2話 空白欄の意味
自分のキャラメイクを終えて、いざゲームスタートしたが暗転に閉ざされてしまった。
目を開くと砂埃が舞う広場に立っていた。私は辺りを見渡す。ローマの中心地に建っているコロッセオを彷彿とさせている直径50メートル位の楕円形のコロシアム。
「なんで……闘技場?」
後方からこちらへ向かってくる気配がした。
振り向くと2メートルもある身長を誇っており歴戦の剣闘士ですかって位に身体の至る所に傷が付いている筋肉隆々で隻眼の男。
右肩にのっている大剣は男と同じ身長もある大きさ。
「お前が……ナナシか。しかも女とは」
ナナシ? 私の名前は【リリー】だけどな……
しかし中々の野太い声。キャラメイクしていた部屋で聞こえた女性の声とは違いリアルにもいそうな声。一瞬ここが現実世界かと勘違いてしまった。
(今のゲームって……ここまで進化してるんだ)
自分がもう少し早くゲームをやれていてば良かったの後悔とこれからが楽しみって感情が混在してしまう。
「俺はバック。この闘技場でお前のようなナナシの奴らに生き抜く術を教える」
「早速で悪いんですけど、そのナナシって何ですか?」
「うん? ここに来たばかりのやつか」
バックが言うにはこの世界の住人には何かしら職を持っている。私のような職業欄が空白になっている人をこの世界ではナナシって表現されるとか。この闘技場で戦闘経験を積んでから外へってことらしい。
なるほどね……まぁ、職業欄を空白にしたのには訳があるんだけど。まさか、空欄にしたことで強制的に闘技場スタートでマッチョとマンツーマンになるとなんて……
ゲームを始める前に職業だけ調べていた。初期で選べる職業は7つ。【戦士】【僧侶】【魔法使い】【武闘家】【盗賊】【旅芸人】そして【 】
【戦士】は防御力が高く、HPと攻撃力が成長で伸びていく職業。
武器は刀剣プラス盾(片手剣・両手剣・双剣など)
【僧侶】は【魔法使い】より回復魔法が回復できる量が高い。補助魔法も持っている。
武器は長柄武器(棍棒・槍など)
【魔法使い】は【僧侶】より回復魔法を持っていないが代わりに攻撃魔法が多い。補助魔法も習得可能。ただHPと防御力が低いのが難点。
武器は打撃武器(杖・ムチなど)
【武闘家】は初期職業の中で俊敏さが一番。攻撃力も高くなっているが魔法を覚えれない。
武器は格闘武器
【盗賊】は敵からアイテムを盗める。【武闘家】よりは俊敏さがないが回復魔法も覚えられる。
武器は投擲武器プラス短剣
【旅芸人】器用貧乏。
武器は刀剣プラス射撃武器(片手剣・弓矢など)
そして
初期のキャラメイク時に職業欄を空白にするとなれる職業。通称:無職
【無職】に設定すると全ステータスが『1』で武器もない状態からスタート。
レベルアップ時のステータスの振り分けポイントが全て『1』
仮に1から5に上がっても『5』しかステータスポイントが貰えない。
HPやMPといったものは他のプレイヤーと同じように上昇する。
しかし、【無職】は全ての職業の武器・全魔法を一部を除いて扱える職業。
初期職業だけではなくこれから増えていく職業の武器なんかも扱えれる。
戦闘の幅を増やすためと暇つぶしでも色んな武器を使いたい欲が高かったため迷わず【無職】を選択した。
バックと私の間に地面が割れ、下から長テーブルが出現しテーブルの上に多種多様な武器が並べられている。
剣、刀、双剣、槍、ロッド、杖、弓矢、ナックル、盾、籠手
「好きなのを選べ。すぐに修行を始める」
じゃあ、まずは王道な剣。鉄でできた粗悪な片手剣。名前は【粗鉄の剣】。
持ってみて初めて感じたけど実際に自分が持っている感が強い。上から下へ振り下ろしたり野球のバッターのようにバッティングをしてみたり動作確認を行う。
反対側に設置されている木でできた柵が上がり闘技場の広場から3匹のウサギが出てきた。
1歩1歩歩くのではなくジャンプしながらこちらへ向かってくる四足歩行のウサギ。ウサギの額には角?が1本生えている。
「まず初めはそいつらを全て倒してみろ」
横一列に並んでいた真ん中のウサギは角を突き出し突進してくる。両サイドのウサギは円を描くように移動し私に向かってくる。
突進してきたウサギAが斜め前に跳ぶ。角で刺そうと私に標準を合わせ落下してくるウサギに対して【粗鉄の剣】を角に接触させながら距離を詰め移動し私の目線で横向きになっているウサギを斜めに切り下げた。
【粗鉄の剣】で切られたウサギは頭部と胴体に分離して地面に落ちる。息絶えたモンスターが落ちたと同時にポリゴン状に分解し、消滅していく。
このゲームは倒したモンスターが消滅するとその場にドロップアイテムが落ちるみたい。
修行相手でも敵モンスターだったため私の足元に出現した。
「『ウサギのツノ』……もうちょいネーミングセンスはなかったのかな」
最序盤の雑魚敵には『モンスターの??』って簡易的なアイテム名なんだね。初めての戦利品だし一応、貰っておきますか……
私はしゃがんで拾うとすると遠回りで私に向かってきていたウサギBがきていた。
「……忘れてた」
しゃがんだ状態で横に転がり回避する。体勢を整えてたから今度は私が行動を起こす。
【粗鉄の剣】を投擲しウサギBにクリティカルヒットし消滅した。
「残り……1体!」
身内が2体もいなくなっても私に向かってくるウサギC。逃走の2文字はなくただ私を襲おうとばかりに突進してくる。
回し蹴りして私の足の甲がウサギCの顔面に直撃しあらぬ方向へ
ウサギCが怯んでいる隙にウサギBを倒した【粗鉄の剣】が地面に刺さっていたので引っこ抜く。
再びジャンプして向かってくるウサギCに対して水平に【粗鉄の剣】を放つ。
横一線に赤いダメージエフェクトが出始め、そのまま消滅した。
戦闘終了した私は奥で腕組みをしてこちらを見ているバックへ目線を向ける。
「これで良いですか……先生!」
強面全開のバックはうっすら笑みを浮かべた。
本作の主人公である光俐は親に色々叩き込まれた結果、一通りの武術や武具も扱えれる