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秘密の花園

 王城に到着し、馬車から降りたガーネットとパールは驚いた。


「え?招待状されたのってこんなにいっぱい?」

 ガーネットの心の呟きをパールが代弁してくれたかと思った。


 想像以上の令嬢の多さに圧倒される。


 「ひ、人が多すぎる」


 早速人酔いし始めたガーネット。


「えー、この中から王子様見つける?てか、最初の王子様イベント大丈夫かなぁ」


 相変わらずガーネットには意味不明の言葉が耳に入る。

 

 テーブルには小さな令嬢達が好みそうな可愛らしいカップケーキやクッキー、マカロン。細工が施されたチョコレートが並べられていた。


「まぁ、なんて可愛いいんでしょう。ねぇパール」


 気付くとさっきまで隣にいたはずのパールの姿が消えていた。


「え……パール?どうしよう……」

 

 知らない令嬢達の中に一人残されたガーネットは不安を覚える。

 もともとパールと違い社交的ではないガーネットは人見知りが激しい。こんな大勢の同年代の少女達に囲まれた経験もないので、不安が一層高まった。

 

 パールと一緒に可愛いお菓子とお茶を楽しもうとした矢先に義妹がいなくなってしまったので、慌てて王家の庭園を見渡す。


 大勢の綺麗な令嬢。そして一際大きな塊が。まるで、ミツバチが花の密を求め群がるように、色とりどりのドレスがひしめき合っていた。


「あ、あれ?パール?」


 よく見るとその中心には見覚えのある、淡いピンク頭に大きめな花飾りが見え隠れしていた。


「ちょっと、あなた何なの?今私が王太子殿下にご挨拶していたのよ」

「そうよ。ちゃんと順番をお待ちにならないと」


 数名の令嬢達が誰かを嗜める声。それに続き、愛くるしい声が。


「ご、ごめんなさい。私気付かなくて……。そんなつもりじゃなかったんです。本当にごめんなさい」


 水色の瞳をウルウルさせ、謝っていたのは義妹のパールだった。


「パール……⁈」


 慌てて人垣を掻き分け騒動の中心にたどり着くと、そこには涙をポロポロ流し可愛さマックスのパールの姿……と、息を呑むくらい美しい男の子二人が並んでいた。


「なんて綺麗な方達……」


 普段から綺麗な妖精達を見慣れているガーネットでさえ、一瞬で心が奪われるほどの存在感だったのだ。


「ほら、そんなに泣かなくても。これで涙を拭いて」


 水色の髪に金色の瞳、ガーネットやパールより少し年上であろう美しい少年はそっとパールに自分のハンカチを手渡す。


「きゃー」


 その様子を見ていた令嬢達の嫉妬と羨望の声が響く。


「あ、ありがとうございます、殿下」


 パールが恥ずかしそうにハンカチを受け取る。


「そんな堅苦しくなくていいよ。僕のことはトパーズと呼んで」

「は、はいトパーズ殿下」

「僕はペリドット・フェンネル。トパーズ殿下の友人だ。よろしくねピンクさん」


「は、はい。私はクレランス公爵家の娘、パール・クレランスと言います」


 恥じらいながら、カーテシィを披露するパールだった。


「ちょ、ちょっと……あの子何なの?王太子殿下に馴れ馴れしくない?」


 一部始終を見守っていた令嬢達がヒソヒソと囁く。

 

 驚きつつもガーネットは馬車内での義妹パールとのやり取りを思い出す。


『絶対に邪魔だけはしないでくださいね』

 ここは邪魔をするなってことで良いのかしら?

 脳裏によぎったパールの言葉を反芻し、そっと輪の中から退場した。


「ふぅ、さすがパールね。有言実行。あの子の行動力が時々羨ましくなるけど……」

 でも、自分にはできない。


 人混みは苦手。

 

 ガーネットは一人そっと庭園の奥に歩みを進める。気配を消すのは得意だった。


「まぁ、ここは……」


 ガーネットの菫色の瞳に映ったのは、先ほどまでいた豪華なバラの庭園とは違い、小ぶりで色鮮やかな花々が溢れる可愛らしい花園だった。


「ここ空気が違うわ。とても浄化されてる……」 


 ゆっくりと花園に足を踏み入れ、思い切り深呼吸する。


「はぁ……、なんて素敵な場所なんでしょう。まるでお母様の庭園みたい」

 

 しゃがみ込み足元に咲くスミレの花を愛でる。


「え?ここで?ん〜でも誰かに聞かれたら……そう?じゃあ」


 スミレの花に向かって話をするガーネット。

 意を決して立ち上がり、両手を胸の位置で組みそっと目を閉じる。


 美しい花園に、美しい声の旋律が響き渡る。

 伸びやかで、大気を包み込むような歌声。

 

 色とりどりの花々から無数の光が浮き上がる。枯れ始めていた花は彩りを取り戻し、芽吹き始めた葉は成長し七色の花を咲かせた。

 

「これは……」


 その声で、ガーネットの心臓は跳ね上がる。


「あ……」


 振り返ると、藍色の髪、王族の証の金色の瞳と……赤い瞳。オッドアイの少年がガーネットと同じく驚いた表情で立ち尽くしていた。

 

 先程の美しい少年よりも背が小さいので恐らく彼がパールの求める相手、第二王子であろう。


「あ、あの……申し訳ありません。勝手に入ってしまって」


 先程までの伸びやかな声と打って変わって、震えるような声で謝罪する。


 どうしよう。勝手に王族の庭に入り込んでしまったから私牢屋に入れられちゃうかも。


 そんな恐ろしい考えに体が震え上がるガーネットだったが、王子の言葉によって救われる。


「よい。ここは俺の秘密の花園だ。お前ならいつでも来てもいい」

「え?」

「その……今の歌は……」

「あ……そ、その……」

 なんて説明すれば良いかガーネットは焦りを覚える。

 

 それよりも、誰にも聞かれないようにと幼い頃から母に言われた続けていた約束をわずか十歳で破ることになってしまったことのショックも大きかった。


「妖精の歌?」

「えっ、どうしてそれを……」


 まさか目の前にいる王子からその言葉が発せられるとは思ってもみなかったガーネットは、不敬であることも忘れて、じっと金と赤のオッドアイを見つめ返す。


「だって君の周りにこんなにたくさんの妖精がいるじゃないか。これを妖精の歌と言わず何という」


 またもや第二王子の言葉に絶句するガーネット。


「そ、その……王子殿下には……み、見えるんですか……妖精が」

 恐る恐る聞いてみる。

「あぁ、見える」

「‼︎」


「この花園は昔から妖精が住んでいるんだ。俺はいつも妖精に会いにここに来てる」


 そう言うと少し生意気そうな笑みを浮かべ手のひらをそっと掲げる。すると緑のシフォンドレスを纏い、銀色の長い髪をなびかせた妖精がその手のひらに舞い降りた。


「まぁ」


 ここまで妖精に懐かれているのは自分以外で初めて出会った。


「妖精と話はするが歌は教えてもらえなかったな」


 そう言ってオッドアイの少年は目を細める。


「俺はサファイア・フェアリー・アルテミス。この国の第二王子だ」


 サファイアは凛とした、そして柔らかい口調で名乗った。


「私はクレランス公爵家の娘、ガーネット・フェアリー・クレランス申します」


 フェアリーの名を持つ二人の出会いとなった。


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