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王立魔法学園

 この国では王族や貴族、平民であろうと魔力を持つ者は十三才から六年間、王立魔法学園へ入学し、魔法の制御や扱い方を学ぶことになっていた。


 他国よりも学園生活が長いのは、より丁寧に魔法を学ぶ為である。そのおかげで、アルテミス国は他の国よりも魔法が発達しているのだ。


 学園では寮生活になる。


 ガーネットの魔力はあまり高いものとは言えなかったが、万が一魔力の暴走などあってはいけないので、しっかりと学ぶ様にと父に言い含められた。

 本来なら、貴族家庭で育った者は学園に入る前に家庭教師を雇い様々な教育を受ける。

 

 ガーネットもクレランス公爵家の跡継ぎになる異母弟が生まれるまでは、家庭教師に勉学、ダンス、マナーを学んでいた。しかし、公爵家の跡継ぎを生んだことでクレランス家での権力を握った継母はガーネットの家庭教師を全て解雇し、教育を受けさせるのを停止したのだった。


 継母はまだ幼いガーネットに言い放った。


「魔力の少ないあんたが教育を受けても意味がないでしょう。王宮で仕えることもできないのだし。だったらその無駄に美しい顔を生かして、高位貴族に嫁いでこのクレランス公爵家の発展に役立ちなさい」

 

 そんなガーネットとは対照的に、パールの魔力は高い。扱い方を学べば王宮の魔術師になれるほどの実力者だった。


「ねぇ、パール。お母様は心配だわ。公爵家を離れて侍女もいない寮生活なんて」

「大丈夫よ、お母様。だって私には二人の王子様が付いてるんですもん」

「そ、そうね。王族の方々と仲良くしてもらえるのは安心だけど……身の回りのことが……ね」

 

 母の心配とパールの思いは食い違っていた。日頃から、クレランス公爵家ではわがままし放題のパールは、自分の身の回りについて一切やったことがなかったのである。

 

 そんな二人のやり取りを他人事の様に眺めていたガーネットにとばっちりがくる。

「身の回り?それこそ大丈夫よ。だってお義姉様がいるし」

「え?私?」

「そう。ガーネットお義姉様に朝髪を結ってもらえばいいし、欲しい物もお義姉様に買ってきてもらえばいいんだから」


 ガーネットは完全に侍女扱いの存在だった。

 

 自室に戻り寮生活の為の荷造りを進める。大体の物はすでに王立魔法学園に送っていたので、あとは当日持っていける簡単な荷物のみだった。


「はぁ……。寮生活でもパールのお守りか……。せっかく家から離れて自由な生活が送れると思っていたのに」


 自室の飾り細工が施されたドレッサーに自分の姿を映す。

「髪……、自分の手入れしてそれからパールのをやってたら朝の授業に送れちゃうよね……」


 燃えるような深紅の長い髪を指に絡ませ考える。

「よし!」

 意を決して、侍女を呼ぶ。



*



 寮での荷解きもすっかり終わり、明日からの学園生活に準備万端のガーネットは義妹パールの様子を見に部屋を出た。

 パールの部屋はガーネットの上の階にあったが、義姉よりも上の階が良いとパールのわがままで部屋がチェンジされたのだった。


 コンコンコン

 パールの部屋を軽くノックする。

「はーい」

 愛らしい声の後、ガチャリと扉が開いた。


「あ、ガーネットお義姉様!今ちょうど呼びに行こうかと思ってたところ」

「そう、良かったわ。パール荷解きは……あまり進んでいない様ね」

「そうなのー。ガーネットお義姉様手伝ってくれるでしょ」


 進んでないどころか、服や小物、アクセサリーが散乱していた。学園生活に必要な文具類や教科書、本の類は見当たらない。恐らくまだ荷物箱に入ったままなのであろう。


「ねぇ、お義姉様!それよりもこれ見て!綺麗な花束でしょ!」

「本当に素敵ね。その花束どうしたの?」

「フフッ。実は第二王子のサファイア様からの贈り物なのー」

「え?」


 パールは嬉しさのあまり花束を持ってくるくると回る。

「サ……サファイア様……から?」

「そうよ。メッセージカードに書いてあったから間違いないわ」


 白地に薄紫色の小花と金の模様が上品に散りばめられたミニカード。


「学園で一緒に学べることを嬉しく思う。サファイア」

 サファイアの実筆で書かれていた。


「良かったわね、パール」

「ええ!サファイア様も明日から一緒に授業を受けられるんでしょ。あのお茶会から三年ぶりに会えるから楽しみ!」


 はしゃぐパールを尻目に、ガーネットはひたすら侍女の様に荷解きを進めていった。

 

 一時間ほどですっかりパールの部屋が整った。サファイアからの花の贈り物を花瓶に生けながらパールに自分の部屋が真下であることを伝えた。


 学園生活の初日。朝の準備を終え、ガーネットは真上にある義妹パールの部屋へと向かった。半分寝ぼけたパールが扉をあけると、ガーネットはパールの手を取りドレッサーの前に座らせる。


 淡いピンクの髪をクシで綺麗にとき、サイドの髪をすくい器用に編み込んでいく。両側を編み上げると、それを一つにしてハーフアップスタイルにする。

 仕上げにパールの瞳の色と同じ水色のリボンで飾る。制服が紺色の為、水色のリボンとも相性が良い。


「よしできた。さぁパール、髪型を崩さないように気を付けて制服に着替えてね」

「……」

「パール?」


どうやらまだ夢の世界にいる様子だ。

「はぁ。ねぇ、パール。今日は大事な入学式よ。それにクラス分けの発表でしょ?学園でサファイア様や他の攻略対象の方々とお会いするんじゃなくて?」

「‼︎」


 一瞬でパールの水色の瞳がぱっちりと開かれた。


「そうだ!今日は大事な入学式イベントがあるんだった!」

「お義姉様!予定通り私とサファイア様が話をしている時に、さりげなく私にぶつかってよ!」

「分かってるわ。散々メイドも含めて練習したんだもの。はぁ……」


 学園入学前に義妹パールからは、ここはジュエルラビリンスと言う世界で、自分はこの国のヒロインだと言われ続けていた。そして、なぜかガーネットが悪役令嬢となってパールをいじめなければならないと。


 その時パールに、私の知っているお義姉様は本来もっと強くたくましく、意地悪な性格をしたのだと……。


 今のガーネットでは、弱虫のへっぽこだと散々ののしられた。


 今回の入学式イベントとは、パールが三年前の王族主催のお茶会で会って以来久しぶりに第二王子であるサファイアと再会する。


 ここから本編スタートらしい。


 パールと第二王子サファイアが二人で話をしている時、嫉妬したガーネットがパールを肩で突き飛ばし転ばせ、恥をかかせるといったものだ。


 でも、危機一髪のところで王子がパールを抱き止め、二人の距離が縮まる入学式イベントになると義妹は力説していた。題して『嫉妬で突き飛ばしハグ作戦』だ。


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