19 コランティーヌ夫人のお話
お茶会をこなした次の日は屋敷での休息日にした。
私としては一気にいろいろなことがあったので休憩したかったのだけど、ヴィオは元気いっぱいだったな。
私の魔力が少ないから、ヴィオの一日の活動時間は十時間ほどだ。たっぷり体を休めているからなのか、それとも疲れというものを感じないのか、ヴィオはいつでも元気一杯である。
一度、ヴィオに訊いてみたけど、本人も疲れを感じていないようだ。そして、感触などは生前と同じだが、痛みも感じないらしい。
便利な体なのかもしれない。でも私は、たとえ不便な体であろうともヴィオには生きていて欲しかった。
私の生涯の目標はヴィオを蘇らせることだ。そのための方法も考えているが、どうなるかわからない。
いや、わからないじゃない。絶対にヴィオを蘇生するんだ!
そのためならば、すべてを捨てろ! クロヴィス・バルバストル!
◇
休日はゆっくりと過ぎていった。
剣術の訓練をしたり、お茶会の復習やコランティーヌ夫人に見てもらいながらお茶会への礼状の返事を書いていったり……。
ヴィオはどこかつまらなそうにしていたけど、明日は王都観光するのだから許してほしいところだ。
「寝ちゃったかな?」
もう少しで夕食という時間、大広間。急に静かになったと思ったら、ヴィオがソファーにもたれかかっていた。
「クロヴィスさん」
いつものように私はヴィオに魔力を注ごうとしたら、コランティーヌ夫人に呼び止められた。
「なんでしょう?」
「クロヴィスさんには、本当に感謝しています」
「え?」
感謝というなら、私こそがコランティーヌ夫人に抱くものだと思うのだが……?
「ヴィオのことですわ」
「ヴィオの?」
ヴィオはバルバストル辺境伯家内の策謀で犠牲になってしまった。コランティーヌ夫人に恨まれるのならわかるけど、感謝されるのはちょっとわからない。
「ヴィオが死んでしまったのはもちろん悲しいです。ですが、これがヴィオの運命だったのでしょう……。クロヴィスさん、あなたのギフトの力でもう一度ヴィオに会えて、わたくしは幸運でした。ですが……」
テーブルを挟んだ向かいの席。コランティーヌ夫人が真剣な目で私を見ていた。
「そのためにクロヴィスさんが犠牲になる必要は無いのです。だいぶ、無理をしているのでしょう?」
私のポーカーフェイスもまだまだだな。ヴィオは騙せてもコランティーヌ夫人にはお見通しだったみたいだ。
「さて、何のことだか……。私は自分がしたいからしているだけですよ」
「毎日吐くほど魔力回復薬を飲むことが、ですか?」
「なぜそれを――――」
しまった。つい認めるような発言をしてしまった。
しかし、なぜコランティーヌ夫人がそのことを知っているんだ? 夫人の前で吐いたことはないはずだが……。
「やはりそうでしたか。屋敷の皆があなたを心配していますよ。わたくしに主人の秘密を打ち明けるくらいには」
「そうでしたか……。ですが、私には責任が――――」
「そんなものはありません。あなたも事件の被害者なのですから。……辛いのでしたら、ヴィオとの契約を解除してくださってもいいのですよ?」
「ッ!?」
ヴィオをただの死体に戻せと言うのか!?
「たしかに、自身の娘が死してなお他人に使われているのはあまりいい気分ではないかもしれません。ですが――――」
「そうではないのです!」
「えっ!?」
あの淑女の見本のようなコランティーヌ夫人が声を荒げた!?
「最初にも言いましたが、わたくしはクロヴィスさんに感謝しているのです。あなたのおかげで、娘とお話しできたり、思い出も作ることができました。娘も喜んでいることでしょう。ですが、そのためにクロヴィスさんが犠牲になることはないのです。魔力欠乏症はとても辛いでしょう? そんなことはわたくしも望んでいません。娘もそうでしょう。もう楽になってもいいのですよ? 誰もあなたを恨みはしません。もう、ここで終わらせてもいいのです」
コランティーヌ夫人は、悲しそうな顔で、しかし温かな瞳で私を見ていた。
たしかに、魔力欠乏症は辛い。体が冷たくなって力が入らなくなるのは恐怖だし、体の中身がすべて出てしまうような強烈な吐き気なんてもう経験したくない。
でも、それでも私はヴィオと一緒にいたいのだ。
必ず、ヴィオを蘇らせると誓ったのだ。
こんなところで折れるわけにはいかない!
「コランティーヌ夫人、お気遣いありがとうございます。ですが、私なら大丈夫です。ヴィオは必ず蘇らせてご覧に入れましょう。もう少しだけ、私に時間を与えてはくれませんか?」
「クロヴィスさん……。わかりました。ですが、あまりご無理はなさらず……」
そう言ってコランティーヌ夫人はソファーから立ち上がると、眠ってしまったヴィオを抱き上げた。
「ヴィオには今日はこのまま眠ってもらいましょう。クロヴィスさんもたまにはお休みください」
「はい……」
コランティーヌ夫人の気遣いが、胸に沁みた。
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