ナナツミ
仄かなBL注意。めんどくさい表記、足りない表現力、そのほか筆者のスキル不足により?となる小説です。暇つぶしにどうぞ。横書き、PC推奨。
自分は貪欲である、と最近気付いた俺、紫藤千歳。
きっと平凡な男子高校生である。人より少し違うのは、一人が寂しすぎるということ。
恋愛感情などなくとも、人とのスキンシップだけは誰よりも激しく、異常とも言えた。
「いい加減にしろよ、まったく…。お前といると、いつか襲われそうで怖い。」
或る日の休み時間、親友の大西光幸が、冗談めかして言った。俺は別になんとも思わなかった。光幸に後ろから抱きついているだけで落ち着いていた。
「…特定の相手を探せよな。俺じゃなく、女の子で。」
背中に右耳をくっつけて、そこから響く光幸の声を聴く。つい心地よくて、別に見境なく抱きついているわけではない、と言いそびれてしまった。
そもそも、これほどまでに俺が執着してしまう人間は光幸だけだった。光幸とは小中高と同じ学校だったけれど、繋がりが出来たのが中学一年生のとき。同じクラスになって、学級委員長になった光幸が成績良くて、頼もしくて、もう憧れの人に見えた。頻繁に甘えてたけど、光幸は嫌な顔せずにしっかりと応えてくれた。其れをよく思わなかったクラスの女子が嫌がらせをふっかけてきたけど、其れを助けてくれたのも、他でもない光幸だった。
それからというもの、自分は心から光幸を慕い、兄弟や親子のような親密な関係にまでなってしまった。
「そういえば、都市伝説なんだけどさ。“株式会社ナナツミ”ってサイト知ってるか?そこに書き込むと運がよければ、願いが叶うらしい。運がよければって漠然としてるけどな。」
ふと、光幸が投げた話題。どうして覚えてしまったのだろうか。遠まわしに、ここでもっといいやつ探せ、とでも言ってるような気がしたからか。
何時ものように光幸を連れ自宅に戻ると、インターネットを開く。光幸が言ったように、そのサイトを検索する。結果は、どれもこれも情報や口コミばかりで該当サイトまでは行き着かない。まだ其の時ではないとでも言うのか、やり方が違うとでも言うのか。
「俺がやってみるよ。いいから、千歳は着替えてて。」
こっちに興味が向いたのか、光幸が率先して調べ始めた。その作業の速さが、かっこよかった。
着替え終わっても、光幸はモニターを睨んでいた。
「光幸、できた?」
チェアの背もたれが邪魔だったけれど後ろから抱きしめる。嫌がってる素振りは見せないけど迷惑だろうなあと思っていると、ちとせーと俺を呼ぶ声がする。
「いつも思うんだけど、なんで後ろから抱きつくんだ?」
疑問だったのだろう。本当は言いたくないけれど、聞かれてしまったから答えるしかないだろう。
こんなことを言って、もう抱きつけなくなったら困るけれど。
「…光幸の理由のため。本当なら、光幸にもぎゅってして欲しい。でもそこまで望むのはいけないから、後ろからだからぎゅってしてくれないよ、っていう理由のため。」
肩越しに、光幸の顔を見る。光幸が短いため息をついた。其れは軽蔑によるため息?なんて怖くて聞けやしなかった。実際、こういう理由でもつけておかないと、どこまで求めてしまうか解らない。ただでさえ、自分はこんなに光幸に依存しているというのに。
暫く、間をおいて光幸がじゃあ、と話を切り出してきた。何かあるのか、と抱きしめてた腕を解く。チェアから立ち上がった光幸と向かい合うと、その次に、俺は光幸の匂いを感じていた。
光幸から、抱きしめてくれていたのだ。
「遠慮なく、抱きしめてやるよ。」
光幸の、何時もの冗談めいた声。其れは頭上に降りかかった。俺は、何故だか訳のわからないどきどきを感じながら、光幸の背中に腕を回す。暫くすると、そのぬくもりに安心感を覚え、言わなくても良かったことをつい、口に出してしまった。
「光幸、好きだよ…。」
聞かなかったか、若しくはたいした意味ではないと思ってくれれば良いけれど、どうやら其れは叶わなかった。光幸は俺の言葉をしっかりと聞いてしまったようで、序でにそれなりの意味と解ってしまったらしい。今更隠しようがないけれど、離れていくぬくもりに、どうしようもなかった。
光幸も自分も男である。拒絶されて当然だ。
「…千歳、俺もう帰る…じゃあなっ」
「光幸…っ!」
表情を確認することは出来なかったが、遁げてかえった光幸のあの背中を追いかけて、泣いてしまった。
それから兎に角、光幸、光幸、と呟いては独り、毛布を被って涙を零していた。わがままなんて言わなければ良かった。もっと光幸と一緒にいたい。独りは寂しすぎる。嫌われてしまったんだ、と思うと壊れてしまったかのように、涙はずっと止まらなかった。そして、なんだか寒い気もする。
気付けば、モニターのページがかわっている。先程まで、真っ白なエラーページだったのに。
今は、黒を基調としたページが表示されていた。
「…夢幻株式会社…ナナツミ…アクセス出来てる?」
そのとき蘇る、光幸の言葉。
『…そこに書き込むと運がよければ、願いが叶うらしい。』
「願い、が…。」
そのサイトの「夢幻株式会社ナナツミへようこそ!」と書かれたタイトルの下に入力フォームと、送信ボタンがあった。よく見ると、入力フォームにはうっすらと何か書き込まれている。
「“ふざけた願いは断る”…ってなにこれ。」
作成者のメッセージなのだろうか、都市伝説に出逢えた感動は吹き飛んでしまった。
どうしよう、と少し悩んでから、光幸に連絡を入れることにした。拒否されているかもしれないけれど、携帯電話を取り出してメールを打つ。いつもは感じない緊張に、指が震えた。
宛先:光幸
件名:アクセスできてる
本文:お願いを書き込むから。
今までごめんね。
千歳
「取り敢えず送信…っと。」
ふぅ、とため息をつく。送信ボタンを押すのに、五分くらい悩んだ気がする。再び、モニターを見つめると、作成者のメッセージと思しき言葉が変わっていたことに気付いた。
「“自力で何とかなる願いは自力で掴み取るべき”…。すごいなあ、これ。」
最近はここまで進歩しているのか。などと感心している場合ではない。お願い事を書き込みたいんだった。けれど、どのように書き込もう…。自力で何とかならないことを書き込んだほうが良いよね。
意を決して、キーボードに指を置く。かたかと響く音は、そう長くかからなかったような気がする。
“俺の全てを理解してくれる人にずっと依存していたい”
光幸絡みは取り敢えず置いておくとすると、先ずはこれくらいだろう、とマウスカーソルを送信ボタンの上においた。その時、携帯電話に反応があったから開くと光幸からの返信メールだった。そのメールを急いで開く。それにはこう書かれていた。
差出人:光幸
件名:Re:アクセスできてる
本文:ごめん。
今凄く泣きそう。
明日ちゃんと話すから
そのサイト閉じて。
----END----
おぉ。思わずため息を漏らしてしまった。拒絶されていると思ってたから、返信が嬉しかった。
明日、また話せると思うと、ナナツミは後回しにしてURLをメモ帳に保存し、ページを閉じ終了した。メールの返事も書こうと、携帯電話を手に取るとまたしても光幸からメール。
差出人:光幸
件名:Re2:アクセスできてる
本文:よく分からないけど何か来た
そっち電話する。
----END----
読み終えた後、少し経ってからディスプレイに着信通知、“大西家”と表示され、携帯電話が振動を開始する。素早く通話ボタンを押すと、光幸が咳き込むような声が聞こえた。
「光、幸…?」
恐る恐る訊ねると、ゆっくりと、光幸が千歳と名を呼んだ。
『さっき、携帯に知らないアドレスからURLが送られてきた。見覚えのあるURLなんだけど…千歳、…ナナツミのサイトのURL分かるか?』
「え…、ちょ、一寸待って…分かるから。」
急いで、パソコンを立ち上げる。フォルダを開いて、ファイルに適当に突っ込んだナナツミのURLを保存した、メモ帳を開いた。
「開いた、けど…どうするの?」
『いや、確認だけ。違っていたら、試しにアクセスするから。読むぞ、えーとhtt…』
光幸が読み上げたURLは、ナナツミの其れとは少し違っていた。途中までは一致したが最後のファイル形式がmpg拡張子、光幸曰く動画ファイルらしい。そういえばそうだった。と、にやっと笑うときの光幸の声で言った。
『じゃあ、試してみる。また後で連絡するよ。』
「…光幸。なんかやだ、怖い。ごめんなさい。謝るから、止めようよ…っ」
声はするけど、届かないぬくもり。これから足を踏み入れるのは少し危険かもしれないという恐怖。たまらなくなって言ってしまうと、荒い吐息が聞こえた。
『…昔からむかしから、光幸光幸っていい加減にしろよ…!今日言っただろ?特定の相手を探せって!俺じゃない誰かに、抱きしめてもらえばいいだろうが!本当に、うっとおしいんだ!』
「…嘘…。」
二人が喧嘩してしまっても、滅多に聴くことのない光幸の怒りに満ちた声音。通話相手は短く息を飲むと、直ぐに通話を断ってしまった。其の時俺は、泣きはしなかった。ただ酷い寒気と目眩に立っていられなかった。そのまままるで操られたかのように、ナナツミのURLからそのサイトを開く。簡単に接続可能となり、先ほどの手順どおり入力フォームに願いを書き込む。
はっきりとは覚えていないが、作成者のメッセージは
『願い事は決まったか?お前は運が良い』
だったような気がする。
“光幸と一緒にいたい。光幸じゃなきゃいやだ。”
「だって、大好きなんだもん…!」
口に出したときに、確かに流れた其れはぬるく、俺の頬を濡らした。
送信ボタンを押した記憶はあるけれど、それからどうなったのか分からない。
気付くと、そこは0と1の数字が無数に漂う世界。一人の男のようなものが、こちらに向かって話しかけた。
「どうだ?電子夢幻想世界の居心地は。」
俺の身体に纏わりつく仄明るい0と1の間から、黒い神父の衣装を纏った銀色長髪の男がにこやかに迫ってくる。自分自身の身体は何故か自由に動かすことが出来ず、震えているような感覚だけはあった。
「ここは、お前の好きな大西光幸の携帯電話の中だ。まあ分かると思うが、お前の願いは受諾された。この私、マモンによってな。ヤツが、私が送ったあのmpgファイルを再生するたびに、逢えるようになっている。…嬉しいだろう?」
さて、とマモンという男は上を見あげた。つられるように意識を上に向けると身体は動くことが出来た。
「そろそろ、其の時だ。」
マモンの声がフェードアウトしたかと思うと、辺りは何かから開放されたように明るくなる。その頭上には、確かに果てしなく大きく光幸の顔があった。
「…光幸…っ!俺だ…、千歳だよ…!俺…どうしても、みツ幸といたくて…っ、ナナツミに書き込んだんだ!忘れたくなかった…!今までいた時のこと…!」
『ありがとうずっとずっと…。本当に信じられるのはmいつyuキだけだよ…。』
(あの時から、mItうユkイのことが大好きだった。嫌いにならないで。お願い。)
思想全てが、流れ込んだ。それなのに、もういつの間にかノイズがかかったようで“光幸”と発音することが出来なかった。全て言ってしまうと、虚無感が残る。なんだかもう、涙すら流せない。光幸の顔は、強張っていた。
(もう、手遅れなのかな?…また前みたいに、ぎゅって出来ないのかな?傍にいるだけで幸せだった。忘れてしまえばよかった。我慢すればよかった。ただ憧れているだけでよかった。どこから、間違ったんだろ?)
きっとこの思いも聞こえているだろう。“光幸”は言えなくなったから、諦めてしまおう。
(…高校だって、一緒に行きたかったから頑張って勉強した。教えてもらったのが貴方だったから、苦ではなかったけど。)
本当に、都市伝説だったんだね。夢から醒めたみたい。願い、叶わなかった…。
ここまで、言っただろう。届いただろうか分からない。でも、光幸の声はちゃんと聞こえてきた。
『…千歳…。分かってもらえないかもしれない。俺は…千歳の傍にいるだけでは、幸せだと思わなかった。でも、うっとおしいなんて思うのは滅多にないんだ。ただ、いつか要らないって言われる気がして。もっと良いやつが現れて、千歳はいなくなるかもしれない。そう思うと、怖かったんだ。』
光幸の声は震えていた。今にも泣きそうな声だった。そういえば、メールでそんなことを書いてた気もする。誰のために泣きそうなのか、期待してしまいそう。
『いま、千歳の家に来てる。千歳のお母さんに、いなくなったって連絡来たから。さっき、あんな酷いこと言ったけど、本心なんかじゃない。俺も千歳が好きだから。ごめんな…っ』
ただ純粋に、嬉しい気持ちがこみ上げてきた。光幸に逢いたい。ふと、胸のうちからこぼれる願望が、また音となって具現化する。ノイズは、いつの間にかなくなっていた。
「光幸に逢いたいよ…!本物の光幸に触れたい、抱きつきたい…!」
近い気がするのにとても遠い、ここではいや。すると、光幸が『俺も逢いたい』って言ってくれた。
『俺も、ナナツミに書き込む。もし失敗してそっちに飛んでしまっても、千歳と一緒なら平気だ。』
そこから暫くして、暗転した。また先ほどの、マモンがいた。マモンは0と1を指で弄び、視線だけ俺に向けた。少し、怒っている気もする。
「…欲に溺れてしまうと、身を滅ぼす。以下、その状態を果という。
その欲の発端、根源を因とする。
【夢幻株式会社ナナツミ】以下ナナツミとする。
ナナツミはその果の者で構成されており、因に毒された故に因に介入できる。
また、「願い」とはその因と同等の意味を持ち、7種類に区別できる。
そしてナナツミはその因の増殖を防ぐため、【因果の者】を7名代表として
固定されている…。」
突然、マニュアルを読み出したかのように、マモンが口を開いた。いきなり言われても分からない。
「……平たく言うと…人間はナナツミ予備軍。身を滅ぼした者は、ナナツミに就職できる。といっても、歪んだ性格を矯正するためにナナツミ予備軍に自分の罪を…因を引き受けてもらうんだ。そう、願いを叶えるその代わりに。因は増える一方だから、先ず罪の内容も垣間見せて、理解してもらう。便宜上、願いと一緒にしておけば私の罪も、叶える行為で相殺されるというだけだが。…そんな訳で、今日君たちのお陰で私の罪が減った。この0と1はその因であり、証でもある。願いは叶う。私の因、引き受けてもらえないだろうか。」
やはり少し雰囲気が和らいだというか、変わってはいる。未だに意味が解らないが、その0と1を受け取った。君たち二人分です、とマモンが付け加えた。ありがとうと笑いかけたと思ったらマモンは消えて、光幸が俺の名を呼ぶ声がする。
「光幸…。」
独り言のように応えると、いつの間にかあたたかい腕の中で俺はいた。
「良かった…。ごめん、ごめん!千歳…!」
強く強く抱きしめる光幸の腕に、紛れもない“1”と、自分の腕には“0”が痣のように浮かび上がっていた。
俺は、光幸の腕の中で、先程は流せなかった涙を流して光幸を確かめる。其れは明らかに俺の知っている光幸で、初めて知る光幸だった。
「…お帰り、千歳。」
にっこり笑った光幸はそういうと、それからは何も聞かなかった。
男は真摯な顔で、薄暗い或る部屋へと入る。部屋には巨大なモニターが中央に設置されており、その周りにスピーカーにチェア、そしてコードが蔓延っていた。
男、“マモン”と呼ばれるその者が、チェアに腰掛けると、モニターに電源が入った。イヤフォンマイクを装備した青年が、微笑んでいた。
『お疲れ様です、コードネーム“マモン”。初めての職務はどうでした?まあ、次は今のところ暇になりますので、ゆっくりお休みください。』
「ボス。今誰がお仕事中で?」
ボスと呼ばれた青年は、モニター越しにマモンがはいってきたドアに目をやる。
『先程任務へ行ったのは、“サタン”です。ちょっと任務内容に文句言ってましたが。』
ふふふ、と困ったように笑う青年は、さて、と手元の書類に目を通す。マモンはゆるりと腰を上げ、ああ、と言う顔になる。
「あの女か、ボスも手を焼くでしょう?それじゃ、私は帰ります。」
青年は、柔らかく口を開いた。マモンは、ドアノブに手を掛けたまま少し立ち止まった。
『手を焼くのは、誰でも同じです。マモン、お気をつけて。』
マモンは呆れたように苦笑すると、「イエス、ボス」とだけ呟いてドアを開け、男は部屋を後にした。
初めまして。読んでいただきありがとうございます。楽しんでいただけたでしょうか。まだまだ未熟者ですが、これから精進していきますので、恐れ入りますがご指導ご鞭撻のほど宜しくお願いします。感想などいただけたら幸いです。