表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/67

64. 悪魔の鉄槌


 今回捕らえられた貴族たちは人身売買など特に重い罪を犯していた為に斬首(ざんしゅ)による極刑(きょっけい)となった。

 貴族であるが故に、名誉ある処刑法と言われる斬首刑ですんだのだ。


 しかし彼らは皆死の直前には自らの犯した罪を後悔し、恐怖に(おのの)きながら死刑執行人の両刃の斬首刀で首を落とされた。

 

 そしてどの貴族の家族も爵位剥奪(しゃくいはくだつ)の上、平民に落とされた。

 貴族が平民に落とされ、しかも罪人の家族ともなれば楽な暮らしはできないであろう。



 リード商会会長のクライヴはジュリエットの生み出した『人魚の涙』の貴重性を盾に、自らを捕らえた国の役人を買収しようとした。

 まさか自分を捕らえたのがジュリエットの父親であるとは夢にも思わずにそのような愚行を犯したクライヴは、部下である役人からの報告を受けたメノーシェ伯爵の命令により、なお一層過酷な罰を受けることとなる。


 ただの絞首(こうしゅ)刑では足らぬと、三日三晩の鞭打ちのあとに刑は執行された。

 あれほどまでに爵位に執着したクライヴは、多くは貴族に許された名誉ある処刑法(斬首刑)ではなく、主に平民に対して行われる恥辱を伴う絞首刑だったのは皮肉なことであった。



 

 最後にピエール・ド・グロセの刑が執行された時、キリアンは集落で過ごすジュリエットには何も告げずにその場にいた。


 ピエールの刑は(さら)し刑であった。


 肉体的な苦痛よりも精神的苦痛を与えることを目的とするこの刑罰は、貴族という立場を非常に鼻にかけたピエールにはぴったりの刑であった。


 ピエールの多くの罪は民の前で読み上げられ、民たちはその傲慢さと残虐さに怒りを露わにした。


 執行人たちに無理矢理移動させられているピエールは、もはや貴族としては見る影もないほどに情けない様子で命乞いをしている。


「おい! 助けてくれ! 私は高貴な血を引き継ぐ者だぞ! 神に選ばれた者なんだ! 金なら幾らでも払う!」


 これから一定期間、広場に設置された手と足をピロリーという晒し台に固定されて晒し者にし、市民の嘲笑を受けさせるのだ。

 市井(しせい)の者を『下賤な者』と罵っていたピエールは、逆に民たちに嘲笑われることとなったのだ。


「愚かな奴め。本来ならば俺が殺してやりたかったが、ジュリエットはそんなことは望まない。お前が馬鹿にしていた民たちの恐ろしさを知るがいい」


 キリアンはそう言って広場を後にした。


 

 しかし晒す期間を終える前に、ピエールは死んだ。


 あまりに民たちを馬鹿にした言葉を投げかけたからか、晒されながら殴られ蹴られ、石を投げられたりといった暴力を受けたのであった。


 そして最後にはその美しいと自慢していた顔に焼けた鉄を押し付けられていた。

 そのショックでピエールは息絶えた。


 下賤の者と嘲笑っていた民たちに、ピエールは鉄槌(てっつい)を下されたのである。



 ピエールの刑を最期まで見届けたのはジャンだった。


 キリアンからの命令で連日広場に紛れ込んで様子を見ていたジャンは、晒し台で(わめ)くピエールに辟易(へきえき)としていた。

 自分がどういう状況なのか分かっていないのかと思うほどに、自分を嘲笑する民たちへ辛辣な言葉を投げつけている。


 そのようなことをすれば、民たちの怒りを増すだけだと言うのに。


 きっとキリアンは自身の手でピエールに鉄槌を下したかったであろうが、ジュリエットの為に堪えたのだとジャンは理解していた。


 刑を見届けている最中に、ジャンは何度もピエールへ石を投げつけたくなったが、あの無垢なジュリエットのことを思えばそのようなことをしてはならない気がしたのだ。


 結局、過酷な最期を迎えたピエールについてジャンはキリアンに全てを報告するのであった。


 

 全ての悪には然るべき制裁『悪魔の鉄槌(ルシファーズハンマー)』が下されたのである。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ