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2.中編

 パンっ!


 何をそんなに急いで出発したのかと思ったけれど、荷台から後ろを向いて銃を構えていた自衛隊員が発砲した!?

 聞きなれない大音量にびくっ!と体を震わせるも、威嚇を始めてしまった愛犬を宥めるという重大責任があるので、直ぐに平常心を取り戻す。


「大丈夫だよ。落ち着いてね。」


 愛犬に語り掛けているのか、自分自身に向かって自己暗示を掛けているのか分からない状態だけど、どっちも必要なので問題はない。

 その間、何度も発砲音は鳴っている。

 一体、何に向かって発砲しているのかは分からないけれど。


 トラックは何度も角を曲がり、恐らく自衛隊基地がある方へと向かっていると思われる。

 まだまだ距離があるので、定かではないけど、多分、きっと、そう。


「大丈夫ですか?パニックを起こされたらと思っていましたが、よく躾けられた良い子ですね。」


 どうやら、愛犬のことを言っているらしい。

 うん。ここまで大人しくしているとは、私も思ってなかったけどね!?

 最近、本当に言葉分かってるんじゃないかと思うくらい良い子なんだよね。

 バック内にいる愛猫は、端によって「ヴー!ヴー!」と威嚇しまくってるけどね。

 あぁ、愛猫のストレス具合が心配っ!!


「何と戦っているのですか?」


 折角話しかけて来てくれたので、質問してみる。

 荷物運びを手伝ってくれた女性も銃を手に外を警戒しているっぽい。

 交渉担当と思われる米原さんは、銃を持っていないので、恐らくそれぞれ役割があるのだろう。


「狂暴化した野生動物です。今の所、一番の脅威は熊ですね。動くものは何でも襲ってくるようですし、予想以上に足が速くて。」

「もう五月なのに、まだ熊が山から降りて来てるんですね。」


 ここは田舎も田舎。ど田舎なので、別に熊の目撃情報があろうとも、そんなに驚くことではない。

 ただ、熊に襲われるという事態に発展することも、そうそうないのだけど。

 しかし、それは春先のこと。

 暖かくなり始めて冬眠から覚めた直後の熊の話しであって、すでに山にも実りが沢山あるであろう五月は落ち着いてくる時期のはずだ。


「あー...そうですね。危ないので、動かないでくださいね。」


 曖昧に微笑んで話題を変えられてしまった。

 おかしい。

 自衛隊基地のある方はここより山よりなので、春先の熊の目撃情報なんて日常茶飯事だろうに。


「巻けたようです!」

「警戒は怠るなっ!」

「「「はいっ!!」」」


 一応、安全になったらしい。

 どうやら、一番の強面の方が、この中で一番上位にいる人のようだ。

 階級とか難しいことは分からないけれど、指示出ししてるしね。


 その後は他の騒動もなく、静かにドナドナされて、色々説明を受けつつも自衛隊基地に無事到着。

 他の方の自宅に寄ることなく真っ直ぐ返って来たけれど、良かったのだろうか?

 聞いてみると。


「熊の討伐隊が組まれるでしょうから、その後にまた回りますよ。」


 とのことだった。

 私の家に来たのが、良いタイミングだったのか、悪いタイミングだったのかは、あまり考えないことにする。

 何故なら。

 自衛隊からの説明というのが、実は電気は復旧していなかった!という衝撃の事実だったから。


 えっ?えっ!?と驚く私を余所に、説明してくれたのは、恐らくという注釈付きではあったけれど、野生動物の狂暴化と同じく、巨大彗星は人にも影響を及ぼしているのではないかという仮説からくるものだった。

 要は、復旧していたと思っていた電気は、私が発現した超能力的な何かによって発生していた電気であり、今現在、自衛隊ではそういった超能力的な何かを発現した人を集めて回っているらしいのだ。

 そういったものが発現しているのは、避難所へと向かわずに一人で自宅に籠り、自力で生活を送っていた人ほど多いらしい。

 全員ではないにしろ、時間と労力を掛けても惜しくない程には、確率が高いのだとか。


 そして、なんでそんな事が分かるのかというと、米原さん自身が人を見るとその人の持っている能力が見えるという能力持ちなのだとか。

 だから、関係ない人は避難所へと誘導することもあるらしい。


 能力持ちの人たちを集めて何をするのかというと、完全にストップしてしまった日常生活をなんとか最低限まで持ち直したいということだった。

 不思議に思って質問してみた私は悪くないだろう。


「あの、ホームセンターとかに行けば、夏野菜の種とか苗が大量に入荷していると思うのですが、育てようとは思わないのですか?」


 何故なら、冬と違って、夏場は育つ野菜の種類が多く、成長の早いものも多い。

 保存食など大量にあるだろうけど、見通しが立たない今、そういった試みも必要ではないかと思ってしまったのだ。

 塩を買って来れば、熊肉とかでも干し肉にできるだろうしね。やり方知らないけどっ!


 生活の復旧と聞いて真っ先に思い浮かぶのが食事とか、自分でもどうかと思うけど、一番大切だと思うのっ!

 そして、そんなことは私になど指摘される前から分かっていたことらしく、既に基地内の敷地では夏野菜の栽培がおこなわれているらしい。

 私のような電気を発生?させるタイプの超能力は珍しいらしく、是が非でも自衛隊基地に留まって欲しいとお願いされてしまった。


「いや、でも、うちの子とっても繊細で、集団生活とか無理だと思いますよ?来客来て騒がしくするだけで、血便とかしますから。」


 うん。最初は何かの病気かと思って、動物病院に通ったものだ。

 原因不明な割には、毎回という訳でもなく、とっても心配したものだけど、状況から見て恐らくストレスを抱えると血便となって異常を知らせているらしいことが分かったのだ。

 なので、あまり愛猫には負担を掛けたくない。

 あっ、愛犬はとっても頑丈に出来ておりますよ。


「この状況がどこまで認知されているのかはっきり分からないのですが、一応保護も兼ねております。悪いことを考える人もいるでしょうからね。」


 あぁ、そういうことね。

 誰かに使われるなら、国の機関である自衛隊の方が、恐らく人道的に見て安全なのだろう。

 よくよく条件を掘り下げて聞いてみると、隊員用の宿舎を貸し出して貰えるらしい。

 勿論、外部の人間オンリーではなく、隊員も一緒に入り混じった環境になるので、それ程問題も起こらないだろうという話しだった。


「壁の厚さは?うちの子たち、鳴きますよ?」

「そこら辺は、問題ないかと。心配であれば角部屋をご用意します。」

「ドライフード、余り持ち出せていないのですが。」

「時機を見てになりますが、もう一度自宅へ行くことも可能かと思います。」

「えっと、この子のお散歩は...。」

「敷地内でしたら問題ないですよ。そんなに心配しなくても、それ程不自由はさせません。安心してください。」

「あ、はい。」


 う”ぅ~、この子たちと外泊なんて初めてだから、ちょっと心配なだけなのだけど。


 ドナドナされること、どのくらいだろう?

 結構経ったと思うけれど、やっと自衛隊基地に着いたようだ。

 元々興味もなかったので、どういった場所かなど全く知らないのだけど、ちょっと外壁が頑丈し過ぎやしませんか??

 警備が物々しいのは、まぁ、この様な状況だし仕方ないのだろうけれど。


「まずは宿舎で荷物を置いてきましょうか。その後、上司と顔合わせをお願いしたいので、ご同行頂きたいのですが、よろしいですか?」

「はい。えっと、この子たちも一緒に、ですか?」

「あぁ、いえ、あなただけで大丈夫ですよ。」


 とてもではないが一人で持ち運べない量の荷物だったので、米原さんと女性の隊員さんとで手分けして運んでくれた。

 他の人たちは、それぞれ何処かへ散っていったようだ。


「ようこそ。この寮を管理しております宇野と申します。」

「宇野さんは、元自衛隊員で、引退した後にここの管理をしてくださっている方です。」

「あのっ、これからお世話になります。」

「えぇ、よろしくお願いしますね。」


 初老とも言えない程若々しいおじさまが、寮の前で出迎えてくれた。

 説明によると、一階は食堂やお風呂などの共有部分で、個室は二階から上になるそうだ。

 私の部屋は三階の角部屋を用意してくれたらしく、説明と鍵を渡して去って行ってしまった。


「こちらです。」


 どうやら、米原さんが場所を知っているらしく案内してくれるようだ。

 正直、隊員の寮と言っても、泊まり込むときに臨時で使用する場所とも説明があったので、狭いワンルームしかないと思っていたけれど、そうではなかったようで。


「結構広いんですね...。」

「あぁ、ここはそうですね。部屋によって造りが違いますので。」


 本当に荷物だけおいて、直ぐにご挨拶に向かう。

 迷った末に、愛猫はそのままバックの中にいて貰うことにする。

 愛犬は、悪さしないようにと言いつけてお留守番をお願いする。


 コンコンコンッ!


 寮から出て少し進んだ先にある一番大きいであろう建物をグネグネと進み、方向感覚を失った頃、やっと目的地に到着した。


「入れ。」

「失礼します。本日最後のお客様をお連れしました。」

「...あぁ。」


 一瞬返事が遅れたような気がしたけれど、執務机と思われる大きな机に座った厳つい男性は、この時ようやくこちらに視線を向けたので、何か書類仕事をしている途中だったのかもしれない。


「この森原自衛隊基地を任されている遠野だ。どうぞ、そちらに。」


 自己紹介をしつつ、応接ソファに座るように促される。

 座ってしまってから、一緒に来ている米原さんが座らないので腰を上げようとすると、そのままでと制される。

 どうやら、米原さんはずっと立っているらしい。


「こちらの女性は、綿野わたの 月海つぐみさんです。能力は、電力供給と思われます。」

「そうか。少々失礼。」


 言うが早いか、大きな体格の割に動きが非常に素早いのは、やはり鍛えているからなのか。

 パチ、パチッ!と音と共に、室内が明るくなる。


「......。」

「...いるだけで、効果があるのか。」

「そのようですね。何か意識されていますか?」

「えっ?いえ、あの...?」

「緘口令を敷け。綿野さん、人から聞かれてもご自身の能力は公言しないように。少々特殊過ぎますので。」

「えぇ、基本、発言させる時にその人の意志が必要になるのですよ。無意識でもというのは初めてです。自身の身を守るためにも、人には教えないように。こちらでもサポートします。」


 待って?

 私一人で事の重大さが分かっていないのですが、それでも大丈夫でしょうか!?


「あぁ、それから、住まいはこの建物内にお願いします。」

「えっ?」

「寮では少々機密保持が難しくなりますので。」

「えっ、あのっ。」

「同行しているペットであれば、問題ありません。ここの奥にも住居がありますので、一緒に暮らせますよ。ただ、周囲が、その、女性を一人隣室に移動させてもよろしいでしょうか?」


 米原さんの発言で、全員男性ということが把握出来ました。えーーーっ。

 あっ、置いてきた荷物、取りに行かなきゃ。


「では、護衛も兼ねさせろ。」

「はっ!直ぐに人選を行います。」


 隊員同士での話は、上司と部下と言うこともあるのか、凄く厳格な感じがして、如何にもな雰囲気だ。

 やはり、一般人である私との会話とは違うのだろう。

 というか、かなり手加減されている感じなのだろうね。








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