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40. 明日は久しぶりのお出かけですわ


 その夜、ジュリエットはもう手慣れた様子で夕食の後片付けをしていた。


「キリアン様、ジャン、お願いがあるのですが……」


 今日はジャンも一緒に夕食を食べていたからちょうど良いと、ジュリエットはティエリーの街へ買い出しに行きたい旨を伝えた。


「いいよー! 僕もちょうどエマ婆さんに用事があったところだし。明日にでも行こうか!」

 

 エマ婆さんとは、ティエリーの街でジュリエットの持ち物を買い取ってくれた老女だった。

 白髪で顔に深い皺の刻み込まれ、少し濁った色の目をした掠れ声の老女。

 『また来なよ』と言われてそのままになっていた。


「キリアン様は?」


 ジュリエットが尋ねれば、キリアンは少し考える素振りはしたものの頭を左右に軽く振って答えた。


「俺はしばらく忙しいから行けそうにないな。……すまん」

「まあ、そうですの。それならば仕方ありませんわ。ジャンと行って参りますわね」


 にっこりと微笑み小首を(かし)げるジュリエットは、この集落に来てから随分としっかりとしてきたように思える。


「じゃあ明日朝に迎えに来るから。お嬢、寝坊するなよ」

「しませんわよ! あれから一度も寝坊などしたことがありませんわ!」


 揶揄(からか)うように笑うジャンに対して、ジュリエットは口を尖らせて抗議する。

 ジュリエットはここに来て初日に寝坊してからというもの、一度も寝坊したことはないのだ。

 貴族であった時には起きるのも遅いのが当然であったが、ここでは早起きをしてキリアンと食べるための朝食を作る。

 そして仕事に向かうのだ。


 そんなジュリエットとジャンのやり取りを見ていたキリアンも、フッと表情を緩めた。

 そしてジュリエットに向かって声をかける。


「まあ、確かに良く頑張ってると思うぞ。最近の()()()()()()は」


 ジュリエットも、ジャンも一瞬固まったように動かなくなった。

 ここに来てからもほとんどキリアンはジュリエットのことを『あんた』とか『お前』としか呼ばないので、ごくたまにしか名前を呼ばれないジュリエットにとってはこの上ない賛辞である。


「キリアンさまー!」

「うわっ! や、やめろ!」


 久々にキリアンに飛びついたジュリエットは、グイグイと押しのけて逃れようともがくキリアンに『決して離すまい』としがみついている。


 ジャンはそんな二人をその糸のように細い目で、じーっと生暖かく見守っている。


 ちなみに、ジュリエットとキリアンは婚姻を結んで三ヶ月も経つにも関わらず未だに()()()()()()()()()


「と、とにかく! 楽しんで来いよな! なっ⁉︎」

「はい! キリアン様がご一緒できないことは寂しいのですが、お土産楽しみに待っていてくださいね」

「いや、土産とかはいい。それにほら、たまには実家にも帰ったらどうだ? 森を出るついでだし!」


 何とかしがみつくジュリエットから逃れたキリアンは、室内の少し離れた場所からそう提案した。


「実家……。そうですわね。少し取りに戻りたいものもありますし、ついでに寄らせていただきます。それでも、すぐに帰って参りますからね! だから寂しくありませんわよ、キリアン様!」


 思わぬ提案に、ジュリエットは両親や弟のマルセル、マーサにだって会いたくなって来た。

 けれど愛するキリアンとも離れがたく、メノーシェ伯爵家では少し顔を合わせたら帰ることに決めた。


「いや、ゆっくりして来いよ。俺も色々仕事で暫く忙しいしさ」

「いいえ! 私がキリアン様と離れがたいのです! すぐに帰りますから、待っていてくださいませね!」


 相変わらずのジュリエットは、拳をギュッと握ってヨシッというように自分を鼓舞するポーズを取った。


「ジャン……頼んだぞ」

「ははは……ッ! キリアンも強引なお嬢には負けるな」


 可笑しそうに笑う親友に、じっとりとした視線を向けるキリアンであった。








 





 


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