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02 バルツァーレクとの約束

「お帰りなさいませ、坊ちゃま、ヴィオレットお嬢様。この度のことはなんと言葉にすればいいのか……」


 一緒に旅行に行くはずだった配下の者たちに両親の遺体の回収を命じ、私とヴィオは一度屋敷に帰ってきていた。


 本当なら、私も両親の捜索に加わるべきだろう。だが、今は少々立て込んでいる。


「爺、まずは風呂と着替えの用意を。そして、大至急義足を作りたい。職人を手配してくれ」

「かしこまりました」


 言葉を詰まらせた爺に命じると、私はヴィオに向き直った。ヴィオは相変わらず恥ずかしそうにお腹を手で隠している。


「まずはお風呂に入ろう。お互い血や埃で汚れているからね。それから着替えだ」

「……一緒に入るつもりなの?」

「そんなことしないよ」


 なんだかヴィオからの男としての信用が著しく下がっている気がするのは気のせいかな?


「ヴィオから入るといいよ。私は先にやることがある」

「そう? ありがとう」

「ヴィオをお風呂に案内してくれ」


 適当にメイドに言いつけると、私は松葉杖を突いて庭へと歩いていく。


 大きな庭を突っ切ると、見えてくるのは大きな両開きのドアが付いた建物だ。


「坊ちゃま、そこは旦那様がいなければ危険です」

「大丈夫だ、開けてくれ」


 苦言を呈する爺を押し切って、私は魔獣屋敷の大きな扉を開かせる。


 途端に漂ってくるのは、濃い鉄の臭いだ。私はこれがこびり付いた血の臭いであることを知っている。


『ふむ。アルフレッドの息子か。今日は旅行に行くのではなかったか?』


 大きなドアを開いた途端に聞こえてきた脳内に直接響く若い男の声。バルツァーレクの念話だな。


『よく見れば傷付いているな。そなたが傷を負うとはどういうことだ?』

「バルツァーレク、今日は貴殿に伝えなければならないことがある」

『ふむ。聞こう』


 その瞬間、光の入らない屋敷の中で闇が蠢いたのを感じた。その中に、まるでよく磨かれた黒曜石のような丸が見えた。バルツァーレクの瞳だろう。その瞳がどんどん近づいてくる。


 闇の中から姿を現したのは、巨大なワニのような黒い鱗の頭だった。


 これこそが闇竜バルツァーレク。父上が契約していたドラゴンだ。父上は【テイマー】のギフトを持っていたのだ。そして、若い頃に冒険して、バルツァーレクと契約を交わしたらしい。


「バルツァーレク、心して聞いてくれ。父上は死んだ」


 バルツァーレクの瞳が細められる。


『……そうか。人の命など短いとは知っていたが、早すぎる。何があった?』

「馬車での旅だった。突然、馬車が暴走して谷に落ちたんだ。即死だった」

『……そうか。我に乗って行けばいいものを……』


 バルツァーレクの瞳が閉じられ、悲しみに感情が伝わってきた。父上とバルツァーレクは、お互いが強い絆で結ばれていたのがわかった。


 私はその絆を信じて賭けに出ることにした。


「バルツァーレク、もし、父上が事故ではなく殺されたのだとしたら、どうする?」


 その瞬間、カッとバルツァーレクの瞳が開かれる。


 そして、ドスンッと硬質な重量物がぶつかるような音が響いた。


 音源を見れば、硬い石材であるはずの床がヒビ割れて陥没していた。バルツァーレクが殴ったのだ。


『……アルフレッドの今までの友誼に免じて忠告をしよう、アルフレッドの子よ。我が竜眼は嘘を看破する。嘘であった場合、いくらアルフレッドの子であろうとも無事では済まぬと知れ』


 そんな設定聞いてないぞ!?


 だが、それなら――――。


 正直に言おう。怖い。だが、ここで負けるわけにはいかない!


「本当だ。証拠もある」


 私はそれを知っている。


『……嘘では、ないようだな。誰が我が友を殺した?』

「それを知る機会を作ろう。その代わり、私に力を貸してくれ!」


 乗ってくるか? 頼む、乗ってきてくれ! この先に待つ絶望を切り払うために、私にはバルツァーレクの力が必要なんだ!



 ◇



「あぁー……」


 大理石を利用した豪華な浴室に私の声が反響する。右足を膝下二十センチの所から失ってしまったから松葉杖を使ったのだが、普段使わない筋肉を使ったのだろう。体のあちこちの筋肉が硬くなっていた。


 その硬くなった筋肉が、お湯の力で解れていく。それがなんとも心地がいい。


「しかし、前世の記憶か……。あやふやな部分もあるが、なかなか使えるな」


 おかげでバルツァーレクの協力を取り付けることができた。絶望の回避に一歩前進だ。


 前世のゲームでは、私の傍にバルツァーレクの姿は無かった。このままいけば、ゲームとは違う未来も手に掴めるはずだ。


「やってやるぞ……!」


 両手を顔の前で握ってみせたつもりが、残された右目に映るのは肘から二十センチほどを残して失われた左手だった。


「まったく……」


 不便な体になってしまったな。


 手足を失った喪失感は確かにある。しかし、それよりも両親を一度に失ってしまったショックの方が大きくて、まだ実感できない。


「次はユニヴィル伯爵との面会も取り付けなくては……」


 ヴィオの両親にはなんて伝えたらいいんだ……。

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