会も他の令嬢と来たわ。
「私たちと一緒で宜しかったのですか? いつもラキーユ伯爵令嬢といらっしゃるのに」
「ええ、ミケットは婚約したばかりで忙しいし、タイヨ侯爵様とご一緒だと思うから」
「あら、噂をすればミケット様とレイモン様ですわ。ミケット様が以前より美しくなられたのは、愛されているからかしら」
確かにミケットとレイモン様はお似合いで、レイモン様から贈られたドレスや宝石を身に付けたミケットは輝いていた。
「私たちも素敵な殿方を捕まえましょう。ねぇ、レナ様」
「ええ、もちろんですわ!」
同じように結婚相手を探しに来た――子息令嬢たちがうじゃうじゃしている、戦場のようなダンスフロアに飛び込んだ。
「ミケット、あのレディはレナ嬢かな?」
ミケットはレイモンの視線の先を追うと、レナが辺境伯家の令息とダンスをしていた。
「あら、本当だわ……」
(いつもは何でも口に出してしまうレナが、本当は私の恋愛や婚約にヤキモチを妬いていることだけは言わないのよね。当たり前のことなのだけれど。余計に言いづらくて、伝えたい事が言えず仕舞いだわ)
少しミケット表情が暗くなったように感じたレイモンは、すれ違う従僕のトレイからサッと甘いデザートワインを選び取る。
「ミケット、このワインとっても美味しいんだよ」
甘い香りがミケットの鼻をかすめた。
「ありがとう、レイモン」
この作品は、「それぞれの恋」シリーズの一編です。 以下の順で読むと、登場人物たちの心情やすれ違いをより深く味わえます。
・ミケット・ラキーユ伯爵令嬢の不条理な初恋
・ケビン・シェロー伯爵の気まぐれな恋
・ルイ・ワイス男爵のほろ苦い恋
・レナ・ジュラン子爵令嬢の不器用な恋
※各話は独立していますが、順番に読むと余韻が深まります。
『物語のどこかで心に残る場面がありましたら、ひと言だけでも感想やリアクションをいただけますと、とても励みになります。
感想へのお返事は控えさせて頂きますが、大切に読ませていただきます。
よろしくお願いします。』