37 変身
昼食を終えた私たちは、バルツァーレクに乗ってダンジョン探しを再開した。
しかし、その日は結局ダンジョンは見つからず、屋敷へと撤退した。
そんな日々が十日も続いた。いい加減にダンジョンを諦めようかと悩み始めた頃になって、ようやく私たちは山間にダンジョンを見つけることに成功したのだった。
「ここがダンジョンなの? なんだか壊れた機械のお腹の中みたいね」
「そうだね」
ヴィオが錆びついた金属の入り口を見てそんなことを言った。
ヴィオの言葉は意外と的を射ている。実はこのダンジョンは、先史文明の壊れた飛空艇が遺跡になったものなのだ。
『うーむ……』
「どうしたの、バルツァーレク?
『いや……。うーむ……』
なんだか先ほどからバルツァーレクが悩んでいるような唸り声をあげている。どうしたんだろう? お腹痛いのかな? さっき食べたタイラントボアでも当たったのだろうか?
『クロヴィスよ、本当に行くのか?』
「行くよ。そのために探してたんだから」
『それはそうだが……。お前の立場ならば、誰か人を派遣することもできるだろう? なぜそうしない?』
「場所を正確に伝えられないからね。私たちはバルツァーレクのおかげで空を飛んでこれたけど、普通の冒険者にはそんなことは無理だよ」
それに、冒険者が隠されたエリクサーを見つけられるとは限らないし、仮に見つけたとしても素直に私に売ってくれるかもわからない。バルバストル辺境伯家は鉱山のおかげで裕福ではあるけど、それ以上に裕福な貴族というのもいるのだ。
『うーむ……』
なんだかバルツァーレクの歯切れが悪い気がする。
「さっきからどうしたんだ?」
『……我は心配なのだ。クロヴィスよ、お前はアルフレッドの忘れ形見だ。こんなつまらぬところで失うのは惜しい……』
「大丈夫だよ。無理そうならすぐに帰ってくるさ」
まぁ、私は前世の知識でこのダンジョンの難易度はそう高くないことを知っている。おそらく、まだ低レベルの私とヴィオでも攻略できるだろう。
だが、そんなことはバルツァーレクにはわからない。バルツァーレクから見たら、未知のダンジョンに挑む無謀な子どもに見えても仕方がないのだろう。
『うーむ……』
バルツァーレクが空を見上げて唸る。
そして、意を決したように私を見た。
『……これから起こることは他言無用だ。約束できるか?』
「え? 何をするつもりなの?」
『いいから誓え。これから起こることを決して他言しないと』
「わ、わかったよ……。ヴィオもそれでいい?」
「いいわよ」
『ゆめゆめその誓いを忘れぬことだ』
「ッ!?」
その言葉と共に、バルツァーレクが黒い煙に包まれた。煙は渦を巻き、一瞬にして黒い竜巻となる。
「な、何が!?」
「どうなってるのよ!?」
もう何がどうなってるのかわからない。私にできたのは、シャルが飛ばされないように抱きかかえることだけだった。
竜巻が発生して十秒ほどだろうか、今度は突如として竜巻が消え去る。まるでそんなものは最初からなかったと言わんばかりに上空には青空が広がっていた。
「ふむ。こんなところか……」
「え?」
聞いたことのない女性の声。声の方を向けば、バルツァーレクがいた所、竜巻の発生した中心部分に人影があった。
まるで深淵を切り取ったかのような漆黒の長い髪の毛。その下には白磁のような華奢な裸体が――――!?
「見ちゃダメ!」
「あぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
突然、目頭に走る鋭い痛み。とても目を開けていることができなくて、私は右目を押さえながら後方に倒れ込んだ。その際、わりと強めに頭をぶつけたけど、そんなの気にならないくらい目が痛かった。
いったい何が起きたのかわからない。でも、とにかく目が痛い。
「ごめんね、クロ。でも、クロは見ちゃダメなの」
「え? え?」
ヴィオ? ヴィオがやったの!?
「我は見られてもかまわぬが?」
「ダメよ! 誰だかわからないけど、早く服を着てちょうだい!」
「ふむ。いいだろう」
何がどうなってるんだよ……。
◇
「それで? キミはバルツァーレクなのか?」
ようやく目の痛みが引いた頃。目を開けると、私の前には黒髪の少女がいた。私よりも少し上の十五歳くらいの少女だ。なぜだか場違いにも黒いドレスを着ている。
バルツァーレクが消えて、この少女が現れた。状況から見て、この少女がバルツァーレクということになるのだけど……。私は確証を持てずにいた。
だって、バルツァーレクは男だったはずだ。今まで何度もバルツァーレクと話したことがあるけど、その声は威厳のある男のものだった。
ドラゴンが人に化けるのは、おとぎ話でもよくあることだ。バルツァーレクが人間の姿になったことには驚きはあってもそこまで意外な感じはしなかった。
でも、なんでわざわざ少女になるんだろう?
バルツァーレクの趣味だろうか?
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