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5

案内の侍女に導かれ、九郎と千代は宮廷の奥、

煌びやかな「謁見の間」へと進んでいった。


途中、襖の向こうから、怒号が聞こえる。


「……何度も言わせるな! そのような要求、飲めるものか!」


重く、怒りに満ちた響き。

誰かと、かなり激しくやり合っているらしい。


(い、今行って大丈夫なのか……?)


九郎は思わず千代に目を向けるが、

彼女は落ち着いた顔で、小さく頷いた。


やがて、先客が退出したらしく、

扉の向こうから「次、入れ」と声がかかる。


九郎と千代は、恭しく頭を下げながら謁見の間へと進んだ。


そこにいたのは、威厳をたたえた一人の男――

華月のすめらぎ


堂々たる表情で真っ直ぐ九郎を捉える。


「……ほう、お前が刻盛の後を継ぐ者か。

あの男には手を焼かされた…。

桐原に『星の菓子』だの『異国の酒』だの持ち込んでは……随分と好き勝手しおって…。

叱りつければ、呵々と笑って済ませおったわ。」


千代がビクッと反応し、冷や汗が滴る。


「…だが、不思議と憎めん奴じゃった。」


「誰もが勝鬨を上げたがる、戦乱の世。

刻盛は、人を斬ることを避け、教えに徹していた…。

あれだけの剣才を持ちながら、

戦を嫌がる男など、彼奴くらいじゃろう。」


厳しい眼差しを向けていたが、

やがて、その表情はふっと和らいだ。


「…その名に恥じぬよう、

生き抜いてみせよ、9代目、十五夜。」


千代が、控えめに微笑む。

九郎も胸を張り、深く一礼した。


「ありがたきお言葉、恐悦至極にございます。」


短いやり取りの後、代替わりの儀は無事に受理された。

九郎は正式に「桐原・逢浜領、九代目十五夜」として、

皇家に認められたのだった。


用を終え、宮廷を辞そうとしたとき――


ちょうど、別の扉から出てくる一人の青年と、九郎たちは鉢合わせた。


ぱっと目を引く、端正な顔立ち。

凛とした瞳に、揺るがぬ意志を宿している。


青年は九郎に気づくと、ふと立ち止まり、微笑んだ。


「……君も、人を想う者なのだろう。」


「…えっ?」


「私は、皆が飢えも恐れもなく、生きられる国を作りたい。」


驚きながらも、共感を覚える。


「……立派な御志ですね。」


青年が手をのばし、握手を求める。


「…”富長(ふじなが)”だ。」


「九郎です。」


まっすぐな目。

どこか、自分と似た匂いを感じて、九郎は心を開いた。


しかし――。


隣で様子を見ていた千代だけは、

青年の奥に、微かに揺れる”影”を見逃さなかった。


(……この者。志は清くとも、何かが、違う。)


やがて、青年は軽く会釈して去っていった。


九郎はその後ろ姿を、なぜか名残惜しく見送った。


だが、それは――

この国を巻き込む、大いなる波乱の幕開けであったのだ。

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