38 カルラ
「たしかにワシはバルツァーレクじゃが……。この姿の時は、カルラと呼んでくれぬか?」
やっぱりこの少女はバルツァーレクらしい。でも、カルラ?
「えっと、カルラっていうのは?」
「ワシの名じゃ。カルラ・バルツァールコヴァーがワシの真名になる」
どういうことだ?
カルラって、響き的に女性の名前だよな?
「つまり、バルツァーレク、いや、カルラは女の子なの?」
「うむ。そうなる」
「そうなの!?」
今まで男の声で話してたじゃん。いきなりそんなこと言われても、すぐには呑み込めないよ。
「カルラはなぜ男のフリをしていたのかしら?」
ヴィオにとってもバルツァーレクの性別は意外だったのか、カルラに問いかける。
そうだね。たしかに、カルラは今までバルツァーレクとして男のフリをしていた。そこにはどんな理由があるのだろう?
「話せば長くなるのじゃが、ワシらドラゴンはニンゲンと同じ一夫多妻制なのじゃ。種族の恥をさらすようで恥ずかしい話じゃが、ドラゴンのオス共は節操というものがない。女と見れば、すぐに襲いかかってくるような輩もおる。そこでワシは貞操を守るために敢えて男のフリをしていたのじゃ……」
ドラゴンってもっと優雅な生態系なのかと勝手に思っていたけど、想像以上に終わっているようだ。
あと、なんだかカルラの話し方がいつも通りじゃない。こっちがカルラの素なのかな?
「それは大変ね……」
「うむ……」
女同士通じ合うものがあったのか、ヴィオとカルラがしょんぼりと俯いていた。
「故に、ワシが女だということは誰にも秘密じゃぞ? これ以上面倒な奴に絡まれても敵わん」
「わかったわ! 絶対に言わない」
「私も誰にも言わないよ。それで、どうしてカルラは人間の姿になったの?」
カルラが秘密を打ち明けてくれたことは、なんだか信頼されているみたいで嬉しい。でも、なぜ今なのだろう?
「決まっておろう? お前たちを守ってやるためよ。見る限り、ここは未発掘の遺跡じゃぞ? 何があってもおかしくはないぞ。そんな所にお前たちだけ行かせられるわけなかろうが」
「カルラ……」
カルラは父上だけに懐いている。私に力を貸してくれるのは約束があるからだと思っていたけど、私たちを心配して自らの秘密を明かし、守ろうと思えるほどカルラに大事にされているようだ。
「ありがとう、カルラ」
「ありがとね」
「にゃー」
「ふんっ」
照れているのか、カルラは腕を組んでそっぽ向いていた。その白磁のような頬がちょっと赤い気がする。
「まあワシのことはよいのじゃ。この遺跡を探索するのならば、早う済ませるぞ」
「ああ、でもちょっと待ってくれ。ダンジョンの中は真っ暗だろうし、松明とか用意しないと……」
「そんな物はワシがおれば必要ない!」
そう言ってカルラが手をかざすと、そこには黒く燃える火の玉ができあがった。
「明かりなぞこれでよかろう? ニンゲンは闇を見通す目を持たぬのだったな。まったく、難儀なものじゃの」
あの闇を凝縮したような黒い炎は本当に明かりになるんだろうか?
そんなこんなでカルラに急かされる形で私たちはダンジョンの中に入る。
ダンジョンは錆びた金属の通路になっており、歩くたびにザリザリと音を立てた。
そんな通路をシャルを先頭にヴィオ、私、カルラの順番で探索していく。
ちなみに、カルラの闇の炎は問題なく辺りを照らしていた。
私は前世のゲームの記憶を思い出し、マッピングしながらダンジョンを進んでいく。
「にゃーお!」
二分ほど進んだ時だろうか、シャルが警戒したような鳴き声をあげて、最初のモンスターと遭遇した。
ぷよぷよの茶色い錆の浮いたゼリーのような体。それが意志を持っているようにのそのそと動いている。スライムだ。スライムが二体いる。
「ふむ、スライムか……」
「ヴィオは右のを頼む。私は左――――」
さあ、これから戦闘だというところで、スライムが黒い炎によって一瞬で蒸発した。
「えー……」
「強過ぎたか? 加減が難しいのう。ん? どうした?」
後ろを振り向くと、カルラがコテンと首をかしげて私たちを見ていた。見た目が美少女のカルラがやると絵になるなぁ……。
「いやいやカルラ。今、私たちが戦おうと――――」
「うむ。先に片付けておいたわ。モンスターはワシに任せよ。お前たちは何の心配なく遺跡を探索するといい」
その邪気のない笑顔で言われると、困ってしまうなぁ。
たぶん、カルラなりの優しさなんだろうけど、今は必要ないんだ。
「カルラ、私たちはちゃんと戦う術を持っている。戦闘は私たちに任せてくれないか? 経験を積みたいんだ」
「ふむ。じゃが、怪我をしたらことじゃぞ? ワシは回復魔法は使えんからなぁ……」
「ちゃんとポーションも持ってきたから大丈夫だよ。とにかく、戦闘は私たちに任せてくれ」
「ふむ……。わかった……」
おそらく、カルラが倒してしまっても私たちにも経験値が入りレベルアップはできるだろう。
しかし、そんなパワーレベリングに頼りきりでは、いざという時に動けなくなってしまう。
ちゃんと自分たちでモンスターを倒して、経験を積まないとね。
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