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京、華月――。
天へとそびえる楼閣、絢爛な着物に身を包む人々、
あふれる香の匂いと、打ち鳴らされる鼓の音。
九郎と千代は、港から続く長い道を歩き、ついにこの、
「宮廷の地」へと足を踏み入れたのだった。
「す……すごい、逢浜の外に、こんな場所が……!」
思わずぽかんと口を開けて驚いしまう。
道の両脇には色とりどりの市が立ち並び、
行き交う人々は宝石のような布地や、果物を手にしては歓声を上げている。
「…本当に、ここが同じ桐原なのか……」
すると、隣を歩く千代が、ふっと微笑みながらも――。
「……九郎様。遊びに来たのではございませんよ?」
ビクッ。
「あ、あぁ……!わかってる、つもり、だったんだけど……!」
そう答えながらも、きらきらと輝く瞳は、好奇心を隠しきれない。
千代は、くすりと笑った。
――まるで、子を見守る母のような、優しい眼差しで。