蟹の私が8本うでの人間になる日
異世界美容クリニックのダンテの過去が少しだけ聞けます。
「あいつ、やばくね」
「見た目にキモイんですけど」
見た目やばいってことでこんなに嫌われるものなのだろうか。ノーマルの人間中心の世界は窮屈だ。手が六本で足が四本の俺は冒険者ギルドの前の噴水公園で途方に暮れて座っていた。
俺は仲間が見つからずかなりへこんでいた。鏡面メタルのアーマーを付けたメタルネイクのパーティーが目の前を通った。Sランクのパーティーだ。いつかメタルネイクのパーティーに入りたいなぁ。
「どうした。景気の悪い顔をして」
話しかけてきた女を見上げるとメタルネイクだった。Sランクの蛇の獣人の皮膚には剣も効かないらしい。こんな有名人が俺に話しかけてくるなんてどういうことだろう。
「いや、俺はこの見た目だろ。だれもパーティーに入れてくれないんだ」
「そうか。見た目が蟹すぎるもんね。冒険者っていうかモンスター側だ」
「からかうのはよしてくれ。かなりへこんでいるんだ」
「すまんすまん。その足と手の多さは悪くないぞ。剣がたくさん持てるしな。丘のほうに行くと異世界美容クリニックがある。そこにに行きな。ネイクの紹介だと言えば分かる」
「金がかかるんだろう?」
「ああ、結構するよ。そうだな。今からSランクのクエストをするから荷物持ちをしないか? その甲羅の上に荷物を積めるか?」
「荷物を載せることはできるi」
「ならついて来い。金を稼がせてやる」
金のためとはいえメタルネイクのパーティーに入れるんだ。こんなチャンスは二度とない。他のパーティーに誘われなくてよかった。
「ネイクだ」
「ケイです。よろしくお願いします」
エルフのアーチャーのセレアと魔法使いのエミリエスとも挨拶をかわした。他の二人もSランクだ。Cランクの俺が入ってもいいのだろうか。
パーティーの荷物と宝箱を積んで移動して森に入っていく。森の中で盗賊に襲われた。宝箱が狙いのようだ。
メタルネイクが盗賊を切り倒していく。俺の横にSランクのエルフのアーチャーと魔法使いが護衛していた。魔法使いが俺を中心にしてシールドの魔法陣をかけている。
アーチャーが遠くの盗賊を撃ちぬいていく。盗賊は次第に数を減って逃げていった。森の中のダークエルフの村に着く。奥から若い男のダークエルフが出てくる。
「ご苦労さま。蛇女が来ると聞いていたが、こんなに美しいとはね」
「御世辞はいらないよ。宝箱の中を確認しろ」
ダークエルフの男が中を確認すると、後ろの男に合図する。ダークエルフが大量の宝箱をもってきた。一つ開けて中を見せる。ポーションが大量に入っていた。
「全てハイグレードのポーションだ。今日は泊まっていくのか?」
「ああ、日が暮れたから、村の空き地でよいから貸してくれないか?」
「いや、メタルネイク。宿泊所を用意してあるからそこへ泊まってくれ。そいつはパーティーのメンバーか? 荷物運びのモンスターか?」
「こいつはパーティーのメンバーだ。帰りはこいつの背中に荷物を積んでいく」
メンバーだと言われていい気分だった。これで荷物運びのモンスターだと紹介されたら一気に気分は盛り下がっただろう。
「ダンテと同じフラットの思考回路か、フラットは人間社会からはじかれるぞ」
「その辺はうまくやるさ。ロビン」
フラットとはなんだろう。ダンテって誰のことだろう。
夜になるとテントの横で夕食を食べた。焚火に保存していた干し肉を入れたスープを作った。先ほどのダークエルフがフルーツを持って来る。
「こんなものしかないがすまん」
「ありがとう。エルフ族は肉も酒もやらないからな。フルーツは好きだよ」
ロビンと言う男が焚火の前に座った。しばらく雑談をしていると先ほどのダンテの話になった。
「ダンテは元気にしているか?」
「ああ、九尾の狐と雪の妖精と暮らしている。今度、ケイを連れていくつもりだ」
「ダンテはモンスター、いや、獣人もわけ隔てなく患者として見てくれるというわけだ」
ダンテは異世界美容クリニックの医者のことだな。確かに美容クリニックは人間のための診療所だ。普通は獣人やモンスターを相手にしないだろう。
「ダンテがいなければ今の私はなかった。恩人ですよ」
「ダンテはモンスターも人間も同等に接するフラットだからな。ダークエルフでさらにフラットとなると人間からは距離をおきたくなるな」
フラットというのはそういう意味か。だから蟹の俺を紹介できるんだな。
「ダンテ様は人間たちとも良い関係を保っています。なぜ、ダークエルフの村を出てまでフラットになったのですか?」
「恋人が人間のせいで死んでしまったからだよ。人間のせいでというのは言い過ぎだった」
「ダンテに恋人がいたんですね」
「ああ、一緒のパーティーのメンバーだったSランクのキャットピープルだ。クエストで呪われてね」
「呪いだと専門の魔法使いでないと取り除けませんね」
「そうだ。だから人間の魔法使いのところに魔法を取り除きに行ったんだ。獣人は治療できないと断られたよ」
「他にも魔法使いはいるでしょう」
「人間の魔法使いの多くは獣人だからって断ったよ。リサはだんだん衰弱して気が狂っていった。最後はみじめだったよ」
「獣人を診察してくれるクリニックがあれば救われたのに、無かったことを恨んでいるのですか?」
「人間を恨んではいないよ。だからフラットだ。その辺はクールなんだよ。仕組みはすぐ変わらないってわかっているんだ」
「せめて自分だけでもわけ隔てなくと思っているんですね。だから私のような蛇女にも優しくしてくれたんだ」
「優しく?」
「綺麗だと言ってくれましたよ」
「ああ、あいつは女たらしだ。なんでも綺麗に見える」
女たらしって、なんかさっきまでいい人のイメージだったのに
「ああ、なるほどな。狐の獣人の少女と雪の精霊の熟女と毎日キスするのもそのせいだったか」
少女から熟女まで幅広いのか。ダンテはある意味すごい人だな。
「エルフは長生きするから、年齢はあまり関係ないからな」
【ヘックション!】噂話をされてダンテがくしゃみをする。
帰りの日になると俺の背中にポーションを入れた箱を積み上げた。街まで行く途中で数回盗賊に襲われたがSランクの三人は連携もよくて軽く退ける。
魔法使いのシールドは硬く、敵の矢が積み荷に当たらないように避ける必要もなかった。
医療施設までポーションを運んでクエストがクリアになると、メタルネイクが報酬を分けてくれた。ありがたい。これでダンテのところに行ける。
Sランクのパーティーに入れてもらえてお金までもらって、ダンテのところで人間に変えてもらえるんだ。
ダンテのところに行く途中でメタルネイクが話しかけてくる。
「ケイ。手はすべて残せよ。二本にしなくていい」
「それじゃ人間に見えないじゃないですか」
「お前の硬い甲羅と手足が多いのは長所だ。なくさなくてもいいんだ」
「たくさん手のある奴なんて。またパーティーに誘われなくなってしまいますよ」
「うちのパーティーにずっといればいいさ」
「いいんですか?」
「ああ、いいよ。今回のクエストでAランクになったんだろ」
「ええ、まぁ、何もしていませんけど」
「レベルあげなんかそんなものだ。私だって。。」
「それなら剣がたくさん持てるように手を4本にして、足を6本残そうかな」
「いいね。二つ名はフォーハンズだね」
フォーハンズ? なんかカッコいい。おれってもしかしてSランクの冒険者も夢じゃないんじゃないかな。
異世界美容クリニックにつくと受付に九尾の狐の女の子がいた。
「ダンテは今は奥にいる。少ち待ってください」
九尾がダンテを呼んで戻って来る。
「やあ、ネイク。こちらはご紹介の冒険者の方ですか?」
「ケイと言います。よろしくお願いします」
「それでどのように?」
「人間の風貌に寄せたいのですが、手は4本、足は6本残したいんです」
「え? 甲羅はどうします?」
「そうですね。硬い皮膚は残したいですね」
「人間風にはなりますけど、見た目かなりやばい感じにはなります」
「刀をたくさん持てるようにしたいんですよね」
「それなら足を2本にして手を8本にしましょうか? まあ、手も足も一緒ですけどね」
二足歩行の方が人間らしいということか。二つ名はエイトハンズか。それも悪くないな。手を8本でお願いしよう。
「それでお願いします」
「甲羅はネイクさんの様に鎧にして残しますね」
おおっ。鎧として残るのか。
「それでは診察台のほうにうつ伏せに寝てください」
診察台に寝るとダンテが手から光を出して全身に当ててくる。部屋の壁がオレンジの光を反射して点滅した。大手術なのに痛くはない。
「姿見の前に立って見てください」
そこには赤いアーマーを着た赤い髪の人間の男が立っていた。腕が八本ある以外は人間だった。すげえ。すげえ技術だ。見た目はもうSランクの勇者だぜ。
「なかなかのイケメンじゃないか」
「ほんとですか。ネイクさん」
「ああ、これはモテるぞ」
「まじかああああ」
「中身がクズなのか?」
だらしない顔になった俺の顔をみて九尾の狐が突っ込みをいれてくる。
「なんだと! クズじゃない。Aランクの冒険者だ」
「おいおい。この子に喧嘩を売るなよ。私より強い」
「え? ネイクさんより強いって? この子が?」
ネイクさんのレベル上げをしてくれたのがこの女の子だと聞いてさらにびっくりした。
「こちらプレゼントしますよ」
盾と剣をダンテが奥から持って来る。装飾の入った高そうなアイテムだった。こんな高級そうなものを買ったら施術代より高そうだ。
「こんな高そうな剣を?」
「もらいものですから。ドラゴンからもらったんですよ。持ち主はもう死んでますから大丈夫です」
おおおおおおい。持ち主死んだって縁起でもねえ。でも高そうだからいいか。自分じゃ買えない武器だからな。
「まだ手が空いていますね。魔法のロッドも要りますか?」
「魔法は使えないけど、なんか強そうに見えるので持っときます」
奥から帽子をかぶった貴婦人のような女性が出てくる。これが噂の熟女か。ダンテの奥さんなのかな?
「こんにちわ。奥さん。ダンテさんにお世話になってます。ケイです」
「お、おい。よせ!」
ダンテもネイクも慌てた顔になってダンテの作ったシールドのドームの中に逃げていく。ネイクに手を引かれてシールドの中に入ると、外で九尾の女の子が真っ赤になっていた。
ドカーーーン!
爆発音とともに診療所が吹き飛んで更地になる。
「クリスタはダンテの奥さんちがう!」
九尾の女の子の目がメラメラと燃えている。
「ひいいいいい」
桁違いの強さだ。こんな爆発に巻き込まれたら体がばらばらになって焼き蟹になってしまう。
「あら、いいのよ。奥さんって呼んでも」
貴婦人の方は満足げな表情を浮かべている。
「その杖に氷の魔法を付与してあげるわ。魔法が使えなくても氷の魔法が使えるレアアイテムになったわよ」
そういうと魔法の杖に息を吹きかけた。薄いブルーの色のロッドに変わる。
「あ、あざっす」
なんか、ネイクと知り合ったらどんどん強くなっていく気がするけど、いいのかな。
ダンテが文句を言いながら魔法で診療所を再建していた。簡単に巨大な建物が出現する。この人もすごい魔法使いなのかもしれない。仲良くなっておいた方が良さそうだ。
「ダンテ。好きなタイプは? 女の子紹介しますよ」
「え? 俺が女好きみたいな感じになってますけど。勘違いしてない?」
「いや、ダークエルフの村のロビンさんがダンテは女が好きだって」
「あいつ! 余計なことを」
「彼女さん。。。。ああ、すんません。なんでもないです」
「ダンテの彼女でしゅって?」
それを聞いていた九尾の女の子が膨れ面をして赤くなってきた。
「よせ。そんなものはいない!」
ドカーーーン!
かろうじて全員シールドの中に入れたが、診療所は吹き飛んで粉々になった。
「ケイ! いらないことを言わないで。口が軽いんだから。ダンテ。もう帰りますね」
「そ、そうしてくれ!!」
ダンテの顔は目が布で覆われて見えなかったが明らかに怒っているようだった。
「今日はありがとうございます。では、また、寄らせてもらいます」
「もう来るなって」
ダンテの怒った声が聞こえた。
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