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07 科学者、研究の始まりを語る 4

 究理(さだみち)がいかにして荷物検査をすり抜けたかを自慢げに説明すると、メアリーが気になったことを指摘する。

「あれ?

 今馬車に設置してある奴は、普段はただの扉にもなりますよね?」

「あぁ、それは後になって、機能をON/OFFできるようにしたからさ。

 最初のうちは常時ONにしかできなかったんだよ」

「それって、師匠が技術開発の順番を間違えてるとしか思えませんけど」

「うるせぇな、基礎技術の確立を優先させたんだよ。

 とにかく、緯度経度、地磁気の影響で失敗する可能性がないとは断言できなかったから、世界各地との転移実験を始めたんだ。

 だから、各地で最初の実験と同じように、物体、小動物、大型動物、電源の入った電子機器で一通りの確認をして、それから自分自身で試すっていう手順を繰り返したわけさ。

 そういう手間をかけたから、実証実験だけで三年かかったんだよ」


    *    *    *


 じつは、実証実験の経緯で、若干後ろめたいこともあってメアリーに語っていないことがある。それは、実証実験の最中に遭遇した、盗難被害で始まるとんでもない事件で、究理(さだみち)が拠点周辺の治安活動に(いそ)しんでいる理由でもあった。

 それが起きたのは、海外に双対門(デュアルゲート)持ち出しそこなって、無駄になった一週間の暇つぶしに国内の転移実験をしようとしていた矢先のことだった。空港を出た後、遠方の自宅には戻らず、東京近郊に宿をとって、そこと自宅との間で双対門(デュアルゲート)の実験を行おうとしていた。そして、梱包した双対門(デュアルゲート)の額縁を宿においたまま食料品を買いに出て、帰ってきたら宿が荒らされていて、双対門(デュアルゲート)を仕込んだ絵画が無くなっていたのだ。

 物がモノだけに警察に相談することもできない。

 あわてて本拠地の自宅に戻り、対になった額縁を使って、盗まれた額縁の絵画の裏に耳をあてて、向こうの様子を探った。


(車の音がしないから、もうどこかに運び込んだ後か?

 犯人たちの声も聞こえる。二人いるな)


『なぁ兄貴ぃ、あんな絵盗んでどうすんだよ?』

『知らねぇよ。

 とんでもないものかもしれないから盗んでこいって言われたんだ』

『どう見たって安物の絵ですよ? 何が良かったんですかね?』

『そんなこと知るかよ。

 雇い主が言うには、なんでもあの絵の持ち主が、絵を海外に持ち出そうとして、荷物検査に引っかかったんだとよ』

『密輸でもしてたんですかね?』

『いや、詳しくは分からんが、X線検査でX線が全く通らなかったらしい』

『どういうこってす?』

『検査した奴が言うには、分厚い鋼板でもなきゃ、ああはならないそうだ』

『なら、その鋼板がはいってたんでしょうよ』

『そうじゃない。持ってみても軽い額縁の絵だったそうだ。

 ただな、裏から突いてみても、防弾の盾より硬くて、びくともしなかったんだと』

『でもあれは、ただの絵ですよ。

 それにさっき触っちゃいましたけど、硬いどころか、ふつうにベコベコしてましたよ?

 これじゃないって怒られませんかね?』

『さぁな。それなら外れなのかもしれん。

 だがなぁ、この絵の持ち主ってのが、六十過ぎの爺さんなんだが、昔大学でえっらい難しいこと研究してた学者さんなんだってよ。だから何かのお宝かもしれないってことなんだ。

 とにかく言われたものを盗んできたんだから、文句を言われる筋合いはないさ』


(じじい)で悪かったな!

 う~~ん。

 あのときの検査技師に目を付けられたってこと?

 あのとき、すんなり家に帰してくれたのって、もしかして盗むためだった?

 こっちの素性まで調べられてて、なんか組織犯罪っぽいのが嫌なんだけど)


 究理(さだみち)は、相手が普通の窃盗犯ではないと判断した。

 奴らは盗んだ絵画が双対門(デュアルゲート)だとは気づいてないが、何かしらの研究成果だろうと目星を付けられていることは間違いない。


(調べられるとまずいな。早いうちに処理しよう)


 犯人たちの声が聞こえなくなるのを待って、盗まれた額縁の対となる額縁の裏から穴を開け、ファイバースコープで覗いてみたところ、絵画は無人の倉庫の片隅に立てかけられていて、倉庫の様子も見て取ることができた。


(よし、誰もいない。

 ふ~ん、あれって金塊だよなぁ。

 あ、あっちには宝飾品もある)


 どう見ても窃盗団による盗難品の収蔵庫だった。

 他にもいろいろな箱が数多く積まれている。

 もともと究理(さだみち)は、盗まれた双対門(デュアルゲート)を破壊したかっただけなのだが、折角なら報復してやろうと考えを改めた。


 すでに深夜だ。収蔵庫に人影がないのを見計らって、双対門(デュアルゲート)の絵画の絵を破って、収蔵庫に侵入する。

 深夜とはいえ、泥棒に昼夜は関係ない。いつ人が入ってくるかも分からないので、慎重に行動する。


 まず、収蔵庫に置かれていた金塊と宝飾品を半分ずつ自宅に持ち帰ってから、他のものを物色する。究理(さだみち)は、棚に置かれた箱の蓋を開いて、目を見張った。そして、次々と他の箱の蓋も開いていく。


(武器弾薬の山じゃねぇか)


 棚に置かれた箱の中には、刀剣類や銃器が詰まっていた。

 銃器は拳銃に散弾銃にアサルトライフルなどなど。銃弾の箱も多数ある。


(こいつらも盗難品? どこから盗んできたんだ?

 警察や自衛隊の装備じゃないから横流し品ってことはないな。

 だとしたら密輸品?)


 そして……


(銃器には詳しくないけど、これってヘカートってやつだよなぁ)


 PGM ヘカートⅡは、戦車をも貫くフランス製の大口径狙撃銃。世間知らずの究理(さだみち)が知ってるぐらい、日本人にもファンが多い銃器だ。

 他にやたら大きい銃があり、付けられていたタグを見たらNTM-20となっていた。おそらくこれも対物ライフルなのだろうが、何に使う気なのだろうか。アメリカ大統領が来日したときに、防弾能力で有名な大統領専用車に挑戦するつもりなかもしれない。

 さらに、プラスチック爆弾と時限装置、対戦車ミサイルも発見。


(こいつらテロ起こす気満々じゃねぇか)


 窓のサンシェードの隙間から、ここがどこなのかを確認して……


(あぁ、そういうことか……)


 ここは、通報しても警察が手を出せない、某反日団体の本拠地だ。


 ぴっ、ぴっ、ぴっ、ぴっ……


(んっ?)


 時を刻む音に振り返ってみると、何の拍子で起動したのか分からないが、時限装置がカウントダウンを始めていた。

 それからのことを、究理(さだみち)ははっきりとは覚えていない。慌て過ぎて思考力が低下していたせいだろうか、銃器をかき集めてその機構部分にプラスチック爆弾を少しずつ塗り付けて、時限爆弾の上に積み上げ、自宅に戻って、収蔵庫の双対門(デュアルゲート)を裏側から破壊したことだけは覚えている。

 あそこに武器弾薬の倉庫があったことが明らかになれば、警察も踏み込めるだろう。


 翌朝のニュースは某所の爆破事件一色になっていた。

 現場周辺の広い範囲にわたって規制線がひかれ、多くの警察官が来ていることがテレビ中継されている。

 最初の速報では、左翼的で有名な某団体の建物がテロの標的にされて爆破されたという話だったが、すぐに誤報だとして取り消された。某団体の建物が大爆発で崩壊したのは事実だったが、爆発したときに数多くの壊れた銃器が周囲に散乱し、そこが弾薬庫だったことが明らかになったからだ。某団体が、テロの標的ではなく、テロを画策していたということで大騒ぎになっていた。驚いたことに、装甲車も二台、建物の奥に隠されていたのが見つかったようだ。銃器だけなら関係ない奴がこっそり持ち込んだとの言い訳が通るかもしれないが、装甲車となるとそうはいかない。では誰の指示でということになるが、社長を含めて団体関係者三十人が姿をくらましていた。それだけでも犯人は明らかだろう。まあそれも、後になって『とかげの尻尾きり』されて死体で見つかる可能性もなくはない。


 SNSには「拳銃拾ったけど、壊れてて使えね~」といった書き込みがいくつかあった。プロなら修復可能だろうが、素人には無理だろう。

 これで、あそこに残っていた双対門(デュアルゲート)の残骸も、完全に消滅したはずだ。

 そして究理(さだみち)の部屋には、金塊数十キロ、多数の宝飾品、そしていくつかの拳銃、アサルトライフル、対物ライフル、対戦車ミサイル、その他諸々が残されたのだった。


    *    *    *


「エレノーラ様。ボマルパーダ辺境伯領の盗賊減少の調査報告が届きました」

「そう、相変わらず早いですね。情報は早いほどいいですが、下の者にあまり無理をさせてはいけませんよ」

 シリモンチェの報告は、最初にボマルパーダ辺境伯領における盗賊の捕縛数の減少の話をしてから四週間後のことだった。問題の辺境伯領まで馬車で往復するだけで二か月掛かることを考えれば、異常な早さといえる。エレノーラが部下の酷使を心配するのも当然だろう。

「無理はさせてません。彼らはエレノーラ様のために、率先してやっているので、それを抑えるのに苦労しているぐらいです」

「そうですか。献身的なのはよいですが、妄信的な者については少し考える必要がありそうですね。

 まあ、それは後の課題として、まずは報告を」

「はい。盗賊の捕縛数の減少は、盗賊の失踪によるものだということです」

「盗賊の失踪? 逃亡したということですか?」

「いえ、手配されたわけでもないのに、盗賊仲間が徐々に姿を消しているということです」

「拠点を他所に移したということでしょうか?」

「そうではありません。盗賊の拠点はそのままで、仲間に何の挨拶も無く姿を消していってるので、盗賊たちの間では、何者かに拉致されているのではないかという不安が広がっているようです」

「誰かに殺されたわけでもないのですか?」

「はい。死体が出ていません。ただ、いなくなった盗賊たちの、それぞれの縄張りのなかで、争いがあった痕跡も無いので、拉致というよりも失踪のようだということです。しかし、根城に金品を残したまま消えた者も多く、失踪と考えるのも疑問があると」

「つまり、盗賊の神隠しだと?」

「まあ、そういうことになります」

「盗賊以外に失踪した者はいないのですか?」

「ハンターが五名、同じように失踪しています。また、公表はされていませんが、貴族が二名、商人が数名、姿を消したようです。

 ただし彼らはいずれも素行が悪く、ときおり強盗まがいの行動をする者たちだったということです」

「誰かが意図的に行っているのですかね。

 その牙が罪のない者たちに向かなければいいのですが……」

「しかし、可能なのでしょうか?」

「古代魔法の召喚術を使えば可能なのかもしれませんが、難しいでしょうね。そもそも、そんな術を使える者がいません」

「エレノーラ様のご友人に召喚獣を使う者がいたと思いますが」

「あの()もいろいろと秘密を抱えてますからね。

 今度来た時に、それとなく訊いてみましょうか」


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