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3.後編

 強制引っ越しをしてから早ひと月。

 ようやく愛猫も落ち着いてきたらしく、多少の物音では怯えることもなくなった。

 愛犬はというと、引っ越し翌日から周囲の探索に余念がなく、早々にいくつかの経由地を必ず通る散歩コースを定めたようだ。


「また、人が増えました?」


 基地内にある大きな食堂で、私の専属になった御影みかげさんが席に着くのを確認してから声を掛ける。


「そうなの。最初珍しかった能力者も、そこら辺にぽこぽこ生まれているみたいで、今や有能な能力者のみを勧誘しているみたいだけど、キリがないみたいね。」

「えぇ、そうなんですかっ!?」

「早急に宿泊施設の増築してるくらいだから。あっ、月海つぐみちゃんは、引っ越しとかないから安心してねっ。」

「えっ、はい。ありがとうございます。」


 様々な能力者が増えてきているなら私はお役目ご免かな~などと思っていたのが、顔にでも出ていただろうか?

 ただ、やっと愛猫が今の生活に慣れ始めてきたところなので、早々に引っ越しするのは避けたいところ。

 私自身、ちょっと居心地が良いので、それもあるのだけど。

 何と言っても、愛犬と愛猫のゲージを作成して貰えたのが大きい。

 愛猫のゲージは室内に隊員の方たちが休みを利用して、結構立派なものをDIY作ってくれたのだ。

 そして、愛犬も室内外はちょっと無理そうだけど、外に出してしまうのも離れすぎて可哀そうだな~などと思っていたら、角部屋なのを良いことに廊下の突き当たりにDIYで作ってくれたし。

 廊下挟んだ反対側は御影さんのお部屋なので、快く了承頂けたしね。


 能力の方も、私が何をするでもなく、ただこの基地内に居れば問題なく供給されるらしく、特に何か強制されるようなことは今の所なかったりする。

 一度、荷物の運搬の止めに自宅に戻った時は、日程調整やら何やらで色々手続きが面倒ではあったけれど、それ以外は外出する用事もないので私的には問題ない。


「そういえば、複数人護衛の方を連れている人が居ますけど、その方たちは、その、来たばかりの人たちなのですか?」


 今も、目の前をきゃいきゃい言いながら男性二人に女性二人の四人組が通り過ぎて行った。

 他の所でも、四~五人くらいのグループがいくつか見受けられる。

 私も最初の内は複数人付いていたけれど、その内御影さん一人に落ち着いたのだ。


「そうね。四六時中一緒に居るとなると相性も必要でしょう?それを見極めるためにああやって一人に付き複数人付くのよ。」

「あぁ、それで。女性の隊員さんは少ないと思っていましたけど、結構いらっしゃるんですね。」

「あはは。そりゃ総動員して順番に担当を変えてるからね。私は運がいい方ね。ホント、月海ちゃんで良かったわ。」

「えっ、そ、そうですか?」


 ちょっと照れてしまう。

 確かに、サバサバした性格の御影さんは一緒に居て気持ち的に楽なのだけど、御影さんがどう思っているかは別なので、ちょっと嬉しい。


「そういえば、菜園担当者から散歩に来てくれないかって依頼が入ってたわよ。」

「分かりました。お昼食べたら、お散歩良いですか?」

「えぇ、ありがとねっ!」


 この一か月の間に、愛犬までもが能力持ちだと判明していた。

 能力としては、獣使い。

 うちの周りのカラスたちがやけにお利口で家庭菜園を荒らさなかったのは、愛犬のお陰だったっぽい。

 しかも、家庭菜園を荒そうとしている鳥や動物たちを追い払っても居たようなのだ。

 すごいねっ!


 そんな訳で、今はこの基地にある菜園の周囲には常に何匹かのカラスが常駐していて守られている。

 その代わり、少しの成果物をカラスに渡して食べて貰っている関係だ。

 定期的に散歩コースと変更して菜園も通っているので、そうそう問題など起こらないと思うのだけど、何かあったのだろうか?


「おーいっ!こっちだっ!!」


 食後直ぐに菜園へと足を運んだのだけど、待てなかったのか、かなり遠い場所から大きな声を掛けられる。

 ここら辺は人通りが殆どないので、声が良く通るね。


「煩いわね。」

「何があったか聞いてますか?」

「いいえ。何かしらね?」


 御影さんは、全く興味ないらしい。

 そうと言うのも、最初は隊員さんが交代で見ていたのだけど、野菜育成に関する能力者が見つかったのでその人がメインで担当するようになったのだけど、この人、すごく面倒くさい性格をしているのだ。


「やっと来てくれましたか!昨日、緊急でってお願いしたのに、全く来ないから問い合わせようかと思っていた処なんですよ!?」

「えっと、詳細を聞いていないのですが、何があったのですか?」

「それよりですね?緊急の意味が分かってますか?とっても急いでいるという意味なんですよ。なのに、なんで何時まで経っても来ないんですか!?」


 急ぎなら要件を先に言って欲しいのだけど、一通り愚痴り終わるまで要件へ進まない。

 なんたる時間の無駄。


「あれ?カラス増えたね~。」


 愛犬の頭をナデナデしながら周囲を観察していると、やけに黒率が上昇している気がする。

 三日前に来たときは、ここまで黒率が多くなかったような気がするけれど。


「ヴォンッ!」


 半月ほど前からの付き合いになるので、いい加減、延々と続く愚痴りに付き合う気力は尽き果てている。

 最近では、いつまでも聞いていると鬱って来るので、耳に入れないように心掛けていた。


「「「「カァー!カァーーー!」」」」


 愛犬の一鳴きに続いて、大量のカラスが一斉に鳴きだす。

 その後、一匹のやけに小柄なカラスが飛んできて愛犬の頭に止まってしまった。


「ん?」

「月海ちゃん、そのカラスの足。何か付いてない?」

「えっ?あっ、本当だ。ちょっと待ってください。今取りますね。」


 中腰になって、カラスの動向を見ながらゆっくりと手を伸ばすも、嫌がるそぶりを見せないので、足に着いた小さな筒を取り外す。


「コレ、貰うね?」


 一応カラスに声を掛けるも、こちらを見るだけで特に反応を示す様子はない。

 あっ、菜園担当の愚痴り魔は、愛犬とカラスの合唱にびっくりしたのか菜園の端にある小屋に逃げ帰って行った。

 代わりに、愚痴り魔の護衛に付いている初老の男性がこちらにゆっくり歩いてきている。


「何が書いてあるの?」

「えっと、えぇっ!?」

「どうしたっ!?」

「あっ、いえ、ちょっとびっくりして。はい。どうぞ。」


 小さな筒の中に入っていた小さな紙片にざっと目を通してから、御影さんに渡す。

 内容的には多分、緊急性は低いと思うけど、相手が相手なのでちょっと私では判断できなかったのだ。


 手紙をくれたのは、ここから結構遠くにある別の自衛隊基地。

 そこにも獣使いの能力者がいるらしく、通信が遮断されている今、昔ながらの方法でやり取りが出来ないかと模索しているところらしい事が書いてあった。

 そして、もし受け取れる人が居るなら返信が欲しいともあったので、お偉いさん行きの案件かな~と思って御影さんにそのまま渡したのだ。


「お呼び立てして申し訳ありません。要件と言うのは、カラスが異常に増えていましてね。単純に怖いので『大丈夫か?』という確認だったのです。」


 私と御影さんのやり取りを気にする風もなく、来るなり呼び出しの理由を説明してくれる。

 この初老の人、別に無能という訳ではない。むしろ、かなり有能な人なんじゃないかと私は思っている。

 何人もの護衛担当の人たちが手に負えないと去って行く中、唯一続いている人なのだ。


「そうでしたか。問題はないとお伝えください。私共は別の用事がありますので、これで失礼させて頂きます。」

「お忙しい中お越し頂き、ありがとうございました。」


 常に礼儀正しいおじさまに見送られながら、菜園を後にする。

 その後は御影さんの言葉に甘えて愛犬のお散歩を終わらせてから私は自室へと戻ったのだけど、御影さんは手紙の件があるのでそのままUターンしてご報告に駆けて行きましたよ。


 その後、何人もの能力者の移動が繰り返される中、私と御影さんは変わらずのんびりと日々を過ごしている。

 愛犬共々有用な能力と問題ない人格という評価を頂き、名誉隊員という称号まで貰ってしまったけれど。

 能力に関しては完全に運によるものだとは思っているけれど、平凡な人生を歩んでいただけの私が、狂暴化した野生動物との激戦を繰り広げる世間を尻目に安全な場所で安全な暮らしが出来るとは、人生何がどう転がるか分からないものだ。

 人によっては、武力行使して戦いたいという人も多いようだけど、私は今の生活が気に入っている。


 ...愛猫までもが能力に目覚めてしまったというのは、私だけの秘密。

 鑑定もない私がそれに気づいたのは、愛猫が片言とはいえ日本語を話し始めたから。

 どうやら、相手の言語に合わせてお話が出来るようになったらしいのだ。だから、愛犬とも愛猫を挟めば問題なく意志のやり取りが可能。

 今では流暢な日本語を話せるようになりました!

 うちの子たち、なんて優秀なのっ!!








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