03 ヴィオとお話
「失礼するよ、ヴィオ。大切なお話があるんだ」
お風呂を終えて、新しい服に着替えた私は、さっそく屋敷に用意されたヴィオの部屋を訪れていた。
私とヴィオの婚約は生まれた時から決まっていたから、ヴィオの部屋もバルバストルの屋敷に用意されているのだ。
反対に、ヴィオの実家であるユニヴィルの屋敷にも私の部屋が用意されている。バルバストル辺境伯家とユニヴィル伯爵家は貴族としては異例なほど仲が良く、家族ぐるみの付き合いがある。
だから、バルバストルの旅行にヴィオが参加することになったのだが……。最悪な事態になってしまったな……。
「どういたしましたの、クロ?」
先にお風呂に入って着替えていたヴィオは、メイドたちにジュースを用意されて、優雅にソファーでくつろいでいた。
爺に付き添われて、松葉杖を突きながら移動する私を見て、ヴィオは痛ましそうな、今にも泣き出してしまいそうな顔をする。
「やっぱり痛みますの?」
「いや、大丈夫だよ。不便ではあるけど痛みはない」
なんだか死んでしまった本人であるヴィオに怪我を心配されるのは変な感じがするな。
「早く生えてくるといいのですけど……。どれくらいで生えてくるのかしら?」
「生える?」
「クロの手や足です」
「それは……」
そうか。ヴィオはいつか私の手や足が生えてくると考えているのか。もしかしたら、自分もいつか生き返れると思っているのかもしれない。
そう考えるとなんだか否定するのもためらわれるな……。
「そうだね。生えてくるといいね……」
「…………」
私の言葉に、その部屋にいた爺やメイドたちが痛ましいものから顔を逸らすように顔を伏せる。
本当はヴィオの勘違いをすぐにでも正してあげるべきなのかもしれない。でも、それは彼女の希望を潰すことだとしたら?
私にはその決心ができなかった。
「……爺に手配してもらって、早馬をユニヴィル領に走らせた。おそらく、近いうちにはユニヴィル伯爵がいらっしゃるだろう」
「お父様に?」
「大変なことになったからね。ヴィオの御父上にもご報告しないとね……」
ユニヴィル伯爵夫妻は息子ばかり続いたからか、娘であるヴィオを特別にかわいがっていた。
そんなヴィオの死。私はどうやって彼らに償えばよいのだろう。
「そうね……」
私の父上と母上が亡くなったことを思い出したのか、ヴィオの顔が暗くなった。
「ねえ、クロのお父様とお母様もわたくしのように動けるようにならないの?」
「それは無理なんだ……」
私が現世に留めることができる魂の重さのコストが決まっている。そして、その枠はもうヴィオで限界近くまで埋まっているのだ。これはおそらくだが、人間の魂というのはコストが重いのだと思う。とても人間二人の魂を反魂できない。
ギフトが成長すれば、反魂できるコストを増やすことができるのだろうか?
前世の記憶を探ってみてもそれはわからなかった。
肝心なところで使えないな。
「そう……。わたくしはユニヴィルのお屋敷に帰るの?」
「それなんだが……。ユニヴィル伯爵とのお話の結果次第だけど、ヴィオは帰れない可能性がある」
「えっ!? 帰らなくてもいいのですか!? それって……ッ!?」
「うん?」
なんだかヴィオがそわそわしている気がする。さっきから乱れていない前髪を頻繁に直しているし、キラキラ輝く銀髪をくるくると指で遊ばせていた。
「それって、ついにってことかしら……?」
ヴィオは何のことを言ってるんだろう?
「ヴィオは私から離れると魔力が供給できなくて動けなくなってしまうんだよ。だから、ユニヴィル伯爵にお願いして、この屋敷で引き取ろうと思う」
「……そういうことですのね……」
なぜかヴィオががっくりした様子をみせた。なんで?
「実家に帰れないかもしれないんだよ? 両親や兄上たちに会えなくなっちゃうけど、ヴィオはそれでもいいの?」
「え? いいわよ。近々そうなる予定だったし」
「え……?」
そんな予定はなかったと思うんだけど……? 私が知らないだけで、父上とユニヴィル伯爵が取り決めでもしたんだろうか?
「あら? なんだか急に眠たくなってきましたわ……」
急激な眠気なのか、ヴィオそれだけ言うとソファーに深くもたれかかった。
その姿を見て、私はまるで心臓をキリキリと搾り上げられるような痛みに襲われる。
魔力切れだ。
私が注いだ魔力が切れて、ヴィオは動けなくなってしまったのだ。
どんなに生きてる人間のように振る舞えても、ヴィオは私の魔力がなければただの死体に戻ってしまう。
その事実が、私にはとても痛く苦しく感じた。
「ヴィオ」
私は急いでヴィオに駆け寄ると、そのおでこに触れる。そして、振り絞るようにして自分の魔力をヴィオに注ぎ込んだ。
「あれ? クロ? わたくし……? 寝ちゃってた?」
「……少しだけね。今度から眠たくなったら遠慮なく私に言ってくれ」
「そう? じゃあ、そうするわね」
「ああ」
私は魔力を失ってフラつきそうになる体をなんとか耐えて、気力を総動員して笑顔を作るのだった。
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