05 誓い
「坊ちゃま、こちらが領内でも随一の木工職人と鍛冶職人となります」
寝室でしばらく休んでいると、爺がさっそく職人たちを手配してくれた。
さすが爺だね。仕事が早い。
この者たちには、とりあえずの義手と義足。そして、今後を見据えた戦闘用の義手と義足を作ってもらう予定だ。
まぁ、戦闘用の義手と義足は時間がかかるだろうから、まずは作ってもらうのは、普段使いの義手と義足だな。
「見ての通りだ。私は手と足を失った。簡易なもので構わない。義手と義足が欲しい。今回は完成度よりも早さを優先してくれ。余計な装飾などは不要だ」
「聞いていましたね? 至急お作りしてください」
「「かしこまりました」」
その後、職人たちに脚や腕のサイズを計られて、今回の注文は終了した。
明日には試作品ができるらしい。予想以上の早さだ。まぁ、単純な注文だし、職人にかかれば簡単な仕事なのだろう。
私としては、早く戦闘用の義手と義足が欲しいが、こちらは前世での知識もフル活用するので時間がかかるかもしれないな。口頭での説明では限界があるし、絵図面なんかを私が用意した方がいいだろう。
◇
魔力回復薬をがぶ飲みしながら義手や義足の絵図面を書いて過ごす。
その日の夕方になると、父上と母上の遺体の回収を命じた者たちが戻ってきた。
遺体はひどく損傷しているので見ない方がいいと言われたが、私は父上と母上に対面した。報告通り、棺桶の中の二人の遺体はかなり傷付いていた。
「おいたわしいお姿に……」
やはり遺体と対面すると、父上と母上はもう亡くなってしまったのだと強く意識させられた。勝手に涙が溢れてきそうになる。
「アンヒール……」
呟くように唱えると、濃い紫の光の粒子が父上と母上の体を包み込んだ。
紫の霧のような光が晴れると、そこには無傷の父上と母上の姿があった。
アンヒールは死者の体を治す魔法だ。しかし、どんなに綺麗に治したところで、魂が戻ってくるわけではない。
父上と母上の体を操り人形のように操ることは可能だ。それこそ、父上や母上にもう一度抱きしめてもらうことも可能だろう。
だが、魂がなければ、傀儡と変わらない。
それに、私には父上と母上の遺体を自己満足のために利用するようなマネはできなかった。
「父上、母上……」
私は、気が付けば膝が折れ、二人の棺桶に縋るように抱き付いていた。
自分でも制御しきれないほど、後から後から涙が溢れてくる。
「なぜ、なぜこんなことに……」
本当はわかっている。なぜこんなことが起きたのか。そして、こんな卑劣なことを企てた犯人も。
「仇は取ります。必ず……!」
私は二人の遺体に復讐を誓うのだった。
◇
次の日。私は朝起きると、着替えを済ませてさっそくヴィオの部屋を訪れた。
「ヴィオお嬢様はまだお休み中です」
「わかってるよ。私はヴィオを起こしに来たんだ」
やんわりと面会を拒否するメイドを強引に突破して、私はヴィオの寝室に入った。
白とピンクが飛び交う乙女チックな寝室。その中央の天蓋付きのベッドでヴィオは横になっていた。
「ヴィオ、おはよう。朝だよ」
そう言って天蓋を開けると、そこには大人しく横になっているヴィオの姿が見える。寝相の悪いヴィオには珍しいことだ。
「まぁ、そうだよね……」
こんな言い方はしたくないが、私が魔力を注がなければ、ヴィオはただの死体だ。動くはずもない。
私はべッドの上に上がると、ヴィオの冷たい額に触れる。そして、思いっきり魔力を注ぎ始めた。
すると、すぐにパチリと目を開けるヴィオ。寝起きの悪いヴィオには珍しいね。
これからは、これが普通になるんだろうな……。
「クロ? ここは……?」
ヴィオは首を巡らせて、ここが自分の寝室だとわかるとニンマリとした笑みを浮かべた。
「どうしたの? また昔みたいに一緒に寝たいのかしら?」
「違うよ。もう起きる時間だからね。私はお寝坊なヴィオを起こしに来たんだ」
「そう、残念」
何が残念なんだろう? ヴィオは私と一緒に寝たいのかな?
「今、起きるわ。着替えるから外に出てくださる?」
「わかった」
私はベッドを降りて、あとはメイドに任せることにした。
そして、ヴィオの寝室を出ると、もう堪えきれなくなって絨毯に片膝を付く。
「坊ちゃま!?」
「爺か。魔力回復薬を取ってくれ」
「ただちに!」
爺が取り出した苦い魔力回復薬を飲みながら思う。やはり、限界まで魔力を注ぐのは辛いものがあるな。だが、これでヴィオの活動時間が決まるのだ。疎かにはできない。
なんとか立ち上がってヴィオの部屋のソファーで休む。
こういう時、女性の準備には長い時間がかかるというのは逆に助かるな。いつもは退屈で仕方がないけどね。
「お待たせいたしました、クロ」
三十分後、寝室から現れたのは、薄い紫のドレスを着たヴィオだった。
「ヴィオ、今日もかわいいね」
「うふふ。ありがとう」
私は震えそうになる足を叱咤して立ち上がり、ヴィオをエスコートするのだった。
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