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イベントの失敗


「あ、あれ?ちょっとどうなってるの?」

 パールはなぜかバラに囲まれた庭園の中の一テーブルに着席し、紅茶と可愛らしいお菓子でもてなされていた。


「さぁ、パール嬢。王宮のお菓子はとびきり美味しいですよ。たくさん食べてくださいね」

 金色の瞳の第一王子トパーズが優しくエスコートする。

「あ、ありがとうございます、トパーズ殿下」

 パールが慌てて礼を伝える。

「みんな仲良くね」

「は……はい」

 その言葉を聞いて第一王子のトパーズは満足気味に頷き、友人のペリドットとその場を後にした。


 残されたのは、パールと数人の令嬢。彼女達は先程の騒動の中、パールに嫌味を言っていた令嬢ばかりだった。


 え?これ何なの?嫌がらせ?あの王子ったらこんな状況の中私一人置いてどっか行く?しかも仲良くねって、できるわけないじゃん!


 パールは自分以外の令嬢の様子を伺う。

 するとその中の一人がパールに話かけてきた。


「私はモントーレ侯爵家の次女、エメラルド・モントーレです。あなた、トパーズ殿下に対してちょっと馴れ馴れしすぎでなくて?」

 エメラルドはその口調とは違い、艶やかなグリーンの髪にきめ細かい陶器の様な肌。バラ色の厚めの唇に灰色の大き目な瞳を持つ美少女だった。


 あれ?エメラルドってこんな美少女だったっけ?なんか設定とちょっと違う気が……。

 

 水色の瞳で値踏みでもするかの様に、エメラルドを凝視するパール。

 ものすごい見られていたエメラルドは思わず目を逸らし、紅茶を一口飲み気持ちを抑える。


「エメラルド様って、トパーズ様のこと好きなんですか?」

 直球でぶち込んだ。

「なっ!なに⁈」

 侯爵令嬢らしかぬ声を発するエメラルド。その顔は真っ赤に染まっていた。


「だってそんなにつっかかってくるんですもの。それって、私とトパーズ様が仲良くしてるのが許せないくらい、トパーズ様のことがお好きってことでしょ?」

「そ、それは……」

 顔を真っ赤にぷるぷる震える姿はまるで子犬の様で愛らしかった。


 周りの令嬢達も二人のやり取りをハラハラと見守っていた。


「安心して。私の推しは第二王子ですから」

「え?」

 エメラルドは真っ赤な顔をあげた。

 同じテーブルに席を並べていた伯爵令嬢達も不思議そうにパールを見つめる。


「あ、あの……お、おしって……」

 推しとは、パールにしか理解できない言葉だった。


「んーっと、推しはぁ。つまり、私は第一王子よりも第二王子が好きってことよ」

「‼︎」

 パールの何も隠さない真っ直ぐな言葉に、周囲の令嬢達が騒然とする。

 

 公爵家に養女となったパールには家庭教師が付き、貴族令嬢としての立ち居振る舞いや、テーブルマナー、ダンスなど様々な教育が施された。が、元来努力が苦手なパールはほとんど身に付いていなかった。


「ちょ、ちょっとパール様。流石にその言い方は不敬にあたるのでは……」

 たまりかねた伯爵令嬢の一人が思わずパールを嗜めた。


「あら?好きな方を好きって言うのはいけないことかしら」

「だ、だって、王族の方に対しして女性からその様なことを口するなんて」

「そ、そうよ。はしたないわ」

 もう一人の伯爵令嬢が援護射撃する。


 この国では、女性から告白するという文化がなかった。

 ましてや貴族の世界では、恋愛結婚より家同士の政略結婚が普通。その為、パールの発言は他の令嬢達にとっては信じ難い発言だったのだ。


「はぁ。もういいわ。私失礼します。これから第二王子に会わないといけないので」

 そう言うとパールは可愛いらしいシフォンのミニドレスを翻し席を立った。


「ちょっと待ちなさいよ」

 話の途中で退席しようとしたパールをエメラルドが止めに入る。

 その時。


「随分賑やかだな」

 凛とした透明感のある声。 

 パール、エメラルド他、周りの令嬢達の視線が一斉に声の発せられた人物へと向く。


「あ、リアルサファイアきた……」

 幸いなことに、パールの声はかろうじて令嬢達の耳には届かなかった。


 令嬢達は一同に立ち上がり、ドレスの裾を持ちカーテシィの挨拶をする。

「よい、顔を上げろ」

 幼いながにも堂々とした振る舞い。それがこの国の第二王太子サファイア・フェアリー・アルテミスだ。


 藍色の髪に、王族の金の瞳が一つ。左の赤い瞳は黒の眼帯で隠されていた。

「俺は第二王子のサファイア・アルテミスだ。今日は王宮での茶会を楽しんでいってくれ」

 

 そう言うと、いかにもの営業スマイルを令嬢達に振る舞う。

 それでも令嬢達にとっては最高の笑顔にしか見えなかった。


「あ、あのサファイア様!私、パール・クレランスと申します」

 淡いピンクの髪に、潤んだ水色の瞳。わずか十歳にも関わらず、男心をまるで知ってるかの様な憂いを帯びた上目遣いがあざとい。


「クレランス?」

 サファイアはすぐ後ろに気配を隠す様に控えていた少女を振り返る。

「え、えぇ。義妹です、殿下」


 少し困り気味の表情でガーネットは答える。


「え?お義姉様いつの間にサファイア様と……」

「あ、あの、殿下とはたまたま花園でお会いして……私が迷ってしまったのをお気遣いしてくださったのよパール」

 ガーネットは申し訳なさそうに俯く。


「おい、さっき名前で呼べと言ったばかりだろ。殿下呼びはいらない、ガーネット」

「は、はい。でん……サファイア様」

 本当は様もいらないが、この場ではそれを言うのはやめておいた。


「ちょっと……ウソでしょ?私とサファイア様のイベントをお義姉様がとったの?」

「パール?」

 パールはワナワナと小さな肩を震わせる。


「ここにいたんだねサファイア」

「兄上」

 

 二人の王太子が並ぶと破壊力が半端ない。

 妖精は別として、美しいって彼らの為の言葉ね。


 パールの意味不明な発言をすっかり忘れ、二人の少年王太子のやり取りをぼんやりと見つめるガーネット。


「あ、あの!トパーズ様、先程はハンカチありがとうございました!サファイア様、トパーズ様は私が他の令嬢達いじめられているところを助けて下さったんですよ」

 

 パールの弾丸トークに苦笑するトパーズ。

「いじめられてたって大袈裟な。あれは他のご令嬢達がマナーを教えてくれてだけだよ。えっと…名前なんだっけ?」

「え?名前?忘れちゃったんですか?ウソでしょ……」


 第一王子トパーズのセリフに、思わず素っ頓狂な声で反論するパール。


「サファイア、一緒にいるご令嬢は?君が女性といるなんて初めて見たよ」

 嬉しそうにトパーズが訪ねる。


「こちらはクレランス公爵家の令嬢、ガーネット嬢です。先程、オレの花園で出会いました」

 ガーネットは髪と同じく赤いドレスの裾を摘み、華麗にカーテシィの挨拶をする。凛とした佇まいは、他の令嬢とは違いさすが公爵家の令嬢と思わせる風格があった。


「へー、あの秘密の花園で。これは」


 ん?これは……何だろ?それにあの花園は『秘密の花園』なのね。


 なんだかんだで、王家主催のお茶会も無事?に終わり、最後に主催の王妃からの挨拶があった。


 二人の王太子の母であり、この国の国王の妃。美しく、華やかで他のどの貴族よりも眩しかった。


「王妃様のオーラ半端ない!ナマ王妃すっごい綺麗」

 隣で大興奮のパール。いまいち何を言っているか分からないが、王妃様の美しさに驚いてるのはよく理解できた。


 話が終わり、令嬢達は各々自分達の家の馬車に乗り込んだ。ガーネットもパールもクレランス公爵家の馬車に従者とともに向かう。


「ガーネット」

 名前を呼ばれて、声の主に振り返る。

「サ、サファイア殿下⁈」

 まさか、第二王子がわざわざ馬車乗り場まで来るとは思ってもいなかったので驚く。


「ガーネット、これを」

 まだ十歳のサファイアの手は小さい。幼い王子から渡されたのは、金の鍵だった。

「これは?」


 不思議そうに渡された鍵を見つめる。子供の手のひらには少し大きく、花と葉の細工が美しい。


 どうやら何かをはめ込むようになっているようで、細工の先には石か宝石でも乗せられるように台座が空いていた。


「いつか必要になる。それまでお前に持っていてほしい」

「私に?」

 探るように菫色の瞳が動く。


 パールに言われた言葉が蘇る。

 第二王子と婚約し、それから処刑、または北の大地の修道院送り。それか爵位剥奪の国外追放。


 パールの言う通り、シナリオが動き出したのかもしれない。ガーネットには王子からの贈り物は恐怖にしか感じれられなかった。


 先に馬車に乗り込んでいたパールは、ガーネットの顔を見るなり文句を言い出した。

「まったく、せっかくサファイア様との初めての出会いイベントだったのにー。なんで、お義姉様が秘密の花園に行っちゃうかなー」


 ブーブー文句は言うが、幸いこの鍵のことは気付いていないようだった。



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