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王宮への道のり

 ガーネットが義妹パールに悪役令嬢であることを告げられてから数年。二人は十歳の令嬢へと成長していた。


 クレランス公爵家では、いつも以上にメイド達が忙しそうに動き回っていた。二人の小さな令嬢をどの令嬢よりも美しく着飾らなければならないからだ。


 ガーネットは深紅の髪に黄色のリボンを編み込み、横に流し、小花を散らした。ドレスは上品な赤に銀の刺繍が施され、胸元は黒のレースで覆われた少し大人っぽい仕上がりとなった。

 

 勿論これはパールのチョイスだ。赤いドレスは悪役令嬢の象徴らしい。


 対して義妹のパールは、淡いピンクの髪をハーフアップにして瞳の色と同じく水色のリボンに大きめの花をあしらえた。ドレスもガーネットとは違い、フリルとリボンが多く施された水色の少し短めのもので、全面に可愛いを主張したものとなった。


「うん、これは設定通り」

 嬉しそうに微笑むパール。


「なんて可愛らしいんでしょう!パールは世界で一番可愛いわ。これで殿下の心もすぐに射止められるわね」

 継母は血の繋がった娘のパールのみ絶賛した。まるで横にいるガーネットは存在しないかのように。


 二人がクレランス公爵家に入ってから、継母は父であるクレランス公爵が近くにいる時だけガーネットに話しかける。父がいない時はまるで空気のような存在として扱うのであった。

 

 クレランス公爵家の跡取りを産んでからは、継母の地位は確固たるものとなった。公爵家の従者達も常に継母の顔色を伺って過ごしていた。


「お母様ありがとう。今日のお茶会頑張るわ」

 パールは満足そうに、幾重にも重なったフリルのドレスを摘みくるくると回ってみせた。


そこへ執事がやってきて、馬車の準備ができたことを告げる。

「あ、あの…やっぱり私……」

 義妹と継母のやりとりを見ていたガーネットが恐る恐る声を発した。


「ダメよ、ガーネットお義姉様。これは王族主催のお茶会なんだから欠席はできないわ」

 行くこと拒もうとしたガーネットをパールが嗜める。


「でも…私が行っても……」

 貴族の令嬢達がこぞって好むお茶会やパーティなどが苦手なガーネットは、できれば今回のお茶会は欠席したいと思っていた。

 まして、いずれ自分を断罪するかもしれない王族のお茶会など、進んで参加などはしたくない。


「お義姉様がいないと私不安で……」

 水色の瞳をウルウルさせるパール。

「パール」

 その姿に戸惑うガーネット。


「そうですよガーネット。王家主催のお茶会なんだから欠席は不敬になるし、そんなお茶会に私の可愛いパールが一人行くのは不安でしょ」


 つまり継母は、ガーネットにはパールの付き人として出席するようにと案に黙しているのだ。

「くれぐれもパールと殿下の邪魔だけはしてはいけないよ、ガーネット」

「はい、お義母様」

 

 二人はクレランス公爵家の馬車に乗り込み、王城へと向かった。

 今回のお茶会は第一王子と第二王子のお披露目会でもあり、同年代の選ばれし貴族令嬢とのお見合いも兼ねていたのである。


 選抜された貴族令嬢達には、王家の紋章が入った招待状が届いた。受け取った令嬢達よりも親が歓喜し、この日の為にと娘達に美しいドレスや宝石をオーダーする。

 まだ幼さが残る殿下達の目に我が娘が選ばれるようにと。


 クレランス公爵家にも例外なく招待状が届いた。

 招待状を見るや否やパールは大きな声をあげて喜んだ。

「やった!最初のイベントがキター!」


 周囲にいたメイド達の白い目は全く気にしていない様子だった。


 道中、馬車の中ではパールがガーネットに何度も言い含める。

「いい?お姉様。私は第二王子が推しなんです。絶対に邪魔だけはしないでくださいね」

「え?お、おし?」

 

 度々パールからは聞き慣れない不思議な言葉が出てくる。聞き返しても、その説明がない為ガーネットは首を傾げるばかりだった。


「あ、でも邪魔しないとストーリーが進まないんだった……」

「邪魔しなくちゃいけないの?」

「言ったでしょ。お義姉様は悪役令嬢なんだから。程よく私と第二王子の邪魔をしてもらわないと」


 意気揚々に説明するパールの様子を、半ばあきらめ顔で見つめるガーネット。

「邪魔をするなと言ったり、邪魔をしろと言ったり……。で、どうしてパールは第二王子がいいの?王家を継ぐのは第一王子でしょ?」

「え⁈」

「だって普通だったら、王妃になりたいなら第一王子に見染められたいって思うでしょ?なのに、パールは第二王子がお気に入りのようだから」


 ガーネットの質問にパールはドギマギする。

 やっば!さすがにこれは言えない。第二王子の方がイケメンで将来第一王子じゃなく第二王子が国王になるなんて。


「とにかく顔が好きなの。あと、性格も!」

「性格も知ってるの?」

「もちろん!あのオレ様感が萌えるの!」

  

 もえる?

「そ、そう……」

 

 馬車の揺れで、ガーネットの疲れたため息がかき消される。

 貴族令嬢なら誰もが一度は夢見る王族との出会い。幼いながらも公爵家の娘として生を受けたなら、家の為に嫁ぐことは理解している。それが王族であろうと、なかろうと。


 でも、ガーネットはいずれ結婚をするにしても王族を意識したことは一度もなかった。それは、フェアリーの名も関係している。


「いい?ガーネット」

 亡き母がいつも口にしていた言葉。

「妖精が見えることは誰にも言ってはいけない。妖精の加護持ちは政治に利用され、幽閉される恐れもあるの。特に王族には近づかないで」


 ガーネットと同じく菫色の母の瞳。心配する母の顔が浮かぶ。

 


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